8ヶ月 5+5

 

 

 

2005年5月5日(木)大安

 

 

 

 

早朝5時、アキコに起こされ目を覚ます

化粧をすまし、澄まし顔で髪にドライア−をかけるアキコの傍らをパタパタ歩き

まだ早朝、時間が立てば暑くなるだろうけどまだまだ寒そうだ、ここは1つ大事をとって、つって

Tシャーツの上に一枚黒いのを羽織りビーサンを履いて表に出る

思いのほか明るいな、世間。日の出もだいぶ早くなったね、春か、もはや夏。でも寒ぃ。かなんかいいながら

アキコと自転車で並走しながら朝露湿る気団の中をいく

 

 

何もかも現実ばなれしていて、全てが絵空事のようにしか思えなくて

幾度となく視点をかえて眺めたけど、どれもこれも現実だった

“あの時”現実を見ないで遁走していたら、今現在の自分はどうなっていたのだろうか?

未消化のままぐずぐずしているの

へらへらしているの、それとも泣いているの

全然想像ができない

ただひとつだけ言えることがあるなら、でもこれも自分の推測だけど

“あの時”現実を見ないで遁走していたら

いま食う飯は果てしなくまずいと思う、胸はって生きていれないと思う

ひとそれぞれ考え方なり生き方なり千差万別ありましょうが、賛否両論ありましょうが

俺の生き方の尺度でモノを言うと

「あの時、そうそう、かれこれ8ヶ月前の11月13日。現実を見てよかった。

現実なんて見るものか!!と吠えるのはすげぇ格好良いけど、ほんと格好良すぎて影響されまくってるけど

なるべく現実なんて見るものか!!と吠えるサイドに身をおいて今後も生きていこうと思うけど

やっぱ男、いざっつーときは見なきゃ、現実。

仕事がきつくて、めげて、遁走はオッケーだけど、笑い種だからいいけど

あの時、人生の門のまえで踵をかえて走って逃げなくてヨカッター

だってほら、ケラケラケラケラ笑えるし、愛もあるし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11月13日土曜日 午前11時42分 突上衝動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

携帯が鳴るのでとる、電話口の声はアキコ

「タクちゃん起きてた? 今日仕事は?」

「今日は休み、土曜じゃん。アキコはいまから仕事?」

「うん、遅番」

「へぇ、がんばってね」

「あのね、ビックリすることが起きたの」

「えっ 何? あっわかった! 変態おじさんを電車の中で見たとか?」

「ちがう」

「生理がこないとか?」

「そうじゃなくて」

「じゃぁ生理が来たのね、今月はかなり遅いな」

「いやいや生理はまだきてないから」

「じゃぁ何よ?」

「さっきね、妊娠検査薬で調べたの・・・・・」

「おっ まじか!? で、どうだった?」

「陽性」

「妖精?」

「陽性!」

「陽性!?!?!?!」

「うん。陽性だった。」

「まじかぁぁぁぁぁぁ あああああぁぁぁぁ ああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・ぁぁぁああああ あ?

陽性ってことはつまりどっちなん? 出来たの? 出来てないの?」

「赤ちゃんがいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人生始めて24年

それなりの経験はしてきたつもりだった

沢山の人と会い、様々な景色を眺め、色々な人を愛し、赴くままに動いて、時には後悔したり開き直ったり

そしてそのつど、喜び、悲しみ、うかれ、怒り、そしてさまざまな場面で衝撃を受けてきたが

そんなん全ての事柄が、俺の24年間の経験と年月が、一瞬にしてちっさくなった感覚を覚えたのは今回が初めてだった

「赤ちゃんがいます」っていう一言

腰椎の奥の奥の奥の方から突き上がる衝動

感情は脳で感じていない、腰椎で感じている

衝動が脳まで駆け上がると脳をぐちゃぐちゃにかき混ぜる

嬉しいという感情と、やばい!という感情が滅茶苦茶に混ざり、摩擦、化合、熱を帯びる

顔が熱く、頭が熱い

信じられぬほど熱い

熱い、熱い、熱い、熱い

熱い、やばい、やばい、熱い

真っ白になりたい、今すぐ灰になりたい

だって子供が出来たつったって、ねぇ、ムリじゃん、物理的にぃ!

