「ここ25年で一番長い日」7+12

 

毎日毎日飯を喰うのも億劫で録に喰ってない、当たり前のように女も召し上がっていない、禁欲

だけど命を繋ぐために米とパンと麺は喰う、三大炭水化物ばかりを喰う

野菜、魚、果物などひさしく喰っとらんね、げはははは

せめて科学的にでもアミノを摂取しようと、2Pのアミノサプリを枕元に置き、それをゴキュリと飲みこんでから就寝

毎日毎日眠いのに、睡眠不足で顔色が悪いのにも関わらず

いざお布団にはいると眠れないのはこれ如何に?と思いつつ

お布団の中でうがうがもがいてようやくまどろみ、睡眠、深夜2時

 

♪チャララー・・ チャララー・・

タンッ タッ タッ タランタッ タラララー・・

タンッ タッ タッ タランタッ タラララー・・

チャラララー・・・ チャラチャラッ

チャラララー・・・ チャラチャラッ

 

「仁義なき戦い」のテーマソングが携帯端末から軽快に鳴動

アキコからの電話だ、モーニングコールだ

やってらんねぇもう朝か、ちくとも熟睡した心持ちがしねぇ、はぁ今日も1日しんどいな、つって

携帯を手にとる一瞬手前、不意に卓上の目覚まし時計が目に入る、まだ午前4時だ

(何!? まだ午前4時!? こんな時間に電話!?)

ポクポクポクポクチーン

(これは何かがあったに違いない! 陣痛か? 陣痛がきたのか?)とはやる気持ちを抑え込んで電話に出る

「もももももしもーしぃ どうしたアキコー まだ4時じゃねぇか! 何かあったんか? 産まれるのか?」

「タクちゃん起きてたの?」

「起きててねぇよ、なにがどうした?」

「いまさっき破水した」

「破水??」

「うん、まだ陣痛はきてないんだけどね」

「破水って、がってやぶけて、羊水が出るやつじゃん」

「そうそう。だから、たぶん、今日中に産まれると思う、今から病院に連絡・・」

「わかった!今から行く!」

「え? でもまだ陣痛が始まってないし」

「つったって破水してんだろ? 行くわ!マッハで!最短短距離で!一番早く行く!」

「わかった、そんなに急がなくても大丈夫だと思うけど」

「何いってんだよ、この状況下でおちおち仕事にいけるわけないじゃん、じゃぁ、またあとで連絡する」

 

つって、電話を切る、思いだす、破水が起きた、今日中に産まれるかもしれん

いいようのない興奮が抑情が体中を走り抜け、歯を磨き、顔を洗い、インターネットで一番速く静岡につく電車を調べる

5時前に家をでてアキコのシャンクス号に乗って駅に向かう、途中コンビニに立ち寄り、ATMで金をおろす

5時の高円寺の街はにがらんとしていて静かで、車も走っていない車道のまん中を自転車で疾駆する

空は薄い灰色と薄い水色が混ざった色、空気は多めに水分を含んでいる、コンクリートはしっとりと湿っていて薄い水色がまじっている

そんな中を、今日の日の空をシャシンにおさめつつ疾駆する、坂道を下る、神に祝福されている気持ちがした。

 

高円寺から中央線に乗って東京に向かった

 

 

東京駅着、予想どおり時間に余裕がある、だけどまず切符をかわな、と、

新幹線切符売り場に向かう途中、インド家族に声をかけられ何かを訪ねられる

当初は俺、インド語はからっきしだからやれねぇと思ったけど、情けは世の為人の為

ここで1つよいことをすると、今後俺によいことが起こる理屈なので、

こちとら出産を控えている、ひとつでも良いことをストックしておきたいと思うは人の情

よっしゃよっしゃ解決してやる

それに、異国の地で困ったことがあるのはさぞ心さもしいだろう、俺なんかでよかったら力を貸すぜ、と思って

噴噴ときばりながら目をギラギラさせて「どないしたん?」みたいな顔つきでインド家族に接近

すると早速インド父が俺に向かって「フォーティー フォーティー」と言い

なんじゃいフォーティーってのは? フォーつったら米でできたタイの麺しか思い浮かばんよ、俺は、食べたことないけど

早速の障害でどうしようかしらん?と思い、インド父の横を見るとインド母、インド息子が不安そうな顔でインド父を見ている

うわっ、やばい、ここで解決しなかったえらインド父の威厳と尊厳がないがしろにされてしまう

東の異国でもたよりになるインド父であって欲しい

しかしなんで俺に声をかけたんだ? その瞬間でインド父の敗色濃厚はいなめんけど

ぱっと俺を見てインド語が堪能にみえたのか? インド語とかヨガファイアとヨガフレイムしか知らんぞ俺は!

