スローフード 11+8+9+10蛸


【 タコ焼き4 】

 

 

 

 

 

 

誰が提唱したかしらんがスローフード、ってやつ?

時間をかけてねちゃねちゃと飯を食い、

トークを交わし、流るる時間を心地よく体感しながら

とっておきのワインを開けたりなんかする、ソレ。

どうなんだろ?

飯なんてのはチャッチャッチャとすましゃいい、

けっ何がスローフードだってんだ、わずらわしい。くわっ。

と、さ、

あいも変わらず新文化に否定的な自分はやらないうちから丸ごと拒否を決め込み

じゃぁやってみよう、スローフード。

おもむろに踵を翻したのち、

改まって、秋。

知らん間に秋、ってかもう晩秋?

ここのところ俺達ってさ色々あったじゃない、なんか別れるだの別れないだのインドだの

そんな最中にも時間は流れているわけで、季節は巡るわけで、ほら、鰯雲。

つまり何が云いたいのか?っていうと、あの、その、

読書の秋、芸術の秋、食欲の秋

この3秋を一緒にやっつけていこう、ってなわけで、オイ聴いてる?聴いてんの?アキコよ。

だから、秋を満喫したくて、ね、やってみようってこと。

でも、読書も芸術も秋のみならず俺は年中嗜んでいますので、いまさらやる必要はない

だから今日は食欲の秋をフューチャーしてみようと思います。

実生活にスローフードを取り入れ、秋の夜長に、食欲の秋。

正午過ぎ起床。

 

 

俺は今月安値商品のダブルチーズバーガーにポテトLとホットコーヒーをおつけして

まず手始めにマクドナルドでスローフードを試みる、目標はアキコよりも遅く食う。

いつもは4、5本まとめポテトを食い、後半はポテトの入った紙容器から直接口に流し込むのだが、これじゃだめだ

スローフーダーとしては1本づつ口に運び、ねちねち食べなければならない

ハンバーガーもそう、バンズ/パティ/チーズを舌先で感じとりながら

別段噛まなくていいような食べ物ハンバーガーを、いちいちねちゃねちゃ噛み噛みして胃に流す

それに、リズム的な問題で、ハンバーガーを食い終えてからポテトに移行する

もしくは、その逆、ポテトを食い終えてからからハンバーガーに手をつける、ではなく

ポテト、バーガー、ポテト、バーガー、ポテト、バーガーと一口づつ忙しく目標をかえることによって

ポテト⇔バーガー間のタイムロスが積もり積もって丸まるスローフードに昇華され

その小さな努力がようやく実を結び

結果、思いもよらぬほど時間をかけて食うことができる。を発見したのだが。

これはこれで、なんかせかせかしてしまい、ゆったりできねぇ、

これはスローフードの本質じゃないのでは?と薄々感じはじめる

時間さえかければいいってものじゃない。そんな疑惑が生じる。奥が深い。

結果的にアキコよりゆっくり食べることには成功したが

妙な倦怠感が身にしみて、へこへこに疲弊してマックをあとにする

スローフードが未だわからぬまま、晩飯にもつれ込む。

 

 

 

駅前をぶらつき、100円ショップで千枚通しのかわりに竹串、くちばしの尖ったボウル、

スーパーでソース、マヨ、桜海老、タコ、キャベツ、たまごを購入

お好み焼き粉と青のり、あげ玉は家より持参したけど

タコ焼きってけっこう細々したものがいるね。なんて話しながら

今晩のディッシュ、タコ焼きのための買い出しをすまし

部屋に戻る頃には3時過ぎ

タコを切り、キャベツを刻み、小麦粉を水で溶いて準備を整え

焼酎を湯で割り投下した梅干しを箸でつつきながら

これまた家より持参したタコ焼きマシーンを取り出して

テーブルの付近に桜海老あおのり削りぶし等々を配置

あっ桜海老で思い出したけど、こんな時期に花開く桜の木をさっき見た。

夕方4時過ぎ、世間は暗い。

テレビではタレントが外国に行ってなんか観光したり、名産を食う系の番組をやっている

ぼちぼちスローフードを始める。

 

