四国八十八ヶ所おへんろ旅
2003.3.18〜2003.3.27

二十三士温泉の朝食
二十三士温泉の朝食



神峯寺への坂、入り口付近
神峯寺への坂、入り口付近

四国八十八ヶ所おへんろ旅・高知編
第十九話「最悪な朝」

 3月23日(日)。4時起床。昨夜は右足の足首の筋が痛くて眠るときしんどかった。起きて足を動かすとやはり右足首に激痛が走る。マメはだいぶ良くなっていた。左足は結構万全。しかし体全体が疲弊しきっている。この調子だとやはりさほど歩けそうにない。私の本能が「一日中布団の中で寝ていたい」と言っている。

 7:00に朝食。体がだるくて食堂まで行くのがつらい。朝食券を渡して待つこと・・・・・なんと25分!!おかしい。7:00に予約しているはずなのだからサッと出てこないこと自体が変だ。私より10分以上後に来た一般客の方が早く食べているじゃないか。朝食券を渡した店員の若い女性に「まだですかっ!」と怒りを込めて言うと、「お待ちください」と厨房へ。しかしそれからまた5分・・10分・・・まだこない。結局朝食が出てきたのが7:50であった。はっきり言って最初の25分間は注文自体が忘れられていて、こちらが訴えたらやっと思い出して25分かけて慌てて作ったのだろう。しかしそもそも宿泊客はチェックイン時に朝食時間を指定しているのだから、そんな手際の悪いことは許されない。ていうか、普通50分も待たせるか?数えるほどしか客はいなかったというのに。あまりにブチギレたので、朝食の味などさっぱりわからなかった。今日は連泊でゆったり出来るからこそ時間の都合がつくものの、いつもの日程ならきっと「朝食などもういらん!」と怒鳴って出立していたことであろう。さすがに悪いと思ったのか、食事を運んできてくれたおばさんが「お昼に食べてください」とおにぎりをパックに入れて持ってきてくれた。しかしなんだか素直に喜べない心境であった。出立時、フロントのお兄さん(昨日朝食の時間を聞いた人)に事の次第を語ったら、お兄さんは眉をひそめて「50分も待ったんですか!」と驚き、すぐに食堂に飛んでいき、戻ってきてから何度も「すみません」と謝ってくれたのだが、これ以上余計な時間も無かったので、複雑な気分のまま8:10に出立した。

 今日は足の調子が最悪なのに朝から気分も最悪だ。今朝は全くついてない。しかし次第に朝のすがすがしい雰囲気で気分はほぐれていった。片方の手にはナイロン袋に納経帳とおにぎりを入れて持ち、もう片方の手には金剛杖を持つ。背中に荷物を背負っていないので多少は足が楽だが、右足に体重がかけられないのでビッコを引いている状態である。無理しないように歩いているので時速2キロ程度。のんびりのんびり進んでいく。途中、コインランドリーで洗濯をしている荷物の多そうな若い男性遍路を見かける。野宿遍路かな。軽く声をかけて通り過ぎる。10:20すぎ、自動販売機で飲み物を買い、27番神峯寺への坂道を登り始めた。

 最初は民家がぽつりぽつりとあったが、次第に道も細くなり急角度になっていく。この神峯寺への坂はかつては「まったて」と呼ばれていた。つまり垂直のように急角度な難所の坂道であるということだ。過去お遍路さんはこの難所に泣かされてきたらしい。現在車道が通り綺麗に舗装されてはいるが、その車道でさえもマニュアルだと坂道発進したくないと思えるぐらいの坂だ。しばらく登っていくと昨日のおば・めいコンビが下ってきた。「今日はどこまで行くの?」と問いかけると、ここから30キロ先の宿までと笑って去っていった。まぁ彼女たちならいざとなればバスを使うだろうから何としてでも行き着けるだろう。「さようなら」と言ってまた上を目指して登っていった。
27番神峯寺
27番神峯寺



納経所でのお接待
納経所でのお接待



昼食のおにぎり
昼食のおにぎり

四国八十八ヶ所おへんろ旅・高知編
第二十話「まったてを歩く」

 山の中腹辺りに至ったところで、朝コインランドリーにいた男性遍路に追い抜かれた。またしばらくして「とくます」で同宿だったおばさん遍路が下ってきた。この神峯寺へのルートは行きと帰りが同じ道なので、ここ数日見知った顔とすれ違う確率が高い。頂上近くなり車道と獣道の遍路道コースに分岐した。上りは遍路道、下りは車道の方がよいと聞いていたので、遍路道へ足を向ける。するといきなり足を踏み外すと谷底まで落ちそうな足場の悪い急角度な土の道が始まった。これこそが「まったて」だ!足下に十分気をつけながら登っていく。しかしいくら昨今歩き遍路が多くなったとはいえ、ここで落ちたら誰も気づいてくれなさそうだ。下りは車道の方がよい、という情報の意味がよくわかった。しかしそんな難所の遍路道を頑張って下ってくる若い男性遍路が一人いた。見た感じ山登り好きという雰囲気だ。「あと少しだ、頑張れ!」と彼は私に声をかけて下っていった。その言葉を受けて頑張って登っていったのだが、なかなか頂上につかない。彼の「あと少し」と私の「あと少し」はだいぶ隔たりがあったようだ(笑)。

