|
戻る (あ〜・・・やべ・・・昨日夜更かしし過ぎたか・・・。) 工事現場でバイトに勤しむ高校生―――如月真治はぼーっとした頭で働いていた。 どうやら昨日買ってから夢中になってやっていた新作ゲームが原因であまり寝ていないらしい。 (ねむ・・・・・・。) 鉄骨を運びながらも、目が虚ろだ。 周りの人間も、若干心配そうに真治を見ている。 そして真治は――― 「おい真治足元―――」 (・・・ん?) 足元の鉄骨に気付かずに思いっきり転んだ。 (・・・あれ・・・?) 「ねーねー、なんか降ってきたよ〜?」 霧のたちこめる湖の畔、真治は何かに突っつかれていた。 (声近いし・・・・‘なんか’って・・・俺?) 「わ・・・ほんとだ・・・。」 「人じゃないの?それ。」 (人じゃないのって・・・人以外に何があるって言うんだよ・・・もう・・・。) 頭の中をぼーっとさせつつも、なんとなく気分を害した真治。 そこで初めて疑問を持った。 (そういえば・・・なんで湖・・・?) 自分の家の近くに湖なんてものはない。 バイトをしている工事現場からでも、少なくとも3km圏内には湖なんかなかったはずだ。 わざわざ運ばれた、とも考えにくい。 とりあえず失礼なやつらの顔ぐらい確認してやろうと思い、真治は顔だけを声のほうに向けた。 そこには――― 「・・・生きてるの?」 「どーだろー?」 「動いたし、生きてるんじゃない?」 3人の少女が‘浮いて’いた。 (・・・夢?) 最初に頭の中に浮かんだのはそれだった。 しかし真治は夢を夢だと気付いたことはない。 少なくともそんな自分がそう思ったということは夢ではない気がした。 (・・・ってことは現実?) ふと考え始めると、自分が寝ている地面の感触も、湖の畔のせいと思われる涼しさも、感覚ははっきりしている。 しかし何よりも信じられないのは‘浮いている’少女たちだった。 「え・・・どうしよう・・・?」 「とりあえず起こしてみる?」 「起きて起きてー。」 「・・・ん・・・。」 とりあえず、そろそろ突っつかれるのもイライラしてきたので真治は起き上がった。 「・・・で、あんたらなんなの?」 「あ・・・言いたいこと先に言われた・・・。」 「おー、喋った喋った。」 「私達は、騒霊演奏隊〜。」 「騒霊・・・なんだって?」 まだ寝ぼけているのか、頭が覚醒していない。 言葉が右耳から左耳へ抜けていく。 自分で言った言葉にもいまいち確信が持てない。 「騒霊演奏隊。・・・知らない?」 「・・・ああ、まったく知らん。なんのバンド名だ、それ。」 「バンド・・・?なんのことかわからないけど私達はお呼ばれしたりして音楽活動してるんだよ。」 涼しさに段々頭がはっきりしてくる。 とりあえず、まず間違いなくあの3人の少女は浮いている。 そしてこの湖はまったく知らない場所であることも間違いない。 「あ〜、うん。で、その音楽隊がこんなとこで何してるんだ?」 「何って、うちの前にあなたが降ってくるから・・・。」 「は?降ってきた?」 3人の少女のうちの1人―――金髪の少女が少し言いにくそうに、1人言のように呟いた。 「そーそー、こう・・・ドーンって。」 身振り手振りまで交えてまた1人―――銀髪くせっけの少女が楽しそうに話しかけてくる。 「そんな音はしてないけどね〜。」 最後にもう1人―――なんとなく悪戯っぽい笑みを浮かべた少女も流れに乗ってくる。 とにかく聞く限りだと、真治は降ってきたらしい。 (・・・到底信じらんないけどな・・・。) しかし今の情報源はこの3人だけ。 「とりあえず・・・うち、入る?」 「ん?」 ―――少女3人のうしろには、少し古びれた洋館が建っていた。 その後話を聞いたところによると、金髪の少女がルナサ・プリズムリバー。 銀髪くせっけの少女がメルラン・プリズムリバー。 最後の悪戯っぽい笑みを浮かべた少女がリリカ・プリズムリバーというらしい。 名前でわかる通りの三姉妹らしく、性格は見事に似ていない。 3人は演奏家で幽霊・・・というか騒霊でこの3人の産みの親はもういない。 ここは幻想卿という世界で幽霊やら妖精やらがいっぱいいる・・・と、明らかに現実とはかけ離れていた。 「で、本当はここどこ?」 「あぅ・・・信じてないね、この人・・・。」 「どうすれば信じるかな〜・・・?」 「あ、これはこれは!?」 するとメルランはトランペットを床に置き、楽器から離れるとトランペットが勝手に演奏を始めた。 