 

生地はあたかも水のごとし

トロトロと粘質でなく、しゃぱしゃぱした感じ

この感じがとても大事ね

だから、ほら、焼き上がりをみてごらんなさいよ、中はトロトロ

それに仕上げにまぶした油が、表面を軽く揚げることによって外はパリパリ

中トロの外パリで、わひゃひゃひゃ旨ぇ

「銀タコ」のガラス戸に張り付いて観察した甲斐があったってもんだ

なんていいながらタコ焼き

生地を流したところへアキコがすかさずキャベツをまぶし

その間に俺が揚げ玉をまぶし

キャベツまぶし終えのアキコは揚げ玉まぶしの俺をかいくぐって、タコを穴に投下

仕上げに桜海老を散らし、ほどなくして竹串でくりんくりんする、この連係プレイ

ここは火が弱いから、コイツをこっちのホールに移動します、そっちを空けてくれ!

なんて云いながら焼酎を飲みのみ

焼き上がりを皿に盛り、ソース俺が先陣を切り続いてマヨネーズアキコ

削りぶし、青のりをまぶし、ハフハフ、かぁぁやっぱ旨ぇ、酒が進む

を、4セットやって

食後のデザートにって、ホットケーキミックスを牛乳で溶き

タコ焼き機にバターがないからマーガリンを塗り、これを流し入れる

タコの変わりに、件のアーモンドチョコを植え込み

焼き上がりを皿に盛り、上から蜂蜜をたらして、ハフハフ

おっこれはこれでなかなか乙な味でげすな、このアーモンドがなんとも、なんとも旨ぇやつって

気付いた頃には7時前

3時間近く飯を食う、スローフードここに極まれり。

 

 

 

 

 

まだ7時前だってのがなんとも小気味よく

シャワーを廃して湯舟に湯を張り、ここでもスローフードもといスロー入浴

なんにでも応用が効く、スロー何何はゆとれる生き方なんだと達観

 

湯からあがり、アイスが食いたいとごねるアキコ

昨日購入したグレープフルーツゼリーを冷蔵庫から出して食わすが

それでもアイスが食べたいとごねるので

コンビニへ行き、俺はもなかにチョコが入ったアイスとアメリカンドッグ

アキコは、220円もする苺のはいったバニラアイスとピザまんを購入

帰る道すがら食べながら歩き

「幾ら食欲の秋でも、マックにタコ焼き、そしてアイスとピザまん/アメリカンドッグ… 最後のアイスは余計やったね」

「うん。余計だったね」

「たべすぎだ」

「たべすぎだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


アーモンド 11+6+7優


【 泣いて亀の目 】

 

 

 

 

紆余曲折あっちゃこっちゃ引っ掻き回しあったけど、

なんだかんだで結局また同じ、もといた所に立っている。

 

晩、終電まぎわの電車に乗り継ぎ会いにいくと、

必要異常にひっついてきて、また泣いて、普段の何倍も優しく接してきてむしろ気味が悪い

風呂からあがって、あれ?タオルねぇやと思いきや

かつかつとタオルを傍らにアキコ参じ「お使いくださいまし。」と献上

うわっ?なんだこの待遇

俺は資産家のボンボンか? いやいや中流家庭の穀潰しだ。

今までならタオルを持ってくるどころか、

「脱衣所水浸しじゃない!ちゃんと拭いてよね。あとトイレの便座もおろしてよね!この甲斐性無しっ!」

「甲斐性無しっ」はちょいと大袈裟だけど、上のように罵るのは日常茶飯で

そのつど「くわっ うっさいわ!今から拭くとこだったんです!」

もしくわ「いちいち便座なんてさげてらんねぇよ!」と反論

なのに今日はそれどころか嬉々としてタオルを持ってくる

あまりの待遇の良さに、気味悪くすら感じ「俺殺されるんじゃなえェのか?」なんて疑念を抱くが

ことを大袈裟に捉えるのは俺の悪しきところ

優しさを無下にする道理はねぇここは甘んじようと思い改め

洗濯機にひっ掛けてある使用済みのタオルを掴み

からだを屈めて水浸しになった脱衣場の床を、拭く。

また、腹減ったと誰にいう訳でもなく呟くと

アキコ、鞄からアーモンドチョコを取り出し「食べて」と差し出す

えっ?なになに?今度は優しさチョコレート??

