その十四・「目に刺さる表現」
目に刺さる表現 − これは小生が通う大学の講師がある授業で使った言いまわしである。その講師が大阪の繁華街を歩いていた際、ある百貨店の前を通ったとき目に付いた張り紙があったという。「今月は休みません」。ここまで話を聞いたとき、「なるほど、巧い表現だな」と感服した。確かにこの張り紙の文句は「目に刺さる」のである。つまり目に入ったときにすんなりと受け入れられない、違和感を覚える文字や文章に出くわしたときに使う表現なのだ。この場合、日本人の目にすっと入る表現に直すとすれば「今月は休業いたしません」、「今月は休まず営業させていただきます」といったところか。
関西を代表する大手百貨店のお知らせ文でさえこのありさまである、いったい日本語はこの先どうなるのかと思うと胃に穴があく思いだ。こんな話もある、ある作家が女性を連れて品のある高級フランス料理店に入った。そのときのウェイターの言葉が「本日は一風変わった調理で食っていただこうと思います」。その作家は一瞬冗談かと思ったらしいが、どうやら向こうは本気だったらしく、その後の食事もおいしいものではなくなってしまったのは言うまでもない。
日本は「言霊の幸わう国」と呼ばれるほど言葉の表現が多種多様で、一語一語に力がある。人が発した言葉はあるとき言葉以上の力を宿し社会を動かすようなこともある。日本人が無意識的に束縛されている得体の知れない「言霊」。小生はこの言霊の研究も後々やってみようと思っている。日本って本当に奥が深い。
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