「ね?信じてくれる?」 「・・・どういう仕組みだ?」 これでも俺は現実主義者(リアリスト)のつもりだ。 そんなあっさり信じられない。 「種も仕掛けもないよ〜。なんなら触って確かめてごらん?」 「ああ・・・。」 真治はまだ鳴っている楽器に手を伸ばし、持ち上げた。 未だにトランペットは演奏を続けていて、触っていても振動が伝わってくるからこのトランペットが鳴っているのは間違いない。 でも、どこを探ってみても思っていたスピーカーや、マイクは出てこない。 本当にこの楽器がなっているようだった。 「・・・ほんとになってるな。」 「でしょ?幻想卿に来たってことはお兄さんも何かしらできると思うよ?」 「何かしらって・・・。」 「例えば、こうなればいいなあ、って思ってたこととか。」 「ん〜・・・・・。」 ふと考え、腕を伸ばしてみた。 するとその腕が伸びきることなく、するすると伸びていく。 さらにその状態で物に触ってみるとペタペタとくっつくような感じだ。 「ほらね?信じた?」 「・・・まあ、確かに。」 自分の身に起きてるようでは、さすがに信じるしかない。 この身体が証明してしまっているのだから。 確かにこんな世界でも、黄泉の国、と考えればなんとなく理解できる気もする。 「・・・ところで、俺はここにいてもいいのか?」 「ん〜、私はいいけど〜?」 「別に、うん、私はいいよ。」 「あたしもいいよー。」 「じゃあ大丈夫ー。」 メルランがいかにも楽しそうに宣言してくれた。 行動力と身長から見て、どっちかというとルナサよりもメルランが長女に見える。 「そしたらそしたら、今日はもうご飯だよね!?」 メルランが話が終わるやすぐに、子供のように切り出した。 ・・・一瞬その『ご飯』が自分じゃないかとひやっとした。 「今日はルナサが当番の日だもんね〜。」 「ルナサ姉のご飯おいしいもんね〜。」 「そんなに上手いのか?」 「そんなことないと、思うけど・・・。」 「上手だよ〜。・・・少なくともメルラン姉よりは・・・。」 じとー、っとした目で、リリカがメルランを見る。 メルランは一瞬にして目を背けた。 「メルラン姉の当番の日は悲惨だもんねえ・・・、最近はカップ麺とかレトルトばっかりだし。」 「あぅ・・・。」 そこまで言われているのを見ると逆に食べてみたい気もする。 「とにかく。・・・私は部屋で練習してるね〜。」 「それじゃ、私も部屋行ってようかな。」 メルランとリリカはふわりと浮かび、洋館の2階へ行き、それぞれ扉の中に入っていった。 結局、ルナサと真治だけが残される。 「え・・・と・・・俺はどうすれば?」 「空いてる部屋適当に使ってくれればいいよ。」 「・・・あのさ、俺もしかしてなんかした?」 「え・・・?なんで?」 「いや、なんかあんまり喋んないし、怒ってんのかな〜、って。」 ルナサはあまり話そうともせず、話してもあまり顔は見なかった。 「元からだから・・・。」 むしろ今の発言が期限を損ねたらしい。 「あー、いや、その、悪い。」 「別にいいよ。さてと―――」 ルナサはふわっと浮くと1階の奥の方の扉に向かって飛んでいく。 「あ、ちょっと待てよ。」 真治も腕を伸ばし脚を伸ばし、慣れないながらも追いかけた。 「ん〜・・・最近冷えてきたしなあ・・・。」 「よっ・・・と。献立作りか?」 「そんな大したものじゃないけど・・・まあ、うん、そんなとこかな。」 「しかしあれだな。あそこまで言われてるのを見ると、メルランの料理も食べてみたいもんだ。」 少し笑いながら冗談めかして言ってみると、さっきよりも明らかに怒った表情で、ルナサが見ていた。 「そういう人の苦手な部分をからかう対象にするの、よくないと思う。メルランだって頑張ってるもの。」 「あ・・うん、確かに・・・そう、だよな。うん、すまん・・・。」 妹だから、というよりもそういう人を悲観したりすること自体が嫌いなようだ。 謝ると少しだけ真治のことを見たあと、また献立を考え始めた。 「・・・シチューでいいかな。最近作ってなかったし。」 ぼそ、と呟いて、ルナサはすぐに色々食材を取り出し始めた。 「えーっとだなあ・・・何か手伝うことあるか?」 「手伝ってくれるなら、お野菜洗って欲しいな。その間に他の準備してるから。」 「うし、まかせとけ。」 じゃがいも、にんじん、白菜などなど人間(だった頃?)にも馴染みのある食材だった。 