わぁすげぇな。優しいな。

おーこりゃありがたいと二粒掴み一粒食べ、もう一粒を半分かじり

アキコも食べるか?と半分を差し出すとこれを拒否

そうだよな、寝る前だし、いま食ったら太るし肌にもよくないよな、

なんてことを云いながら半分を飲み込んだ時、あっと気付く、……毒殺?

これは優しさチョコレートでなく、むしろ毒入りチョコレート?

先までのあの生温い優しさはこのチョコレートを食べさすためのいわば伏線

優しさに優しさを重ね、優しさに対して違和感を感じなくなったところを見計らって

つねづね用意していた青酸カリ入りのチョコレートを俺に?

青酸カリは独特のアーモンド臭がするということも踏まえ

あえてアーモンド入りのチョコレートに混入という

「木を森に隠す」に似た手法で、細部にまで工夫をこらした手口?

くっなんたる策士、だからアキコは食わなかったのか!

ともすると、今まで寝る前に食事を控えてたってこともこの日の為の伏線だったのか?

俺が寝る前に何か食べたいと言い出すこともお見通しか?

くっやられた、これほどまでに頭のまわる女なんて思ってもいなかった…

アキコのこの一連の優しさに気恥ずかしさを覚え

脳内で安サスペンス

「俺毒殺事件〜優しさはアーモンドの香り〜」を妄想/でっちあげ

どうにか自分のリズムを保とうと踏ん張るが

押し寄せる優しさに、耐えることなんてできなくて冬。

だらしなく、だらしなく、にやけるのみ。

 

 

 

 


幸せの選択2 11+5誤


 

 

 

 

 

スイマセン、ほんとゴメンなさい、俺が阿呆でした、俺が暴走特急でした。

なんか知らねぇけどアキコの奴、ってかあの餓鬼ときたら

俺の預かり知らぬところでうちの母親とホットコール

つまり、別れた後も母と電話してて、それだけで驚きなんだけど

言うに事欠いて「なんかタクちゃん電話くれないんだけど…」なんてぼやいてやがる

当たり前じゃねェか!こちとらフラれて傷心ど真ん中、

もう悲しすぎてやりきれなくて、来年2月にインドへ行く計画を知人とたてて

んで、夕日の沈むガンジス河を小高い丘の上から眺めて、涙をぐっと堪え果てしなく笑う、つもりでいたのによぉぉ

「私達別れたのかな?」だとぉ? っざけんなっ!

俺書いちゃったよ、昨日しみじみと日記に書いちゃったよ

嘘偽りなく純粋な一番絞りの心の言葉をかき記しちゃったよ

あーもーくそっ 俺の涙を返せ! 

昨日の日記の“真剣に恋愛したんだ、真剣に終りにしよう”の一節

自分で書いてて、込み上がってきたものがあってモニタの前で号泣したんだぞ

あー物凄く恥ずかしい、戻れない、昨日に戻れない

掲示板/メールでは御悔やみ系の書き込みもいただいてるし

あぁ もう ほんとうに申し訳ありません!!

お騒がせしてスイマセンでした!!!