そもそも英語ですら18個くらいの単語しか知らんもん・・・って英語?

フォーって英語で4だよな、でも、インド人が英語?

いやいやインドって確か公用語が山程あったはず、その中で英語があってもおかしくない

ってことはインド父が言う「フォーティー」のフォーは4

まではわかったけど「フォーティー」ってなんだっけ? 14か41のどちらかだと思うけど、よくわからない。

でもひとつだけわかることは「数字」を訊ねているわけで、駅で知りたい数字なんて「時刻」と「電車の番線」くらいしかない

時刻はそこら中にある時計を見ればわかるし、わざわざ時刻を聞くためだけに言葉も通じない人を捕まえて労力をつかうより

息子に時計を探しにいかせたほうがなんぼも楽、時刻の線は消えるな

だったら「電車の番線」くらいしかねぇ、だとすると14番線か41番線

41番線なんか聞いたことねぇ、いくら東京駅が巨大だとしても41番線まではないだろう?と思ったが、確信できず

「ちょっと切符みしてみ」と思わず日本語で言うと、なんか通じて

インド父が胸元から切符を出す、東京→京都と印字された切符のよこに「14番線」と印字されてる

おおっ 京都行くんか? いいなぁ。うらやましぃな。懐かしいな。と、思い出にくれている場合じゃねぇ

やっぱ「14」だ、おれの語学力は乏しいけど、推理力と妄想力は充実してます

総括すると「京都に行こうおもってんやけど、14番線っちゅーのんがどこにあるかわからんで苦労してまんねん

兄さん、14番線の行きかた教えてくれまへんか? あきまへんか? え? 関西弁? あっ わし関西に行くいうだけで、関西弁になってしもたでげす」

語尾が「げす」は関西弁じゃないよ、と思い思い、とにかく14番線の行き方を教えればいいんだなと、命題がようやくわかって

息高々に14番線は・・・・つってどこにあるかわからん

ちょいと待ってつって近場にある案内所に駆け込み「14番線ってどこですか」ときくと「ここの道を真直ぐいって、左に行くとありますよ」と教えられ

またグワァーと走ってインド家族に戻り、ひとつせき払いをして「ここの道を真直ぐ行ってからぁ・・タァァァァーン レフトゥッハ!」

出たァ、産まれてはじめてのターン・レフト、はじめて使えたターン・レフト

俺の言葉を理解したインド一家は「アリガトウ」と片仮名で俺に礼をいって、指差した方向に真直ぐいった。

 

とても良いことをしたなぁ、と思った。

インド家族の背中を見送りながら「良い旅を!」と心の中でいった

英語で言えたら叫ぶことができたのに、と少し後悔しながらも、家路に・・って、あっ! そうだ俺は静岡に行くんだ

あやうくホッコリした面持ちで帰るところだった

 

切符販売カウンターで静岡行きのチケットを購入し、発車までまだまだ時間があるから喫茶店で珈琲を飲みがてら

実家に電話をかけたり、弟に電話をかけたり、する

 

 

腹が減っては戦もできないし、出産にすら立ち会えないので、キヨスクでサンドイッチと目出度いから赤飯のおにぎりと、祝い酒としてビールを買い込む

新幹線の窓際に座って、出発進行、めざすは静岡

早速ビールのプルタブを開けゴクゴク飲む、バクバク煙草を吸う

人心地ついたあたりで周りを見回すと、スーツ姿のサラリーマンばかりで、おそらく出張

自分の為、家族の為、会社の為かは計り知らんが、遠征の為に早朝新幹線に乗り込んで、ボスレインボーを飲んでいる

俺は朝からビールを飲んでいる、しかも500ml、しかも発泡酒じゃない

今の俺は世間からどのように見られているんだろう、阿呆な道楽野郎と思われているだろう

苦労知らずの青二才が一人前に酒を飲んでら、けしからん!殺す!と思われているだろう

まさか今から妻の出産に立ち会うだろうと思う人はいないと思う

つーか嫁いんの? みたいな、って、そうそう、職場に勤怠報告のメールをださなっ、と思い立ち

携帯をいじって勤怠報告の文章を拵え、送信

「本日、妻の出産に立ち会うため、申し訳ありませんが休ませていただきます」

 

きっとみなさん驚くだろうな、妻って! 出産って!

