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「雨勝ちな日に」



暗転。
雨の音。ラジオの雑音大きくなり小さくなる。ラジオの声が重なる。
「・・・関東地方に朝方から降り始めた雨は、午後にはいっそう激しくなり、一部では雷を伴う雷雨に
なるでしょう。それでは、道路情・・・」(雑音とともに切れる)

スポット1 窓を照らす雨の音強くなりつつ光を絞る。暗転。雨の音切れる。
スポット1&2 明転。中央の机を照らす。裏方から包丁を使う音
声のみ

女2 「ちょっとあんた。いい加減に起きなさいよね。いくら日曜の食事当番が私だからって、一人で
    ぐうぐうねてていいわけあるか!・・起きなさいよ、ほら!」
女1 「(眠たげに)んーだって目が重くてあかない・・・ 」
女2 「そんなのわかってるわよ。ほらほらココアでも入れてあげるから」
女1 「あんたのまずいからいらない・・・だからねかせ・・・」
女1 (聞く耳持たず)「ふうーんそう。・・・・なら自分でやれ!! とっととおきるの!」

スポット1つく。女 1ひたすら眠たげに登場。パジャマ姿。目覚めようとしながら窓際まで行き 出窓
に座る。

女T 「なんかさーあ」
女2 「(裏から怒鳴る)なに!?聞こえない!」
女1 「(声を張り上げて)なんかさあ!近頃(ため息)なんか近頃ぼーっとしちゃって・・・ 」
女2 「(怒鳴り返す)そんなのいつもでしょ!!」
女1 「あ、いやその・・そうだけど、・・そうじゃなくてさ、なんか違うんだいつもとは・・」

間。(返答を待つがこないから)

女1 「なんだか、こう、世界が透明なのに、自分だけ不透明な存在でさ、浮いちゃってるっていうか
    ・・・うん。そんな感じでさ。逆でもいいけど。とにかくなんか違うんだ。周りと、私とが」

雨の音少し強く。女1窓に手を かけて

女1 「ねぇ、雨が窓に残す軌跡っておもしろいよね。こんな日は思わず出窓に座り込みたくならな
    い?ほら、だからカーテンもおしゃれにしたんだ。(女2静かにお盆にココアを入れる道具をも
    ってでてくる。スポット2女2を照らす)淡いピンクのレース。(カーテンをなでて)こうする
    とちょっとロマンチックじゃない・・・」

同時に女1女2

女1 「柄でもないけど」
女2 「柄でもないくせに」

女1、女2をねめつける。が女2素知らぬ顔で

女2 「台所にいると、こっちのことが全然聞こえないわ」
女1 「聞いてたじゃない」
女2 「(しれっとして)最後のトコだけね。どーぞ?ココア。・・の道具 」

机におく

女1 「あんたねえ」
女2 「まずいんでしょ? 私のは。それに起きたと思えば人のこと手伝いもせず窓際に座り込んでぐ
    ーたらしてるようなやつにサービスしてあげる義理はないわ」

女1渋々コップを取り上げてココアの粉末をコップに入れながら

女1 「・・・・。だって雨だし、ショッピングだっていけないし。(振り返る)洗濯物だって干せない
し。そう、それにこんな雨の日はどうせ暇なんだから(流れるように一気に)10時くらいにゆ
    っくり起きて、猫の絵のマグカップに熱いココアなんて入れて、パジャマのままで窓際に行っ
   て雨を見ながらいろいろと考え事をしたくなるのよ。たとえ寒くなったとしてもココアを飲めば
   温かくなるし」

女2あきれている。いすに座って脱力
雨の音、風を伴う嵐に変化
女1、外を見ながら妙に明るく。

女1 「ホラ、雨が強くなってきた。やっぱこうでなくちゃ。しょぼしょぼ降ってるのなんて(強く)
    大っ嫌い。」

女2,女1のそぶりを興味深げにみている

女1 「だって濡れようとおもって外に飛び出しても、思うように濡れないんだもの。白い木綿の服を
   着て、白いスニーカーを裸足につっかけて外に出るの。本当は裸足がいいんだけど、ガラスがさ
   さったこと、あってね。やめちゃった。・・・・・・すっごく気持ちいいんだ。なんだか、このま
   ま自分が溶けていっちゃうみたいで、さ。(表情口調が暗く)・・・だから、やるときは本気で濡
   れないとダメ。髪も服もべったり付くくらい激しくびしょぬれにならないと・・・・・そういう
   感覚、味わえないから。(窓の方を向いたまま)」

