ノート2:光景編



ぬくもり  2000.7.20.


陽射しはそろそろ弱り気味でも
風が暖かいので
もうちょっと
外にいようかと思う

珍しく
人通りのない道を
サンダルで さくさく と歩いていると
世界を独り占めしているような
錯覚と充足

今だけは
この温かさの全てが
私の為だけにあると
思わせて下さい

もう少しだけ
得意げに笑っていさせて下さい

頼み込んだ心に
答えるように
暖かい風が また
私の横を通り過ぎた



黙考  2000.7.25.


手には携帯電話
眉間にしわを寄せて
柱にもたれかかる女性

稼動していない
通信手段を見据えて
届かない思いのことでも
考えてるいるのだろうか



よかった。  2000.7.25.


柱の陰で
淡く
光る携帯の画面

ひとりぼっちの立ち姿の
心は
どこかと電波で繋がっている



  2000.8.18.



降るたびに 世界が
大きな鏡へと変わっていくから

映った紅い雨傘の
中の私の表情を
見ないように
前だけを見る



悲哀  2000.8.23.6.


私が聴いたのは
雨の泣き声
最愛の人が逝ったのだと
一瞬で分かるような

私が見たのは
空の呻き
胸にしまい込もうとする悲哀が
指の狭間から漏れ出る激しさ

低い声が
この世界を支配する
私達の柔らかい
心のヒダに そっと
自らの悲しみを刷り込んでいく

分かち合う者を失った
王者の心の澱みは
作られた私達が
少しずつ 分け持って
昇華する



ささやかな対話  2000.8.28.


雨上がり
アスファルトは明暗のある砂の塊
人が足を下ろす時だけ
さっと固まって知らぬ顔

かつん

響く音は
この世界の裏側の
もう一人の僕と
ぴったり重ね合わせた2つの靴が
醸し出すもの

硬質な音が生まれた瞬間の
背中を駆けめぐる快感を
もう一度 もう一度と求めて

みぎ ひだり みぎ ひだり

意識的に
足を出す



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