常識的に考えてもだよ、金ねぇ、仕事ねぇ、じゃ養えねぇよ

それに俺は写真家の名をかりた、ただの、いわゆる・・・プ−太郎

そんな甲斐性なしがやれるのか? 父親になれるのか? ぐっ頭が熱い

まだ早い、まだ早い、はやまったと思いますがね、拙者は、手前は、おいどんは

父親、パパ、父ちゃん、オヤジ、に、俺が? この俺が?

未だにジャンプ愛読者の俺が?

フリーターの俺が?

薄々感じていましたが、勤人向きではなく、社会落伍者然、社会不適合者の俺が1人の人間の親になれるのか?

自信はない

はきはきと「自信がない!」と自信をもって言える

しかし、責任は果たさなくては

責任は感じる、ありありとみっちりと感じる

顔が熱い、頭が熱い、脳が熱い

これも人生、産んで育てたいとも凄く思う

脳味噌が科学反応と摩擦熱で意識が混濁する

ボボボボボ ボッ

 

 

気が付くと数秒放心、感覚的に数分放心

 

 

 

「赤ちゃんが出来ちゃった♪」

「・・・・・・・・」

「ねぇ!あんた聴いてるの!」

「・・・・・うん」

「なんで喜んでくれないの!?」

「俺だって喜びたいさ! でも、素直に喜べない」

「なんでよ!」

「んなもんあったり前じゃねぇか!! 子供だぞ! で俺! ジャンプだし!

生活基盤ぜろで頭が脳で熱が混濁して、ががが頭が痛い」

「もっと喜んでくれると思った・・・」

「今はそれどころじゃねぇ! 嬉しいとやばいが五分五分で・・

つーかその妊娠検査薬ってのは確実なのか?」

「わからないけど、普通おしっこをかけて1分ぐらいで陽性か陰性かがわかるんだけど

私の場合は、おしっこかけた瞬間陽性になった。」

「それじゃぁ確実かどうかわからん」

「でも、陽性が出た場合99パーセント妊娠って説明書に書いてあるし

妊娠してるけど陰性がでるっていうのがたまにあるみたい・・」

「じゃぁほぼ妊娠決定っすね、でも、ちゃんと病院行って調べてみないと確実にはいえん

早速次の休みに病院行けよ」

「そんなの言われなくても行きます!」

「次の休みはいつ?」

「木曜」

「木曜か」

「タクちゃん嬉しくないの?」

「お前めちゃめちゃ嬉しそうだね」

「うん」

「前々からしつこく何度も「早く子供産みたい! 21才で子供産む!」って言ってたもんなぁ

・・・・産む気まんまん?」

「もちろん!」

「そっかー そうなのかー ちょっとはえぇな とか思わんの?」

「思うね」

「お前なんでそんなに浮かれてんだよ、俺とかすげぇ戸惑ってんじゃん」

「情けないね」

「情けなくねぇよ、これが普通だよ!」

「私だって検査結果見た時かなり戸惑ったけど、いいの、産むの

あなたもっとしっかりしてよね!」

「うっさい! わかってらい! びっくりするほどしっかりしてるやんけ!」

「してないし、全然。うろたえずぎ。喜んでくれないし」

「んなもん当たり前じゃい! 男やけ考えることがいっぱなんよ!」

「ふ〜ん、じゃぁ頼んだよ〜」

「・・・・何? この空気 この電話切るみたいな雰囲気」

「だってそろそろ職場いかなきゃ」

「えぇェ ちょっと待ってよ 1人にしないでよ」

「そんなん言ってもムリ!」

「じゃぁとにかく今日夜行くから! その時しっかり話そう!」

「わかった。じゃーねー」

「はい」

 

 

 

電話を切る、部屋には俺1人、家にも俺1人、無音

取りあえず立ってみる、そして座ってみる

今一度立ち上がり、台所に行く、そして部屋に戻り、またパソコンの前に座る

タバコを吸う

「赤ちゃんができた」心の中で呟く

「赤ちゃんができた」声に出していってみる

現実だ!

混じりっけなくとことん純粋な現実

どうしよう? 色々と、まず仕事とか、シャシンとかどうなっちゃうんだろう?