女2、女1を見つめたまま、ひじをつく。ちょっと間

女2 「今日日曜だよね・・・・」
女1 「・・・・・うん」
女2 「・・・ヒマなの?」
女1 「・・・・・・・・うん」

女2,窓の外を見て

女2 「雨・・・・降ってるね、はげしく・・・」
女1 「うん・・・・」



女2 「・・・・そこまではげしくなかったの・・・・?」

長い間

女1 「・・・・・うん・・・・」

コップ握りしめたまま、後ろを向き首落とす。

女1 「・・・だから、私、アイツとわかれたんだ・・・」
女2 「・・うん」

女1,お湯を少しコップに入れて、スプーンでかき回しつつ。

女1 「(つとめて明るく)うまくいってるつもりだったんだよ? でも、なんかダメだったみたい・・
   ・・・。別に別れたかったワケじゃない・・・。アイツ、ホントにいい奴だし・・・・結構気に
   入ってたんだ・・・本当だよ?」
女2 「ねぇ・・・」

女2、なにか言いかけようとする。 言い終わる前にチャイムの音

女2 「・・・誰かな」
女1 「(明るく)新聞の集金じゃないの・・・・・? 面倒だから出るのやめようよ。ほっとけばいな
   いと思うよ。(2,3回チャイムの音)しつこいなぁ・・・まだ鳴らしてる。 (さらにもう1回)
   しつこいってば!!(ヒステリックに、耳を押さえ)早く行ってよ!!」

静かになる。女1の荒い息づかいのみ。しばらく間

女2 「それで・・・・どうなったの・・・?」
女1 「(何気ないフリをして。かちゃかちゃとひっきりなしにかき混ぜる)んー、なんかアイツの方が
   気に入らなかったみたいでさぁ・・・・仕方ないな、っておもうんだけど。結構好き勝手してた
   しね。・・・・・驚かなかったわけじゃないわよ? ただ・・・・いつも通りちょっと遅刻してっ
   たらさ、珍しく怒ったような顔していきなり、別れようって・・・・アイツが・・・・。(爪をか
   む) そんなこと顔には出さなかったけど・・・・・それなりに・・・それなりに予想外だった
   もの・・・」

お湯を入れる。のむ

女1 「あ・・・おいしい。飲む?」

女2,首を振る

女1 「そう・・・(残念そうに)ココアってさ、簡単に見えるけど、結構難しいのよね。市販の奴でも、
   砂糖入ってるのと入ってないのとあるじゃない? そういうの間違えると最低だし・・・難しい
   のはお湯入れる時。固まりになっちゃって、あとでスプーンでかき回したらどろっとしたのがの
   っかったりさぁ。あと、入れすぎて味が薄いのなんてサイアク! 濃けりゃクロワッサンに浸け
   て食べればそれはそれで美味しいけど。それが嫌な子は、鍋で煮るみたいね。ご苦労様、ってか
   んじ。凝っちゃうと、砂糖入ってないの買ってきて、色々ブレンドしてみたりするって聞いたわ
   ・・・・まぁ、それはそれで美味しそうだけど、そこまで根性ないなぁ・・・・。外国製のマシ
   ュマロ入ってる奴は、この前友達に勧められて飲んだけど、結構いい味してたよ」

PHS鳴り出す。視線向く。

女2 「・・・・あなたのピッチ」
女1 「え・・・?(窓に寄っかかり)私?(爪をかむ)誰からかな。日曜のこんな時間に。(明るく)
   サークルの先輩かな?それとも・・・−親だったらまずいかも。最近仕送りの中身減っちゃって
   さぁ・・・。どうも信用落ちてるらしいんだわ、これが。(自嘲気味)ま、信用されるようなこと
   してないけどね。でもさぁ、せっかく片田舎から東京にでてきたんだもの、帰るのはごめんよ。・
   ・・ねえ、まだ鳴ってるね・・(爪をかむ)さっきのチャイムよりしつこい。(数回なる)・・・案
   外これもさっきのチャイムも、アイツだったりして(笑おうとする)」