間違ってた、俺、先走ってた、俺。

 

 

でもね、結構アキコも本気だったらしくて、もちろん俺も本気だったんだけど

イライラしてたんだろうね

あいつも「もう好きじゃない」って、まぁ、いろいろなことが積み重なって言っちゃった手前、引けなくて、で、

こともあろうか俺も俺で、いつもみたくヘラヘラとしてりゃいいのに、いつになく真剣に対応しちゃって、さ、

「もう好きじゃない」なんて言われたら立つ瀬ないし、選択肢にあるのは黙って引くのみ、それぞ男。

それから、声を聞いたら情けない気分になるので連絡取らずにいたんだけど

今日アキコから電話あって「なんだろう?」と思ってついつい電話に出ると、

いつになく暗い声で、反省してる、と言い

「いつも別れる話になると、タクちゃんしつこくしつこく食い下がるのに、なんで今回はしつこくないの?」

「はっ?でも「もう好きじゃない」とか言われたら流石に食い下がれない」

「う、うん。えぐえぐ」

なんて感じの滑り出しで、ことのあらましから結果まで砕いて言いますとよ

 

イライラがつのりアキコ激憤

感情に任せて「もう好きじゃない」発言

瞬間的に別れることを望んだが、内心引き止めてもらうことを想定

しかし、俺正面から受け止める

別れ

俺、泣く、インドに行くことになる

アキコ、ど反省&俺が引き止めないことに疑念を抱く

アキコ、どうやら俺と一緒にいたいと結論をだす。

電話

ややあって復縁

結果:俺の先走り発覚

 

 

 

カカカ、なんたる幼稚。なんたるイージーミス

重ね重ね言いますよ、お騒がせしてスイマセンでした。

 

 

 

 

 

丸く収まった、わーいわーい、ホカホカハッピーだぁ

なんて手ばなしして喜べる、にはまだ早く

なんとなれば俺、結末がどうあれものすごくインドに行きたい。

それからはもう「行くな」「行きたい」「行くな」「行きたい」

「去年、大阪行った時みたいにまた私をひとりにするつもり?あの寂しさは2度と味わいたくない」というアキコに対し

「俺は刺激を受けたいんだよ、俺のシャシンはもう行き詰まってきてインドで殻をやぶりたいのだ!」と俺

「行くな×行きたい論争」が白熱して、険悪なムードによもや別れそうになる(嘘)

それからも違い譲らずのインド問題

で、これからゆっくり話し合っていこうということでひとまず収まったが

なんなんだろうねぇ、ほんとね、

確実に寄りが戻るなんて思ってなかったのに、こういうう結末を向かえた

 

 

「これも縁なのか?」と電話を切った後、たばこの煙りを吐きながらしみじみ呟いて

昨晩「見えると辛いから」という理由で、アキコと俺が写ったプリクラを剥がし

目に入らぬパソコンの側面にひっつけておいたのだけど

これらを、また、もとあった所に貼りなおす。万歳。

 

 

 

 


幸せの選択 11+4終


 

 

 