それに親にもいわないけんし、養育費とか、まず出産費用か、あっ あっ

トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル

「もしもし」

「もしもーし どうしたタックン」

「バータン今何してんの?」

「今? 今ランデブー皆集まったからこれから音入れする」

「へぇ、みんな集まってんのかぁ」

「今回のCDのやつあれかっこいいね!」

「そう? で、ちょっと、言いたいことがあるんだけど・・・」

「何?」

「絶対誰にもいわんでね」

「お〜う 何何?」

「あんね・・・・・実は・・・ 赤ちゃんが出来ました!」

「うっそ! まじ?」

「まじ!」

「・・・・・・・・・・いいなぁ〜」

「はっ?」

「よかったじゃん!タックン!」

「ちょい! いいなぁ〜ってなにさ!」

「羨ましいなぁと思った、で、どうすんのタックン、産むんでしょ?」

「うん、まぁ、アキコが産む気まんまんだしぃ

でもなー、無職じゃん! それがネック 仕事とかあんのか?」

「だいじょーぶだって! んなもんどうにかなるって!」

「どうにかなるか?」

「なるなる」

「そう?」

「“親がなくとも子は育つ”っていうじゃん」

「いやいやいやいや、そいつは困る、みっちり育て上げたい」

「でも、これもいい機会なんじゃない?」

「うん、色々な意味で俺もそう思ってる。今回のCDジャケ写が俺の最後の作品です」

「おいおい 何いってんの!?」

「冗談だって。でも、なんかいけそうな気がしてきた!

やれそうな気がしてきた! いや!やってやる! ありがとバータン! またなんかあったら電話する」

「お〜う、また経過情報教えてくれ!」

「うん。じゃまた」

「ほーい」

 

 

 

電話を切る、未だ顔は熱い

しかし、バータンに電話をしたことによって随分救われた俺の魂は

それから半刻ほど「父になる喜び」と「どうにかなるさ!」で浮かれ舞い

目の前が一気に開けた感覚を覚えたが

半刻経つと次第に現実がにょきにょきと姿を現し

仕事、金、養育費、保険、両親、夢、理想、現実・・・・らが輪になりぐるぐる頭の中を巡るので

自分はついつい俯き思考に飲まれてしまい、再びローテンション、ザ・マイナス思考

ベッドへうつ伏せに倒れ込み、いっそのこと白い粉まみれになりたい

いっそのこと敵を後ろから羽交い締めにし、味方に「俺もろとも殺せ!」と放ち

せめて死ぬ直前だけでも勇敢でありたい

ガシャンガシャン ガシャンガシャン

青いストライプの総武線快速九里浜行きがホームに勢いよく滑り込んできた

タイミングよく飛び込んだ俺の体が一瞬にして千々に飛ぶ姿をキオスクのコンビニから見る俺

手には週間少年ジャンプを握っている、掌が汗ばんでいる、表紙がよれる

俺の細胞や、肉片で駅中ねたねただ、割れたカメラの破片で怪我をする人、俺は「あぁ楽」と呟く、さすがにここまでのマイナスはどうだろう?

むっくりとベッドから起き上がり「子供!」と大きめの声で言ってみる

どちらにしろ自分にはアキコしかいないというのは妥当な答え

遅かれ早かれ彼女とは結婚をする気ではいる、そこに異論はない

ただ今回は「赤ちゃんができた」という突発的な事件で俺はこうも取り乱す

正直今はその時期じゃないとも思う

しかしこれは良い機会かもしれん、自分が自分であることを貫くための試練かもしれん

こういうことがない限り、俺はいつまでもだらだら過ごし、常に現実から目をそらす

アキコとの結婚だって、したいしたい言ってるだけで何も前に進まんままでいると思う

きっと生まれるべくして生まれてくるのだ

次第にお腹が大きくなるアキコのシャシン

生まれてくる子供のシャシン

とてつもなく興味深い

そう考えると「悪くないな」と思う

けども現実をみると畏縮してしまう

もう一度ベッドに倒れ、自分の中のプラス思考な人格とマイナス思考な人格が葛藤する

数分ごとで入れ代わる

基本的に考えるのは同じことばかり、それでいて疲れる

時折合間合間に「自分の人生は案外波乱万丈なのでは?」と思ったり

「タクロウジャシンで、このことをどう発表しようか?」と考えたり、陽が陰る

夕暮れだ!

 

 

 

 

 

 

考え過ぎてげそげぞになった自分はちょっとみ知恵熱で弱り切った犬のよう

しかし、気分は麻薬中毒者のごとくに根拠のない高揚感と罪悪感で満ちている

表と裏が噛み合っていません

心は常に千々にちぎれ、俺がしっかりしなくては!と思えば思うほど

そのちぎれた破片は空へ飛び去ってしまう、ああ、あぁ

ルーシーはスカイでダイアモンドですか?