なになにあの人結婚してたの? まじで? つーか子供産まれんの? まじで? みたいな

一騒動あることを願い、事務的な環境に起爆剤を、エッセンシャルを垂らす。

 

それにしてもまだ小田原かぁ、静岡までまだまだだな

これほど静岡に1秒でも速く到着したいと思うのは、

あの「大阪→静岡チャリンコ旅行 in 冬 by ママチャリ & 地図なし」以来だなと思ってなんか同じ気分になって

車窓から「727」の赤い看板を眺める

 

 

静岡着、改札を出る時「この切符を記念に欲しいです」つって判子を押してもらい切符を貰う

改札を出るとアキコ母いわゆるところの義母が待っててくれて

「おひさしぶりです! どうっすかアキコは!?」つって車内アキコの容態を仔細に聞く

まず破水ってのは陣痛がきていよいよ産まれるって時に起こるものらしいけど

アキコの場合はその破水が先にきてしまい、今は陣痛が来るのを待っているとのこと。

次に、破水が先に来るのはそう珍しいことじゃないから気にしないでいい、とのこと

最後に、まだ陣痛がきていないからアキコはいつもと変わらない

ってかなにせ初産だからとにかく時間がかかる、今日中に産まれるかどうかもさだかじゃない。の以上3点

 

もしかしたら今日生まれないかもしれない、だとしたら明日も仕事を休まなければならない

それはちょっと気が引けるな、このクソ忙しい時に・・・

かといって俺の都合でぽっこり産むわけじゃないし、運を天に任せよう

こういう時こそ一番大事なことがぶれてはダメだ

一番大事なのは「アキコと子が安心して出産に立ち向かえること也」

 

そうこうしてるまに病院に着き、外に出る、俺の身体がおかしくなったのでは?と自分を疑ったがおかしくなってなどいなかった

死ぬほど熱い、なんだこの熱さは!? 馬鹿じゃなかろうか、あとあと聞いた話によるとこの日は34度もあったらしい

そりゃ蝉も鳴くわな、ミンミンいってら。

日陰まで義母とならんでちょかちょか走って、院内に入る、涼しい。

はやる気持ちを抑えエレベーターに乗り込み、産婦人科のある階に到着する

そして気付く、そう言えば47日振りにアキコに会う、こんなに久々に会うのは未だかつてないことだ

おいおいおいおすげぇ緊張する、もえもえする

アキコがいる出産待ち合い部屋のカーテンをしゃっとあけベットの上に座るアキコを見る

「かわいー」

「タクちゃん顔痩せた?」

「お前どうした、すげぇかわいくなってんじゃん」

「タクちゃん痩せたよね」

「お前どうなのお腹は、陣痛はきた?」

「まだこないよ、何も痛くない」

「へぇ、俺はやかったでしょ?」

「速いね」

「最速できた、駅でインド人家族に道を聞かれてターンレフトつった」

 

 

と、久々にあってもいまいち会話が成立していないのさておいて

アキコの腹を見て触って、前よりもでかくなってるのがひしひし伝わる

しかし基本的に陣痛がこないのでやることがない、ひたすら陣痛待ち

アキコの腹にまかれたでかい聴診器のコードが陣痛マシンに繋がっている

なにやらこの機械が陣痛の痛さと胎内の子の心拍数を計るらしく

液晶には心拍数と陣痛周期と陣痛値がデジタルカウンタで表示されている

ちなみに今は心拍数160、陣痛値7

その結果が下の口から折れ線グラフとなって掃き出される

現在はほとんど変化なしの静寂なうみのごとくで、おそらく陣痛がピークになったら荒波になるんだろうな、と思いつつ

一通り陣痛マシンで遊んだ後

ちょっくら院内を探検してくるつって外に出て煙草を吸い、売店とかを眺めて回る

途中同じ階層の休憩室に雑誌があり、アキコの為に女性セブン、俺の為に「野球狂の唄」を持ち帰り

義母は一旦家に帰って、病室内で陣痛まちがてら読書する

水島作品のほとんどを漫画喫茶バイト時代に読みまくり「野球狂の唄」もかつて読んでいたが

やっぱおもしろい、最高だよ岩田鉄五郎

まさかあそこで島を監督の当て馬に使うとは・・・と読書に耽る。

 

 