しんと不自然なほど静まりかえる

受話器越しのアキコの声と俺の内部の音だけがクリアに聞こえる

きっと もう 無理だな 無理なんだろうな

いつもならしつこく食い下がって、よりを戻す糸口を烈火のごとく探すのだけど

アキコの発する言葉の一つ一つに何も言えなくて、黙。

暗闇にぼんやりと滲む白い道が2つ

その道は今まで1本に重なりあって、同じ方向へ延びていたんだけど

1本の道が二股に別れた。

黙しながらそんな映像を思い浮かべていた。

現実味が湧かないんだよな、今までが今まででなくなる感じが思い浮かばない。

いなくなるのかぁ、と、ただ呟く。

自分に言い聞かせるように、アキコに確認するように。

こんな日が来ることを半分考えていて、半分は考えていなかった。

妙に静かだ

俺の人生からアキコがいなくなるのか。

どろっとしたモノが内臓の奥でうごめいている

明らかにいつもの空気じゃない

険悪でも、憤怒でも、嫉妬でも、嫌悪でもない

もっと、こう、透明な、静寂な、、神聖な感じがする。

だからこそ何も言えない

でも言うべきことはひとつしかない

別れを受け入れるしかないのだ

そう言えば付き合っててことあるごとに俺はごねていた

大事な場面では輪郭をボカシ、真剣なところでいつも戯けていた

今、ここで戯けると、付き合った1年5ヶ月がふざけたモノになる

真剣に恋愛したんだ、真剣に終りにしよう

心にいつもあったけど、気恥ずかしくてなかなか言えなかった言葉

これを言ったらこの恋愛が終る

京都旅行も、箱根も日光も、始めて見に行ったあの映画も、あの家も庭も、喧嘩したことも、

自転車であいにいったことも、レールを歩いたことも、始めて出会った日のことも、恋愛ジャシンもなにもかも

共有できない思い出となる

今年のクリスマスはアレをプレゼントしようとか

次の休みはこうやって過ごそうとか、

あの抱き心地も、皮膚や髪の匂いも、声も、わがままなとこも、

君と過ごすことも、君に触れることも、君を撮ることも、全て消える

すべてが断ち切れる

自ら幕を引く言葉、息が詰まって出ない。

覚悟を決める、

アキコにとっても俺にとっても幸せの選択になるのだろう…

その不確かな確信が俺を後押しする

絞り出すようにして出た声は掠れていてたが、心を込めて言う

『ありがとう』

 

 

 

 

つまらない幸福の日々が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の部屋にあるアキコの置き化粧品、コンタクト洗浄液、パジャマ、借りたCD、

パソコンに貼られている2人で写ったプリクラ、携帯のメール、アキコの部屋の鍵、彼女の写真…

ひとつひとつから記憶が蘇る

思い出したくない楽しい記憶や幸せだったことがつらつらと溢れる

刻一刻となにもかもが離れていく気ががする、止めることも購うことも出来ない、

これが現実だ

ずっと一緒にいたかった

今になって涙がでる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


東公園(前編) 11+2+3


 

 

 

 

 

「俺が思うに、カニカニ作戦はダメなんだよ。」

「そうだね、カニカニはスピードはあるけど安定感に欠ける、いつ崩れるかわからない」

「だからカニカニを出す時はゴール手前しかない。」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの「高円寺男だらけの不定期飲み会」

俺、バータン、コウジ、クニオの四名が集まり、東高円寺の小ました居酒屋でねちゃねちゃ飲む

深夜零時頃に閉会して、クニオは帰宅。

残った俺、ババ、コウジの三人は、行くあてもなくブラブラ歩きなんとなく小学生の頃よく過ごした東公園につく。

始めのうちはたばこを吸ってベンチの上でねらねらやってたけど、

次第次第とあの頃を思い出してきて、

裏山を巡ったり、便所の上に昇ったり、スプリングのついた馬の乗り物で遊んだり、滑り台を滑ったり、うんていに興じたり、と、

おおかたの遊具を満喫する。

「では」そろそろ帰るか?みたいな雰囲気が俺とバータンとの間に生まれて、

世程便所の上が気に入ったのか知らんが、ずっと便所の上に鎮座するコウジに声をかけようと振り返ると

なにやら電話で込み入った話をしているようで、

「お前が自分自信を好きになれないのに、誰がお前を好きになるんだ?」などとエキサイティングしている

それを地上で見ている俺ら二人は、「便所の上にいる奴にそんなこと言われたかねぇよ、ケラケラケラ」と笑いあって

コウジの電話が終わるのも待っていたのだが、中々終わらねぇ、それどころかさっきよりエキサイティンしている

「この調子じゃまだまだおわんねぇな」と悟るや

無言のまま二人立ち上がり、なにか良い暇の潰し方をさがす

そして直系約8メートル、円周約25メートルの鉄冊に囲まれた花壇

花壇なのに花は植えてなく、かわりに背の高い木が3本生えている。

その花壇の前に立って「この鉄冊の上を歩けるかな」とぽつりとバータンが吐く

「やってみよう」と、俺。

 

 

 

 

 

 

 

無為で有意義なチャレンジが始まる。

 

 

 

 

 

花壇全体図

 

 

 

 