僕は盛岡で大食い大会ですか?

優勝商品はエンゼルフィッシュです。

エンゼルフィッシュかぁ・・ 水槽ねぇから飼えないや・・・

 

 

自分は自動販売機で紙コップのココアを飲んだふりして、暖まったふりをして、飲み終えて

一服タバコをすっていると、駅からアキコが出てきたので

走っていって抱き締めてやろうと思ったけど、やめた

手前5メートルまで来た時、走って抱き締めた

クッソ、今日もかわいいな、畜生

この中に子供がいるのか? 信じられん。

 

「待った?」

「あんま待ってない」

「タバコくさい!」

「今吸ってた、でもアキコ来たから捨てた」

「私の前で吸わないでね、この子に悪影響だから」

「わかってるよ!」

「どうする御飯? 家で作る? それとも外で食べる? 私和食が食べたいの、魚食べたい」

「じゃぁ大戸屋行こう」

妙に嬉しげな顔をしているアキコはするりと俺の腕に腕を組む

そしてガサこそ鞄に手をつっこみ細長い箱を取り出す

「おおっ! それが・・・」

「妊娠検査薬!」

「まじかー これかー 初見」

「見る?」

「見る!」

「ちょっと待ってガサゴソ・・・・ 見て見てコレ!ニ本線!」

「ニ本線が出ると妊娠なの?」

「うん♪」

「どれどれ・・・・ あぁ、まじだ、ほんとにニ本線。綺麗にでてんな、あっひゃっひゃ」

「ね? でてるでしょ?」

「うん。 ・・・・あっ! そうだ、お前これちょっと持って、うん、よし、カシャリ

記念に撮っとくわ、カシャリ」

「どう?」

「なにが?」

「嬉しい?」

「少し実感した。ってかアキコに会ってからだんだんと実感」

「ふ〜ん」

「あっ これって小便ひっかけたやつじゃん?」

「汚いね」

「それはいいんだけど、こうやって往来で取り出して見るもんじゃねぇな」

「大戸屋」

「着いた。コレしまっとけ」

 

 

 

大戸屋で飯を喰う、アキコは魚を喰う、俺は丼とうどんのセットを喰った

そして自分はしげしげと空の丼を見つめ、思ってることは全て言おう、と決心した

「さて・・・・・・どうするか?」

「またタクちゃん暗い」

「大事なことだろ、真剣なんだよ」

「・・・・・」

「お前少し浮かれ過ぎじゃ、真剣に考えようぜ」

「考えてるわよ!」

「でも浮かれてんじゃん!」

「うれしいもん、あなたはうれしくないの?」

「正直五分五分、嬉しいなとヤバいなと言う気持ちが五分五分で混じってる」

「私、喜んでくれない人と一緒にいたくない!」

「そうやって、俺だって、手放しで喜びたいよ!

俺がちゃんとした勤め人だったらどれほどいいか今日つくづく思った

けど、そうじゃないし、先行き不安定だし・・・ログポーズ持たないでグランドラインに入ってる感じ」

「は?」

「今のは聞き流して。 でも今の時期は早いと思わん?」

「思う。実際、赤ちゃんがいたら2人で旅行とか行けないし

もっと色んなとこ行けたなぁ、とかは思う」

「いやいや、そんなことはどうでもいいんだ。そんなことはさして問題じゃない」

「でもまだ早いなとは思った。でも産む。・・・あなたはどうしたいの?」

「俺は生活出来る準備が出来てから産みたかった」

「産むのは私です!」

「知ってらい! それが女の特権だってことも知ってる!

たから俺がどうこうしたところでお前の気持ちはかわらんだろうけど

俺とお前はこれから一緒に生きていくわけだから腹心もたずに言うことは言いたい」

「じゃぁ、何? 言いたいことって!」

「おろして欲しい」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・泣くなよ」

「・・・・あなた言ってる意味わかってるの! おろすってことは人を殺すってことよ!」

「・・・うん」

「だったらいい! 私そんな人と一緒にいたくない! もっと頼れると思ってた!

あなたはただ自分のことが、写真とか出来なくなるのが嫌なんでしょ!!