 登り口から約1時間半、ようやく27番神峯寺に到着。神峯寺からふもとの方を見やると素晴らしい景色が見られた。足は思ったよりも調子よく進んだ気がする。平坦な地を歩くより、角度がある山道の方が今の状態では楽なようだ。ふもとで買った飲み物はすでに尽きている。しかし神峯寺には自動販売機がちゃんと設置されていた。とりあえずお参りを済ませ納経所に行くと、納経所の人が私を見て言った。

納経所の人「歩き遍路の方ですか?」
私「はい、そうです。」
納経所の人「お茶をお出ししますので、そちらの縁側で待っていて下さい。」
私「ありがとうございます〜。」

というわけで、神峯寺の納経所でお茶と羊羹のお接待をいただいた。これがなかなか美味しかった。納経所のすぐ前には「神峯の水」という名水が湧いていて、みんな柄杓ですくって飲んでいたので私も一口飲んでみた。はっきりいってタダの水だったが、自動販売機も車道もない時代はきっとお遍路さんの命の水になっていたに違いない。

 そろそろお昼の時間になっていたが、神峯寺は人が多かったので寺の中で食べることは断念し、少し下ったところにある公園のような広場でベンチに座って昼食とすることにした。朝はものすごく不機嫌であったが、よく考えるとおにぎりのお接待をしてくださったこと自体はありがたいことだった。二十三士温泉から神峯寺までのルート上に、食べ物を買えるところは無かったような気がするのだ。お接待にありがたく感謝しておにぎりにかぶりつく。周囲には梅の花が咲いていて、お花見気分でおいしくいただいたのであった。
神峯寺の麓にある古い道しるべの石
神峯寺の麓にある古い道しるべの石

四国八十八ヶ所おへんろ旅・高知編
第二十一話「悪魔の微笑」

 お昼休憩を終えて下山を始めたのだが、下りの方が足が痛い。痛みを感じる前に足を出し、足を出し、足を出し・・・・・と、とまらないぃぃぃ〜〜!ドドドドドーーーッ!キキーッ!!ぜいぜいぜい。油断をするとマジで足が止まらなくなる。車道はカーブが多いので走るのは危険だ。しかし小走りの方が足の痛みが少ない気がしたので、スピードが出過ぎないように注意して早足で下っていった。途中自転車を押して登ってくるツワモノが何人かいたが、そのうちの一人の若者は息も絶え絶えで私に話しかけてきた。

自転車の若者「神峯寺は・・・まだ・・・上ですか?」
私「(微笑しながら)まだ、だいぶ、上ですよ〜♪」

実際その辺りはふもとから1/4辺りだったので「だいぶ上」という私の表現は正しい。しかしその時の私の笑みは悪魔の微笑であり勝者の微笑であった。まったてを登り切った優越感に浸りながら「がんばって!」と声をかける。自転車の若者は絶望的な表情をしながらよれよれとした足取りで登っていった。

 下山し終えてふもとで時計を見ると14時を指していた。神峯寺に3時間半費やしたことになる。この辺りのバス停から宿に戻っても良かったのだが、せっかく荷物を持っていない好機なので行けるところまで進んでしまおうと心に決める。明日以降の日程を考えると9キロ先の安芸の町まで進んでおく方がよいとの結論を出し、アスファルトの道に耐えながらズルズルと進んでいった。

 しばらくして背後から大荷物を背負った男性遍路に追いつかれた。あれ?この人は今朝コインランドリーにいた青年だ。これで本日三度目である。神峯寺の上りで追い抜かれてからだいぶ時間が経っていたので、とっくに先に進んでいるかと思っていたのに。荷物が重そうとはいえ、ビッコを引き引き歩いている私と同じ距離しか進んでいないというのは相当遅いと言わざるを得ない。しかし彼は何故かスピードは速く、ぶっちぎりで追い抜かれてしまう。おかしいなぁ、どうしてだろう、と疑念に思ったのだった。
コンクリートの道を歩くお遍路さん
コンクリートの道を歩くお遍路さん