たまーにお腹を抱えて「痛い」って言うけど、まだまだ笑って言える程度なのでほとんど陣痛じゃない

産婦人科の先生も言っていた「笑って痛いといえるようではまだまだ・・」って

(何が「まだまだ・・」だコンチクショウ、通ぶりやがって玄人分なボケカス)と腹の中で医者に向かってなげ

「今日中には産まれますか?」「まだこの調子ではわかりません」

「やっぱ初産だとながいんでしょうか?」「そうですね、人にもよりますが陣痛が始まって最低12時間くらいはかかると思います」

「12時間もっ!」「中には2日、3日かかる人もいますよ」

「2日!? 3日!? 長げぇー そんなに仕事は安めねぇ」

「ともかく陣痛が来ないと出産まではまだまだですね」

「はぁ」、と、気が遠くなるようなことを謂れ

こいつぁもしや今日中に産まれんかもしれん、よくて明日の午前中だとして、・・・・仕事は明日の午後からだな

取りあえず今後の見通しを立てると、不意に先ほどから疼いていた睡魔に襲われ、昼食後20分寝る

ほんとは本気で眠って体力をつけたいのだけど、そうはいってらんない、俺がしっかりとアキコの容態を見張っていなければ・・と思うが

なかなかその陣痛ってのがこず、たまに「痛い痛い・・・あっ、もう全然痛くない」となんだかはっきりせず

ベットの横に椅子を2つ並べ、その上に寝そべって「野球狂の唄」熟読

やっぱおもしろいよ野球は! 最高だよ!つって熱心に読んでいると

不定期にアキコが痛い痛い訴え始め、以前より「陣痛マシン」から掃き出されるグラフも慌ただしくなってきた

けど、自分には「コミック・リーダー」という漫画を読み出したら世間のことが気にならないというスタンドが発動しているため

むずがるアキコに「つったって、まだまだだろ・・」と通ぶったことを抜かし、アキコに背中を蹴られ、我にかえる

その後は献身的に介護に当たる。

 

 

午後2時を過ぎると陣痛もだいたい10分起きに起こるようになり、

おーおーこれは良い前兆だなと思いながらアキコの腰を摩る

「どう? どう? 痛い?」「うん、痛い」「どんな感じな痛さ?」「生理痛みたいなやつ」「全然わかんねぇ」なことを言いながら

ベットの上で右向きになったり、左向きになったりするアキコに合わせて俺も場所をかえ腰を摩る

そんな最中、注意深く観察してわかったことがある

まずこの「陣痛マシン」はかなりいい加減だ

陣痛値が77を示した時、陣痛77とかかなり痛いんじゃないのか?と心配して「アキコ痛いか?」ときくと

ケロッとした表情で「全然なにも痛くない」という」

かと思えば「痛い痛い痛い」と蠢くアキコの腰をさすりながら陣痛マシンを見てみると陣痛値2

・・・なんなんだこれは????

これが正常動作なのか?

もしかしたら数値が低いほど痛い、つまりは陣痛がきている?

でもなぁ、午前中はずっと0だったし、なんなんだ? 壊れてんのか?

つーか機械に人の痛みがわかるのか?

なんか最後の1文格好良い

ともかくわからないことがあれば知っている人にどしどし訊こうでお馴染みの俺は、俺ちゃんは

定期的に来る助産婦に陣痛値が示すものは何? どうやって痛みを計ってるの? 数値が高いと痛いの?ときくと

陣痛値はお腹が張ると上がって、お腹がへっこむと下がります

そもそも陣痛とは、赤ちゃんが産道までさがって、子宮口が開くから痛みがあるの

だから今痛いのは、赤ちゃんが一生懸命産道に行こうとしてるから痛いんですよ。と

丁寧親切に教えてくださって、ぐうの音もでねぇ、丸わかり

つまりは赤子が下がって子宮口をこじ開けるから痛いのか、はっはーん

納得面をさげると助産婦は出ていき、それと同時に表が騒がしいなと思ってたら

アキコの寝るべットの横、カーテン一枚隔てた隣のベットに新たな若い夫婦つっても俺より年上っぽい夫婦がやってきた

おーあの人たちも産むのか、同じ日に産まれたら誕生日が一緒だなぁ、と当たり前のことを

死ぬほど眠い頭で思っていると、陣痛が来たので摩る

 

 