結婚しなくていいから、私産む、お金だけは頂戴ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたはただ自分のことが、写真とか出来なくなるのが嫌なんでしょ!!』

心に突き刺さる言葉

何も言えん

 

 

後先考えず手放しに喜べる人間だったらさぞ楽だろう

つくづく思う

自分はとことん臆病でろくでなしで利己的な阿呆でくだらない人間だと思う、つくづく。

自分の感情は間違っているのか、思ったことを言うべきじゃなかった

準備が出来ていなかったのは己の因果

誰のせいでもない、俺のせい

自分はこうも逃げるのか、仕事から現実から、ましてや恋人から

それだけは避けたい、あいつらの為に生きたいと思う

シャシンとか文章とか、別に、今の感じのままなら存分にやれる

いや、今以上にやれるし、面白いこと、嬉しいこと、経験したことのない経験が数珠つなぎに起こるだろう

それはとてもいいことだ、アキコはそれを知っているのか? だからあんなにも真直ぐなのか?

それに比べて自分はなんとまぁこんなに意気地がないのか

でもアキコの浮かれ分俺がしっかりせないけん。でもその答えが「おろす」なのか? それも五分五分だ

産んで欲しいのも五分、おろして欲しいのも五分

何故そう思う? 何故そう思う? 何故そう思う?

何故そう思う?

 

 

 

取りあえず店を出て、駐輪場に向かう道すがら

俺とアキコは距離をおいて歩く

自分は自分と対話をする

正解なんて存在しない

自分がどう行動をおこすかの二者択一、答えはなし

きっとこれは人生の岐路なのだろう

子供を産み、アキコとともに一生を送る人生

子供をおろし、アキコに愛想をつかれ、1人になる人生

信じられないところで突然岐路があらわれた

これが人生です。これが人生ですか?

自分が選ぶべき道、右か左か後退か?

どれを選んでもきっと正解だろ?

あはは、じゃぁ馬鹿正直に真直ぐに。

 

 

 

レール下の駐輪場、遠くに街灯、その光は届かない

うすくらい駐輪場で向かい合う俺とアキコ

互い無言だ

アキコは涙ぐんだ目で俺をキッと睨んでいる

俺はそれを見て美しいと思う

言いたいことはいった、思ってることを全て吐けた

遺憾なし

そうしないと考えがまとまらない自分はとても未熟だと思う

そのせいで傷付く人がいる

父になるのだから成熟するよう努力しよう

その前にこの歴史的瞬間をカシャリ

よし

「ヘイ! アキコ! 産むぞ!!」

「タクちゃんころころ気持ち変わるし、信用できない」

「うっさい! もう迷わん、俺の中で決着ついた!! よっしゃー産むぞ!」

「産むのは私だから」

「あっ 笑った!」

「ほんとにしっかりしてよね!」

「まかせろい! じゃぁ、ほいっ ほいっ」

俺は両腕を広げ何かを待つ

「何?」

「何?じゃねぇよ、抱き合おうぜ!」

「やだ」

「やだじゃねぇよ! 2人とも来い!」

「お腹の中の子が「お父さんいやだぁ〜」って言ってる」

「言ってない! じれってぇな・・・」

結局3歩前に進み抱擁

 

 

あはは、ざまぁみろ、これが俺の“答え”だ

10時間経ってようやく答えが出た

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ」つって、シャンクス号(自転車)に乗る

そしてスイスイ走り始めてアキコが不意に言う

「ねぇ市役所いこうよ?」

「なんでよ。何用? つーか夜だぜ」

「夜でも大丈夫! 婚姻届け貰いに行こうよ!」

「・・・婚姻届?・・・・・・・・あっ!」

「?」

「俺たち結婚すんじゃん!!!」

「何今さらいってるの?」

「あぁ〜 すっかり忘れてた! 子供のことばかり考えてたからそっちに焦点いかなかった

ひゃっはっは そうだ結婚だ!