「うわっ、なんだこれ? ぜんぜん行けねェ」「あーダメだ」

挑戦が始まってすぐ、この競技の難しさを思い知らされる

まず鉄パイプの太さがわずか5センチと細く、露のせいでつるつると滑る

それに円を描いているので、直線を歩くのとは勝手が違う。

お互い2、3歩進んでは落ち、2、3歩進んでは落ちをくり返す

次第に汗が垂れはじめ上着を脱ぎ、少しでもバランスをとるために財布やたばこジッポライターもポケットから取り出し

滑り台の上に置くき真剣に取り組む

 

 

先に均衡をやぶったのはバータンで、ついに4分の1地点到達

おおすげぇすげぇと口では言っていたが、明らかに俺の負けず嫌い魂に火が灯る

なにせ相手はバータン、

幼稚園からのくされ縁だからかれこれ19年の仲

ことあるごとに競り合ってきたこの好敵手になんとしてでも負けるわけにはいかないのだ

これは俺の威信にもかかる

そこへ、先に4分の1を到達されたのだから烈火、烈火のごとく燃え上がる負けず嫌い魂。

 

「へいバータン!マーキングしてくれ」と、最高到達地点に木の枝を置き

あの枝を1cmでも超えたら俺の勝ちだ、と一周する云々をどがえしして陰々と燃え上がる。

 

 

燃えに燃える俺は、ついにカニカニ作戦たる足運びを会得

カニカニ作戦というのは、つま先を円の中心部に向け、両足の裏の土踏まずでパイプを踏み

あたかも蟹のように高速で歩行する法でこれが当たった

次々と記録を更新し、夢の半周を目前としたのである。

だがこのカニカニ作戦には大きな落とし穴があり、まず安定感が乏しく、

スピードがある分、一旦体勢を崩すとなし崩しにくずれてしまう

とてつもなく博打性のはらんだ歩行で、一周を目指すのまず困難である。

一時は更新ラッシュで盛り上がっていたが、更新すればするほどに新たにあらわれる難題にさすがに疲弊して

始めのうちはそう、自分なりに会得した理論やコツなどを相手に明かさずにいたが

さすがになかなか攻略できず膠着状態が続き

お互いぽつりぽつりと情報を交換しだす

 

「俺が思うに、カニカニ作戦はダメなんだよ。」

「そうだね、カニカニはスピードはあるけど安定感に欠ける、いつ崩れるかわからない」

「だからカニカニを出す時はゴール手前しかない。」

「うん」

「っていうよりも一つの歩行ではこれ無理だね、なんていうのいろいろおりまぜつつ臨機応変にいくべきだ」

「それはある。俺の場合は、内内外。左足を内内外の順番でやるとバランスがいい」

「それはあるね。どちらかに片寄ると… 例えば内内内でいくと内側にバランスをとられるし、その逆もしかり。」

「これ、けっこういいよ」

「俺の場合は右足命。右足に体重を乗せて重心を低くしてやってる。あと手を水平にのばす、これ案外いいよ。」

 

なるほどね、内内外か。なんてババ歩行でやってみる、なかなか。

 

 

 

かれこれ1時間が過ぎる、と言うよりも過ぎていた。世間は深夜2時をまわったところ

ただ花壇の周りにある鉄冊の上を歩くだけのこと、

自分でもこれほど熱中するだなんて思ってもいなかった、バータンもきっとそうだろう。

しかし、ただこれだけのことなのに何故にこれほどまで熱くなれるのか?

ひとつは互いに負けたくないって気持ちが人一倍強いってのもあるが

やればやるほどにこの競技、まさに技を競うこの競技の奥の深さ、魅力にとりつかれ止めることが出来ない

お互い無言のまま時は過ぎ、競い合い競い合い、

難無く4分の1まで行けるようにまで上達したが

そこから先が進めない

スタート地点を時計の6時とすると、左上の10時

この10時の地点でことごとく崩れ去る。

『10時の悪魔』

未だかつてないほどの大きな壁にぶち当たる

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 


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