午後3時、売店にいってお茶やポカリを買ったり、表に出て、眼前の山々、ところどころに茶畑を見つめつつ煙草を吸い

母に電話をして「なんかまともに陣痛が来はじめた」現状を伝える

未だに「行きたい!行きたい!私も行きたい!あんただけずるい!」と抜かすので

今来っていつ産まれるかわからんし、産まれんかもしれん、アキコだって気ぃ使うし、来るのなら産まれてから来い、つってなだめ

でもまぁめちゃめちゃ会いたいだろうな、初孫だしな、と思うので、定期的に連絡はしようと、早速親の気持ちがわかり始めた今日この頃

あほかっつーほどに灼熱の静岡より

 

病室に戻って、義母にアキコの容態や医者や助産婦がいってた言葉を報告し

この陣痛マシンはかなりいい加減、俺の見立てだと腹にくっついてる聴診器がアキコが動くためずれて、正確な数値を出さないみたい

だから、ほら、これ、みてみ、俺、何時何分に何分間陣痛が来たか、あと陣痛周期を紙に書いて記録してんの

今はね、だいたい10分おきに1分間、定期的に陣痛が来てるよ、で、この陣痛周期が2〜3分になると出産らしいね

そうこう言っている間にトイレから帰ってきたアキコをベットに寝かす

隣の夫婦も少しずつ陣痛がきているらしく、時折はぁはぁと呻く声が聞こえる

目をつぶって聴いているとなんかすごくエロい

「隣でセックスしてるみたいだね」とは口が裂けても言えなかった。

 

 

午後4時 陣痛は来るがまだ10分の壁は超えられない

だけどだんだんと口数が減ってきたアキコの横で、俺は今まで記録したデータを眺めながら

赤ペンで書くよりも黒ペンで書けばよかったなぁ、と思った。

陣痛マシンは相変わらずいい加減だけど、内蔵のスピーカーからドクンドクンドクンと赤子の心音を響かしている

その音を聴いていると、生きてんだな、もうすぐ生まれるんだな、とても不思議だ

だって俺とアキコとアキコの中にいる赤子、命の数は変わらないのに

それに己の手で触れられるか、触れられないか、の距離にいるだけでこんなにも違う

胎内にいるかいないかの違いだけだけど、大きな違いだな、と思う。

緊張はとっくにない、朝家を飛び出した時も、アキコにあった時も緊張はしなかった

出産予定日一週間前になったあの日ほど緊張はしない

いまはただ、健康に生まれることを望むのみ、今日中に生まれることを望むのみ、できればお布団の上でぐっすり眠れることを望むのみ

眠い、眠い、死ぬほど眠い、けど眠るわけにはいかん、アキコが辛そうだ、がんばろう。

 

 

午後5時、ほとんど口をきかなくなったアキコ

さっきまでは顔が一瞬歪んだら陣痛時だと思ってやってたけど

今ではハンカチを握り顔や口に押し当てているため表情が読み取りづらい

だからしょうがなく「痛い?」ときき、少しアキコのからだが動いたら腰を摩る

「痛い?」と聞いたら腰を摩る、「痛い?」と聞いたら腰を摩る、を続けていると

次第にタイミングってか、状態で陣痛を察し始め、最終的に違い無言で擦る。

だけど無言は寂しいので、いろいろ話し掛けるけど、やっぱ無視される

だけど陣痛と陣痛のあいまにアキコがいった言葉、俺は忘れない

「タクちゃん、本当に来てくれてアリガトウ」

普段は(恥ずかしいからか?)俺を誉めたり俺に感謝したり(しているのだろうど)しないアキコが

こうやって感謝の意を表明するのは初めてで

あまりの衝撃に一瞬淡くったけど、アキコがこういうことを言うほど弱気になっていると思うと

なんかいたたまれん気持ちになって、でもすげぇ嬉しくて、絶対安全に産ます!と誓う。

 

 

午後6時、義母がカツ丼弁当を買ってきてくれた

アキコには病院から飯が出たが、とても飯を食べれる状況ではない

でも喰わなきゃ体力がつかないので、持参していた飴をすすめると食べた

俺も持久戦に備え、体力をつけなければと弁当をバクバク喰うが

思いのほかこの弁当がめちゃめちゃ旨くてあっつーまに食べ終え、義母の残した弁当も食い

表まで出て、煙草を吸い、今一度病室に戻り、業務開始

今では一切何もいわなくなったアキコ

陣痛が来るのをジッと耐え、陣痛が来るとハンカチを口に押し当て痛みがさるまで必死で耐えていた

俺は腰をさすり、さすりまくり、先ほどもう摩らないでと注意されたので

腰元に手をそえ、一生懸命「気」を送り、片方の手でアキコの手を握り、頑張れ頑張れと勇気づけていると

なんだか俺ってほんとしょうもないな、苦しさの1ミリも受けおることができないのだなと思い

必至で痛みにたえるアキコを見ていると、なんか心に沸き上がるものがあって、ぼろぼろと涙が流れ、止まらなくなった

 