お前、林田アキコになんの? だっせー」

「やだなぁ林田」

「しようがねぇよ」

 

とにかくやってるかやってねぇかわかんねぇけど市役所にいく

予想通り真っ暗

裏をまわっても受け付けている様子なし

 

「やってねぇのか?」

「っぽいね」

「帰るか?」

「でもアメリカの映画とかで深夜に籍入れてるの見たことある」

「でもここアメリカじゃないぜ」

「どうしよう?」

「あっ インターホンあんじゃん」

「タクちゃんちょっと押してみてよ」

「いやだよ!お前が押せよ!」とは言わない

ここはひとつ信頼される男になる為の一歩だ!と思い付き

おもむろに押す。けど人が出てくる気配なし。

もう一度押す。もう一度押す。ゆくゆくは連打。

すると中からよれよれのシャツを着たじいさんが出てきて

あっ? 怒られるかな?と思ったけど、怒られず

「どうしましたか?」「あの、婚姻とど・・・」「あっ ちょっ まっまっ中に入って」と弾けるようにじいさんがいい

ひっかけたサンダルをきゅっきゅきゅっきゅ鳴らせながら歩くじーさんの後について

俺とアキコ、役所のなかに通される

 

 

「じゃぁあんたらもこっち入りなせい」

3坪くらいの部屋、おそらく守衛室

「あの、夜遅くてすいません」

「いやいやいいよ!かまわんよ!」そういいながらスチールの引き出しをごそごそやる

「ちょっと待ってね、いま、婚姻届けを・・・・おーうあったあった

これが婚姻届け、取りあえず2枚くらいいる? いるね、一枚は練習用にするといいよ」

「あっ はいっ よくわかんねぇけど、多い方がいいね、うん、ありがとうございます」

「はいっ これ じゃぁ 2枚・・・

おっ! 封筒 封筒 封筒に入れなきゃくしゃくしゃになっちまう・・・」

そう言い終わる前にまたがさごそやるじいさん

「いや大丈夫ッスよ、俺の鞄でかいし」

「そうかい? じゃぁ気をつけて・・・あっでかいね、それじゃ大丈夫だ」

「はい」

「あっ 今書いて言ってもいいよ」

「いいんですか?」

「四六時中受け付けてるから大丈夫」

「へぇ、でも、今はいいっす」

「んんー いいねぇ」

「何がですか?」

「奥さん美人で羨ましいよ! 旦那は幸せもんだ!」

「かっかっかっか アキコぉ 奥さんだって!」

「旦那さん(笑)」

「いやぁ とにかくおめでとう!」

「あっは ありがとうございます」

「おっ そうだそうだ。ガサゴソ、これ、これ、これ俺の田舎のお菓子、2つあるから食べて」

「お〜う ありがとう。 ところでおっちゃん結構こういう時間帯に、例えば深夜とかに婚姻届け出すひといるの?

「いるいるぅ しょっちゅういるよ!」

「へぇ、わざわざ夜にねぇ」

「3月3日の午前3時33分に婚姻届けだした人とかいた」

「なんでそんなに“3”にこだわるんやろ? 長島の熱狂的ファンか?」

「そりゃわからんけど、深夜けっこういるよ、だいたい日に3組くらいいる」

「へぇ」

「深夜でもなんでも受け取って、この、これ、この判子を押した瞬間結婚確定になるのさ」

「これっすか? この判子? 幸せ判子か」

「で、その婚姻届を翌日役所に提出する」

「でも結婚確定は判子を押した瞬間で決まるのね」

「時間が書いてるから、この判子

だからあんたらも遠慮せずに今書いていけば?」

「いや、今度書いて持ってきます」

「じゃぁ是非おっちゃんがいる時持ってきてよ!」

「おう! なるべくそうする! では、夜遅くすいませんでした」

そう言い俺とアキコ共にぺコリとお辞儀をする

すると、もうひとりおっちゃんがやってきて

「おっ? 婚姻届かい?」ときいてきたので「はい、貰いました」っつぅと

「今でもいいよ、受け付けるよ」

「いや大丈夫です」

「前に・・・3月3日の午前3時33分に婚姻届けだした人がいてね・・・

なぁ たしか3並びだったよなぁ」

「午前3時33分じゃ」はじめのおっちゃんがあいづちを打つ

「だから何時でもいいよ、あっ、そうだお菓子お菓子

あのお菓子少し余ってなかったっけ?」

「あっ 頂きました」

「あれ、この人の田舎のお菓子だから」

「はい・・・ ごちそうさまです、じゃぁ、これにて失礼・・・」

「失敗してもいいように2枚貰った?」

「貰いましたよ」

「ほっほっほ そうか じゃぁお幸せに」

「あはは ありがとうございます。 ほんと夜分遅くすいませんでした」

「いつでもいるから、気兼ねなく来てよ」

「はい。では、失礼します。ありがとうございました。」

 