それに畳みかけるように女2

女2 「でないの?」
女1 「・・・もう切れるよ。取りに行く間に」

鳴り続ける。女1顔をゆがめてゆっくりと電話の近より手を伸ばす。がふれる直前に切れる。ひっつか
んで耳に当てる

女1 「もしもし!もしもし!!」

停止。間。

女1 「あは・・・切れちゃった」
女2 「また、でればいいよ」
女1 「また?またなんてあるのかな」
女2 「用がなければ電話なんてかけないよ」
女1 「・・・そうかな」

鳴り出す電話。
女1&女2さっと電話をみて顔を見合わせる

女2 「ほら」
女1 「まさか、あいつだったらそんなすぐにかけ直してこないよ。絶対、絶対アイツ5分以上たたな
   いとないとかけ直してこないんだ」
女2 「貴方への電話だよ」

女1電話をとる

女1 「 もしもし?もしもし!!・・・・・・・・・・・お母さん。なんだ。え?ううん何でもない。
   ああ、ごめんってば。うん。ちょっとほかのことしてて。ん?・・寝てないよ。うん。うん。次
   の休みには帰るよ。うん。わかってるってば。・・うん。連絡するよ。うん 。今ちょっと・・・
   だから、違うって。はいはい・・・わかってます。じゃあ。うん、またね。」

電話を切っておく。

女1 「あは・・・親からだった」

女2ちょっとまずったといった顔をする。

女1 「(揶揄するように)なに?その顔。私全然平気だよ。別にかまわないんだから。ほら平気な顔し
   てるじゃない。・・・・(苦しげに)涙なんてでないじゃない。(すごく嫌そうに。吐き気がする。
   といった顔で)あたし泣けなかったのよ。一滴も涙なんてでやしなかった。ショックだったのに。
   あんなに好きだったのに。・・・(呆然と)すっと受け入れちゃったの。嫌になるほどすんなり。
   自分でおどろいちゃった。あんなに好きだった(強く)はず・・なのに。考えれば考えるほどば
   からしくなって、そうすると笑いたくなってきちゃって。(静かに&暗く)一滴も涙なんてでやし
   なかった。泣けないあたしがピエロみたいで、ますます笑えてくるの。・・・・・・。」

窓を背にして寄っかかって上を向く。女2ひたすら見つめている。

女1 「私悲しくないのかもね。悲しくないから涙も出ない。悲しいことがないから悲しくない。じゃ
   あ、私、アイツのこと本当は好きでも何でもなかったのかも。今苦しいのはきっと私のあまりの
   馬鹿さかげんに、私が自分に愛想を尽かしてるんだわ。好きでもないのに楽しかったのは錯覚。
   好きだと思ってたのも錯覚。今苦しいようなきがするのも錯覚。きっと本当は何にも感じてない
   から、みんなどうでもいいから、今こんなになにもかもがばからしくて仕方ないんだわ」

間。雨の音少し強く。

女1 「一人でぺらぺらしゃべってバカみたい。本当にごめん。お詫びに手伝うよ、食事の支度」

女1うなだれたままPHSを机におく机の後ろを通過しようとしたとき女2姿勢を正して

女2 「ねえ(女1女2をみる)私のおじいちゃんの葬式の時のことなんだけどね(女2視線を合わせ
   て)わたし、まだそのとき小さくて、葬儀の日に雨が降ってきて、とっても嫌な気分になったの。
   だって雨が降ったら焼香のたちこめる室内にずっといなきゃいけなかったし。だからそこにいた
   母に思わず文句をいったら、母は葬儀の時に雨がふるのはいいことだって言うわけ」
女1 「どうして?」
女2 「と、わたしも思って聞いたの。そしたら、
   『みんなの故人を思う気持ちが雨になって代わりに泣いてくれてるんだから』って」

女1はっと窓を振り向く。
窓に近づく。手を伸ばして窓にふれる。
女2そっと退場。スポット2追いかけて楽屋にはいった時点で消える。
女1窓につけた手に額をつける

女1 「ありがとう、雨」

女1ふっと手を離して<ゆっくり>退場。スポット1追いかけるが光の中にぎりぎり入らないところを
追いかける。楽屋の壁を照らした状態で止まる。
スポット2最大限に絞って窓を照らす。同時にスポット1消える。
雨の音強くなって、最高音スポット2暗転。すぐに電話の音一回鳴る。二回目の前に電話の音&雨の音
ぷつっと切れる。
無音。

・・・END。


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