助産婦と医者が入ってきて「今から子宮香を見るので、出ていって下さい」といわれ

俺と義母はカーテンの外で待つ

ほどなくして医者があらわれ「まだ5cmしか子宮口が開いていません、もしかしたら出産は明け方くらいになるかもしれませんよ」といって消えた

そっかーまだ4センチかぁ、せめて8cm、いや、10cmは開かんと出産できんって出産手引き用紙に書いてあった

まだ5cmか、長いなぁ、長い戦いになりそうだな

病室に戻り、アキコの様子を伺う、やっぱしぐったりしている

その反面、隣の病室がにわかに騒がしくなっている

 

 

午後7時、次第に陣痛が激しくなっているようで陣痛マシンから掃き出される用紙も荒れている

相変わらず俺はアキコに陣痛が来ると腰に手をそえ、じっとアキコを観察する

手を見るとベットの端をぎゅっと握っている

(何かを握るとよいのか? 握りたいのか?)

取りあえずベットのサイドにある折り畳み式の手すりを立てて、ここを掴めとアキコの手を誘導すると握った。

 

睡眠不足と疲れで顔がベタベタする、そして眠さもピークに来た

義母に「ちょっと待ち合い室のソファで10分ほど横になってきます、その間アキコをよろしくおねがいします」っていうと

「あれだったら1回家に帰ってお風呂はいってくれば?」

「あー風呂はいりてぇ、でもまず眠りてぇ、とりあえずソファで横になって考えてくる」つって

病室を出て、今ではがらんとした院内にある待ち合い室の茶色い合皮のソファに倒れこみ目を瞑る

 頭の中で思考がぐるぐる掻き混ざっている、微睡んでいる

汗と脂で湿った皮膚に合皮のソファが張り付いて気持ち悪い、背後でエレベーターの稼動する音が聞こえる

いつしか眠りについていた

 

 

 

 

シャツの襟元がぐっしょり脂汗で湿っている

頸周りを掌で拭って、ズボンに擦り付けながら勢いよく立ち上がった

眠りすぎてしまった、時計を見ると午後8時を回っていた

体力は前よりも回復したけど、でもまだ眠い、ここひとつ1度家に帰ってリフレッシュしたほうが良いのでは?

このままじゃ朝まで体力が続かん、と思い思い、病室のドアを開けると女のうめき声が耳を刺す

「ぎゃー 痛い痛い痛い もういやだぁぁぁぁぁ 痛いよぉ はぁはぁはぁはぁ あ゛ぁぁぁぁぁ」

明らかにアキコの声ではない、隣の病室の夫婦のってか嫁さんの声だ

すげぇ悶絶地獄だな、点滴で陣痛誘発剤をうっていたからおそらく先に生まれるのだろうけど、

陣痛も佳境に入るとあそこまで大悶絶するのかぁと思い思いカーテンをシャッと開けて病室に入る

さっき以上にはぁはぁと肩で息をし、額に汗を滲ませるアキコ、

もう噛み殺せないほど痛みが激しくなっているようで

「はぁぁぁぁぁ」とか「ひぃぃぃ」とか「痛い」と息と供に声が漏れて聞こえる

ベットのてすりを力一杯握って、青い血管が浮き出している

スッとアキコの側に行き、あとは俺がやりますといって背中を摩っていた義母とチェンジ

「アキコぉ 大丈夫かぁ? あともう少しだかんなっ がんばれよ! 痛いってことはもうすぐ生まれるってことだから!」っていいながら号泣

もうこんな状態のアキコを放って1度家に帰ってリフレッシュするなんて出来ん

死なばもろとも! 最後まで看取ってやる!