 

ふぅ、ようやく役所をでる

アキコと目があい、ケラケラ笑う

「話しなげぇ、でもすげぇいい人だな」

「ね。2人目の人も3時33分の話してたね。笑っちゃった」

「ここでは語り継がれてるんだね、伝説と化してるよ3時33分のカップル おもれー」

「お菓子までもらっちゃった」

「2人目おっちゃんが死んだじいさんに似てた。」

「へぇ」

「あれは俺のじいさんか?」

 

 

 

 

再度自転車にのり、家路につく

 

 

 

 

 

 

一緒にお風呂に入りアキコのお腹をさすってみる

お腹に口を当て「父です」と言う

いいようのない感情が身をつつむ

暖かく柔らかい感じ

 

 

 

 

 

 

生まれてくるんですね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はーい、時間軸を戻しまーす、今日現在に戻しまーす

んで、改めて自己紹介を・・・・・父です。俺、父です。

あっひゃっひゃっひゃー くぅ父

 

 

っっっっっっっっっっっっっっと、いうわけですよ

っっっっっっっっっっっっっっと、いうわけだったんですよ、皆様

この度、子供ができました。つっても俺にとっては遥か過去のことなんで変な感じ

上記の日記を書いてから半年以上も経っているので改めて読むとすげぇ変な感じ

我が事ながら、よくあの環境から、俗にいうフリーター状態から結婚に踏み切ったと思う

のちのち冷静にアキコと話して「よくよく考えるとあなた無職じゃん」と何度笑ったことやら・・・

でも人間、やればできないことはないな、あるな俺にも底力、とまじまじと感じた

職探し(あっ、この時はかなり現実が厳しいので何度か泣きそうになった)

そして仕事に尽き、コレがコレなもんでとバリバリ働く

アキコの親類に挨拶、その他、責任、重圧、による神経性胃炎

アキコ妊娠初期から中期にかけての情緒不安定による俺バッシング

1ヶ月休日返上して住居探し、激安2K物件ゲット、と、言うは易し

ほんっっっっっっとにいろいろ大変だった、正直、情緒不安定時のアキコは殺したいほどむかついた

苦労した、きつかった

けども信念をもってやったら出来た

でも、それだけではない、時に厳しく、時に厳しく、あいつはだらしないから厳しくせないけんと厳しく支えてくれる関係者各位

あと、妊娠を自分ごとのように大喜びしてくれる(気楽な)友達

安定期に入ってからは機嫌よく炊事洗濯掃除をがんがんこなし

ある時は奇声をあげ、ある時は部屋の中で裸で歌い歩き、

またある時は台所で入念に玉袋をニュイニュイ引っ張っている俺を優しく見守るアキコ、方々のおかげさんで

俺は、いま、普通に生きていけているとおもう

ほんと、まじで。

逃げなくてよかったよ

 

 

 

と、ここまで書いても書きたらぬ

ほんとはまだまだまだまだまだまだ語り尽くせぬほど多くの事がある

アキコの母体を考慮して発表を控えていたがため、

日々ここに書く日記はとても味気なく思えた

もっと書きたいことはたくさんあった

 

 

うおぉぉぉぉぉぉ 今日はじめてお腹の子が蹴った

なんだ こら? なんだこの感動は!!!!

アキコの腹に手をやり、トントンと指先で軽く叩くと・・・・・・・・ポンッ

うわぁぁぁ 返信が来た、ポンッて、ポンッて、蹴ったよぅ 腹の子ぅ

いるんだ、いるんだ、お腹の中にいるんだ、子供、生きてる、すげぇ、この感触ポンッ

涙が溢れそうなっくらい感動が溢れた

この感触ポンッはいままでにない感覚

そして生じる感情もいままでにない感情

どれもこれもが目新しく、生命のお腹をなぜまわして生物の神秘を感じる

超音波シャシンをみていちいち感動する

生きてることすら奇跡だワハハハハハ

 

 

など、沢山沢山伝えたかった、けど事が事なので大事をとりました

ここ何ヶ月、歯に衣着せる日記で申し訳ありませんでした

こんなすげぇこと書かずに悶々としていた俺を察していただけると有り難いです

ちなみに母子ともに健康、腹の子は今日も活発です

 

 

 