水道もあるし、ぶっちゃけ人間界と大差ない感じがした。 意外に、ここでも上手くやっていけるかもしれない。 「ふぅ・・・これであとは煮込むだけ。」 「お疲れ様。」 近くにあった椅子を差し出すと、ルナサはすっと座った。 「ありがとう。」 「しかしほんとに手際いいな。あっという間だ。」 「慣れれば誰でもできるよ。メルランもやらないからできないだけで、ちゃんとやればできると思うし。」 なんだかんだ言っても褒められるのは嬉しいらしく、顔が少しはにかんでいる。 その笑顔は、見た目相応の少女らしい初めての笑顔だ。 「そういえば、騒霊演奏隊だっけ?こっちだと有名なのか?」 「ん〜、それなりに知られてると思うよ。少なくとも無名ではないはずだし。」 「じゃあ、あれか。ある種幻想卿のアイドルみたいなもんか。」 「あ、アイドルなんて・・・。」 『アイドル』という単語に、ルナサは頬を赤く染めた。 照れ屋でもあるらしい。 (・・・なんかこういうとこ可愛いな・・・。幽霊らしいけど、そういうとこは人間と変わらんのか。) 「・・・真治さんのことも、少し教えて欲しいな。」 「俺?特になんも特徴的なとこないぞ?ただの学生だよ。」 自分で改めて考えてみると、やっぱりただの学生だ。 でも、他のやつらよりは勤労学生かもしれない。 「ん〜、まあ、他のやつらよりはバイトとか忙しかったかな。まあ、一人暮らしだったし働かないと金手に入らないのもあったけど。」 「じゃあ、毎日忙しかったんだ。」 「まあ、毎日休む暇はなかったなあ・・・。だから寝ないときとかもあったしな。・・・やばい・・・話してたら眠くなってきた・・・。」 「大丈―――」 真治の意識は、そこで途切れた。 「ん・・・あ・・・?」 「あ、起きた?」 「・・・俺、何してた?」 ルナサと話してたところまではなんとなく覚えているが、そこから記憶がなかった。 一体どれぐらい寝たのか。 「びっくりしたよ。いきなり寝るんだもん。」 よっぽど疲れが溜まってたのか、それとも環境が急に変わったせいか。 そして今は・・・。 「ん?」 正面でルナサが自分の顔を覗き込んでいる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 起きたのを見て覗き込んできた、とも考えられるが、頭のうしろの感触は床にしては柔らかすぎる。 「んと・・・俺もしかして膝枕されてます?」 「?・・・うん、してるけど?」 顔が急速に熱を帯びていく。 (っていうか、なんでルナサはなんの恥ずかしげもなく膝枕とかしてんだよ・・・。) これでも一応彼女いない暦=年齢17歳である。 はっきり言ってこういうことにはまったくもって免疫がないのだ。 「あれ・・・?駄目だった・・・?」 「いや、駄目ってことはないけど・・・。」 「さっきメルランが来てこうしてあげるといいって言ってたんだけど・・・。」 (ナチュラルに信じすぎだろ・・・、違和感持てよ・・・。) そしてなにより問題は――― (ルナサが可愛いのがなあ・・・。) 真治にとってルナサが普通に可愛い女の子であるというところである。 そのせいで異常な心拍数を身体が示し、意味のわからないレベルの熱を帯びている。 「あ、あとみんなもうご飯食べちゃったよ?私もまだだから一緒に食べよう?」 「あ、ああ、うん。」 真治はなんとなくうしろ髪を引かれる感覚を無理やりに引き剥がしつつ、身体を起こした。 起き上がってしまったことに後悔を感じている自分がいるのはこの際無視である。 「―――はい。」 「・・・はい?」 再び起きたときのような衝撃に襲われる。 「・・・どうしたの?」 (どうしたのじゃねええええええええ!!!) 今度はルナサが当たり前のようにシチューをすくったスプーンを自分に差し出していた。 (これはあれか?俺がどんな男か試されてるのか・・・?) 一瞬そんな考えがよぎったが、それはない。 ルナサは多分、そういうことが嫌いなはずだ。 「・・・もしかしてこれもメルランが言ってたのか・・・?」 「・・・よくわかったね?メルラン私より人と接すること多いから色々知ってるみたい。」 (メルランのやつ・・・ルナサからかって遊んでやがるな・・・絶対・・・。) 「それより、早くしないと冷めちゃうよ?」 (ああ、もうどうにでもなれ!) 真治はやけくそになりつつ、陰でメルランとリリカがこちらを覗いているのを視界の陰に捉えつつ、そのシチューを頬張った。 |