「看取る」ってこの場合表現として適切かどうかはおいといて

絶対最後まで諦めん、眠いとか、疲れたとか、苦しいとか言わん、その1億倍アキコはしんどいんじゃ

「おばちゃん、やっぱ俺、帰らんでアキコを看病する、このまま放ってかえれん!」

そう言って勢い良く腰を摩ると、アキコにぺしっと腕を叩かれ

そうだそうだ摩るんじゃなかった、こうね、手を添えるのねつって気を送る

陣痛マシンからは相変わらず胎内の子の心音が鳴り響く

隣から奥さんの絶叫阿鼻叫喚地獄絵図音が鳴り響く

それから数十分、陣痛が来たら腰に手をやり安心を与え、陣痛が止んだら椅子に座って義母と話したり

陣痛マシンを見たり、陣痛手引書のプリントと現状を照らし合わせ、予想出産時刻を推理したりする

現在の陣痛周期はおおよそ5.6分、プリントによると子宮口はだったい4〜7cm開いてるらしい

さっき検診した時はまだ5cmしか開いていなかった、出産が可能子宮口は8〜10cmと書いてある

少なくともあと5cmは開かなくてはならない、まだまだ先だなぁとプリントを眺めていると

助産婦と医者がやってきて、検診をするためまた病室を追いやられた

自分は煙草を吸いにがらんとした院内をキュッキュ歩き、表に出る

気温は随分下がったけど、べったりとする生暖かい空気が不快だった

煙草に火をつけ、母に電話で現状を伝える

「けっこ陣痛が激しくなってきたけど、医者が言うには今日中はムリらしい

別に今日中に産まれなくてはならんとかないけど、安全にさえ産まれればいいけど

だいたい明け方くらいになるとか言ってたから、体力的にもつか心配だね」

「私さっき満ち潮の時間を調べたんだけど」

「満ち潮? そんなん関係あんの?」

「あるよ!」

「でも満月の日に出産が多いって書き込みにあった」

「そっちのほうはだいたい午後10時30分くらいだけど、明け方産まれるんだったら午前4時の満ち潮だね」

「俺もそのくらいになると思う、まだ子宮口5cmだったし、ま、またなんかあったら連絡する」つって電話を切る

cvd

 

病室に戻り「アキコ何cmだった?」って聞くと6cmと義母

おおすげぇじゃん!2時間で1cm先進、この調子だと大体明け方4時過ぎには10cmになるな

って4時!? ちょうど満ち潮じゃん! 絶対産まれる!

さっきにうちのオカンと話したんだけど、このへんの満ち潮って今日は午後10時30分と明け方午前4時くらいらしいよ

おそらく隣の奥さんは10時30分の満ち潮で出産で、アキコは午前4時だと思う

そうしたら俺、明日は午前は休んで、午後から出社できるな。

がんばれよーアキコ! もう6cmだぞー!

(うん)

肩で頷いた

 

 

 

 

午後9時、一度仕切りなおして今までのこと、主にここ数カ月、妊娠が発覚してから今現在に至までの道のりを思い出す

ちょいとした感慨にふけようかな、そしたらば産まれた瞬間は倍以上の感動に打拉がれること必至

なぁんて思ったけどそんな余裕微塵もなく、コンマ1ミリも皆無で

9時を回ってからどんどんアキコの陣痛が烈しさをまし、

徐々にうめき声も大きくなり、陣痛の周期も短くなっていく。

隣の奥さんも同じょうに時間が経つにつれ絶叫が大きくなり、医者が来たり、助産婦が来たり、で慌ただしい

その度「そろそろ出産か?」と思うけど、冷静な医者の声で「もうそろそろだけど、もうちょっと待ったほうがいいですね」と聞こえる

おいおいおいおい、奥さん病室内響き渡る声で大絶叫しているのに、それでもまだなの? まだ分娩室にいけないの?

少し戦慄する

だって、ただでさえ静かに苦悶するアキコ、傍目からでもその痛さはひしひしと伝わるけど、まだ大絶叫にまでは至っていない

すこしづつ声はもれるが、隣の奥さんと比べたら天と地との差がある

ってことはアキコが絶叫するほどの陣痛に見舞われない限りまだ出産に至らず

また、大絶叫しても隣の奥さんのごとくなかなか分娩室まではいけない

くぅ、出産って大変だな、つくづく子供を作るのは簡単だけど産むのは簡単じゃないと思い知らされる

女は凄いなぁと思い知らされる。

そうこうしている間に、再び医者と助産婦がカーテンを開けやってきて、検診をする

また表に出る俺と義母

 

 

少しして医者が出てきて、(子宮口が)7cmになっていました、という

7cm!? もう!? 俺の計算では2時間に1cm開く計算だったけど

わずか1時間で1cm拡大したアキコの子宮口

あと1cmじゃん!! すげぇなアキコ!! この調子でがんがん開いていこう!