 

 

 

あああああああああああああ、すっきりした

長かった、8ヶ月

で、話は

2005年5月5日(木) 大安

 

 

 

早朝5時30分前に区役所に着き、ブロック塀にカメラを置きセルフ撮影セット、役所を背にアキコと俺並んで婚姻届を開きいてカシャリ

そのご深夜受付の窓口に向かう

警備員が3人が常駐する受付で「あの、入籍しにきました」と告げるや

俺とアキコの顔をまじまじ見て、くはっっとした顔をした後

「おめでとうございます! 入籍? 婚姻届もってきた? おおそうかそうか、ちょっと待っててね」と1人の警備員が言うや

目の前の電話に手をかけ受話器ごしで誰かを待っている、最中、もうひとりの警備員が

「それにしても朝はっやいねー」と言ってきたので

「5時55分に入籍したいのです」というと

「へ?」

「5月5日の、で、5時55分」というやいなや、警備員3人声をあわせて「おー やるねー」詠嘆

 

 

そもそも俺個人としては5月5日ならどの時間に入籍しても構わなかった

裏を返せばモンキー・D・ルフィの誕生日である5月5日ならいつでもよく

当初は5並びの5時55分なんて考えてもなかったのですが、

アキコが、もうひとひねり欲しいと、折角なんだからワンアクションいれてイベント化したいといい

ひいては時刻、5月5日5時55分とかどう?というので

どうもこうもねぇよ、正直朝起きるのしんどそうだけど、お前がやりてぇってんなら俺は大抵やるぞ、つってちょっと男気。

どうせやるなら面白い方がよいし。

 

 

 

そういうわけもあってかかる早朝にでばって区役所

係りの男があらわれ別室に通される

この人に話が通っていなかったら、折角の早起きが、人生に1度か2度、多くて3度あるかないかの入籍が無駄になってしまうとおもい

恥を忍んで、再び、けれど元気よく「5時55分に入籍させてください」といい「はい」と返事1つ、ちょっと恥ずかし。

 

 

婚姻届、印鑑、戸籍謄本、身分証明書、来庁者カード、寝る前と家を出る前にチェックしておいたおかげで

万事抜かりなく揃えて提出

係りの人はかちゃかちゃとあくまでもお役所的に仕事をしていて

へぇ入籍ってこんなんなんだぁ、ふぅーん。感動うすいな。

もっと、こう、ぐっと感情が起伏したりせんのかしらん?と思い思い係りの人の手元を眺めていると

くるっとこっちを向き「では、以上で手続きは終了です。この度はおめでとうございました。」と謂れ

「ありがとうございます。早朝にすいませんでした」

「いやいや構いませんよ、あと、ちゃんと5時55分と時刻印おしときました」

「あっ、ありがとうございます。では失礼」

 

 

 

別室をでて時刻を確認「今何時?」「50分」「じゃぁあと5分じゃん」「そうだね」

「独身最後の5分だぁ・・・」「あぁ、私、5分後には林田になっちゃう・・・」「いいじゃん林田」

「でも後ろから読んだらダシヤハよ」「ダシヤハだけどさ・・うおっ!あと4分」

「でも間に合って良かったね。」「うん。なんか知らんけどまだ55分じゃないのに55分の時刻印押してくれたしね」

「多分、すこしくらい早い分は融通がきくんだろうね」「うん、あっと、そうだシャシン撮らねば」

カシャカシャカシャ

カシャカシャカシャ

おおっ、あと1分、あと1分で正式に俺とお前は夫婦になる

ああ、ああ、ああ、なんかきた、なんかぐっと感情湧いてきたきた、ああ、あー、出た!55分じゃ!

 

チャラーン夫婦

 

アキコを抱き締めぐるぐる回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、僕とアキコは本日をもって晴れて彼氏彼女の関係から

夫婦と濃いめの関係にあいなりました

 

付き合いだして2年と10ヶ月、長いようで短い期間

色々なことがありました、何度別れてもおかしくない瞬間がありました

けれども未だに一緒にいるのはなにかしらの縁があると思い

また子供サイドも「イケる! やれるはず、この2人ならば」と思って、

好き好んで俺とアキコのところに来たのだから、それも縁、大事に面白おかしく育てていこうと思います

かげながら応援下さい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは

遅ればせながら改めまして

高円寺恋女房怒濤偏

はじまります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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