四国八十八ヶ所おへんろ旅・高知編
第二十二話「お遍路さんの写真」

 大山茶屋付近の急な坂道を上りきったところで、ある中年の男性に声をかけられた。手に大型のカメラを持っている。

中年男性「お遍路さんの姿を写真に収めて一冊の本にしています。ぜひ写真を一枚撮らせて下さい。」

 実を言うとこういう人がいることはネットの情報で聞き知っていたが、まさか私が出会うとは思わなかった。悪い評判も聞いていなかったので「いいですよ」と軽く言ってしまったが、「じゃあの辺りで・・・」と彼が指さしたのは車道から1本裏の山に入る筋で、廃屋の影になっている茂みの多い寂れた脇道であった。その瞬間、私は躊躇した。あんな車道からも見えない脇道に若い女の子を連れ込もうとするコイツは怪しいヤツではないだろうか・・・。脳裏に危険信号がひらめいたのである。加えてその脇道はやたら急坂だ。歩き遍路は余計な労力を一歩たりとも使いたくないということを、この男性はわかっていないのではないだろうか?そんなこともわからないで本当にお遍路さんの写真を取っている人なのだろうか?

 疑惑いっぱいの私は「足が痛いのであんな坂は一歩も上りたくないんですけどぉ〜」と言ってみた。すると「国道よりは山道の方が絵になるから頼みます」としつこく食い下がる。じゃあ1〜2メートルだけなら・・・と妥協点を出した。それぐらいならまだ車道から姿が見える範囲である。男性はそれでOKですと言ってカメラを構えた。ところがなんと、いざというときになってカメラのシャッターが降りない。「おかしいなぁ〜」と彼はいろいろカメラをいじっていたが、どうやらバッテリー切れのようであった。結局、写真は撮らずじまいで終わった。

 この写真おじさんは「手数をかけたから」という理由で自動販売機でジュースを1本お接待してくれた。「いつもこの辺りにいるのですか?」と聞くと、27〜28番の間でお遍路さんを見かけると声をかけていると語った。もしかしたらこの人は「良い人」であったかもしれない。ただ「国道よりは山道の方が絵になる」という気持ちも分からないではないが、若い女の子を寂れた道に誘導しようとはしないでもらいたい。それにたとえそれが絵になったとしても、私にとっての「遍路道」ではない。そこに全く意義を感じない。車道を必死で歩いている姿も現代のお遍路さんの真実なのである。今歩いているこの道を否定されたとしたら、今歩いている私の行為自体が否定されたことになる。「今、そこにある、自然な姿」を写真に押さえてこそ、その写真集は意義を持つのではないだろうか。写真は撮れずじまいで終わったが、内心ホッとしている私であった。
二十三士温泉の夕食(二日目)
二十三士温泉の夕食(二日目)

四国八十八ヶ所おへんろ旅・高知編
第二十三話「安芸駅まで」

 だいぶ疲れが出てきたが、ここまできたら安芸駅まで歩くぞー!と自分に言い聞かせて進んでいく。途中、自動販売機の横で座り込んで煙草を吸っている若い男性遍路を発見。例のコインランドリーにいた彼でした。その後も追いつ追われつの状態であったので、自然と会話をするようになる。この青年遍路は埼玉の人で、ペースが遅いのは荷物が重いこともあるが、たびたび煙草休憩をするのでなかなか進まないんだと語っていた。なるほど。やっと疑念がとけた。しかし今日は朝の5時頃から歩いているそうなので、距離自体はだいぶ進んでいることになる。普段は野宿をしているが今日は久しぶりに宿に泊まるんだと青年は語り、安芸町に入って宿がある分岐の道で別れた。この青年としばらく会話をしていたおかげで、足の痛みをあまり考えることなく進むことが出来たのは幸いであった。

 安芸駅に行く手前にスーパーがあったのでふらっと中に入ってみた。文旦が安かったので一個購入。高知は文旦が名物の一つだ。安芸駅に到着するとタッチの差で列車が出ていた。とりあえず二十三士温泉に電話をして最寄りの奈半利駅への送迎を頼み込む。宿泊者なら送迎をしてくれるのだ。次の列車まで30分あるので土産物屋をふらふらと見て回り、「焼きナスソフトクリーム」に興味を覚えたので食べてみた。感想は・・・こげた味?(苦笑)。列車の車内では地元のおばあさんと意気投合して長話に興じる。ちょうど日が落ちる時間帯で、ごめん・なはり線の列車の車窓からみた美しい夕暮れはとても感動的であった。奈半利駅から送迎バスに乗る。送迎バスのおじさんは「明日の朝は何時でも最寄りの駅に送ってあげるよ」と親切に言ってくださった。ありがたくその申し出に甘えて7:30に約束をした。

 宿に戻って夕食を取る。今日は親子丼と柚子チューハイで計900円。私的には昨日の和風唐揚げ定食の方が好みだったかも。その後温泉にじっくりと浸かり、部屋で文旦に舌鼓を打ちながらテレビを見つつ、いつの間にか寝入ってしまっていた。

本日の歩いた距離 23.6キロ
本日の万歩計 42903

続く→

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