心の中でアキコの子宮口にエールを送り、少し軽やかな気分で病室内に入る。

「もう7cmだってよ! すげぇなアキコ! この調子なら早くうまれるぞ! 3時間以内にはうまれるぞ!

3時間経てば子供にあえるんだ! 3時間後は痛みはないんだ! がんばれ! クライマックスだ!」

とにかく勇気づけるため、自分ならこう言われると楽だな、と思う言葉を嘘でも何でもいいから言う

 

 

隣の病室から「いきんで」という言葉が聞こえて思わず耳を傾ける

奥さんの「うーん、うーん」という声(絶叫)が聞こえる、夫の励ます声が聞こえる

何?何?ここで産むのか?と思ったが、どうやら違った

軽くいきむ練習をしているらしい、ってことはそろそろ分娩室か?

なんて思っているとほどなくして隣の奥さんはベットにのまま分娩室に直行した。

おもわず義母に「隣の人、もう産むね。分娩室ってすぐそこじゃん!」つってアキコの腰に手をやる

子供が動く振動が伝わる。

 

 

 

午後10時、分娩室から発せられる奇声、絶叫、悶絶

分娩室に入ってからも戦いは続くんだ、と改めて実感させられた

指定の白衣を着た旦那さんが助産婦に呼ばれ分娩室に入っていった。

「タクちゃんも立ち会うんでしょ?」「オフコース」

「勢い余って倒れないでね」「大丈夫だと思うよ、愉しみでわくわくがたまらないもの、でもシャシン撮らしてくれるかな?」

「お願いすれば?」「うん、あとで聞いてみる、ダメでもカメラを持ち込んでシャシンをとる」

そんなことを話していると、アキコの異変に気付く

今までは「うぐぐぐぐ」とか「痛い」とか「フーフー」とかしか言わんかったのに

「もうダメ、もう産みたい」と言い出し、なんか力を込めている

「うーん、うーん」つって力を込めていきんでやがる

おいおいアッコさん、まだいきむにははやいんでないかい? ぜんぜん絶叫していないじゃないっすか?

確かにもうそろそろ満ち潮で、月の引力かなんかが作用して出産できやすい環境だけど

まだ子宮口だって7cm、もうちょい耐えろ、がんば、ふんば、と思いながらアキコを見ていると

ナイスタイミングに「林田さーん、何? もういきんでるの? まだだめですよー 産みたいの?」と言いながら助産婦が入ってきて

他人の口からアキコに対して「林田さん」と言うのを聞くのは本当に新鮮だな、と思いながらやりととりを見ていると

「はいはい息を抜いてー 力をこめないでー ほらいきまない。」

「・・・産みたい」

「どうなんですか? 助産婦さん! かなりアキコいきんでるけど大丈夫なの?」

「ちょっとかなり力はいってますね、1度子宮口を見ますか? ね? 林田さん」

「・・・いやだ」

「いやだじゃねぇよ! 見てもらえよ」

「・・痛いし」

「そういわないで。では御家族のかたは外に出て貰えますか?」といわれ表に出る

隣の奥さんの絶叫がよりいっそうでかく聞こえる

ちょうどその時、パタパタと白衣をきた夫が小走りでやってきて、脇にある洗面台で顔を洗っていた

「じゃ、俺、ちょっと煙草すってきます」つって、病室を出た。

 

 

 

アキコいきんでるけど、もうすぐ産まれるのかな? 

でも子宮口は7cmだったし、10cmになるまでは、大事をみて分娩室にはいけないだろうな

分娩室ってどんなんだろう? かなりわくわくする、胎盤ってどんなんだろう、すげぇすげぇ見たい!

ああー愉しみだなぁ もうすぐ産まれるなぁ、もうすぐ白衣着れるなぁ

煙草を携帯灰皿にねじこみ、ながらそんなことを思い

病室に入ると、あれ? 義母がまだ表にいる

「まだ診察してんの? アキコ何cmだって?」

「それがね、タクちゃん、アキコもう全開だって!」

「まじでぇぇぇぇ!! もう全開なの?? じ、じゃぁもう産まれんじゃん!」

「だから今、いきむ練習してるみたい」

「もう全開かよっ! 俺の計算狂いまくりじゃん! ってかアキコ凄いね

すでに全開だったのにもかかわらず全然絶叫してなかったね、あいつ根性あるな! 痛みに強いな! 尊敬する」

「そうね」

 

 

ようやく中に入っても良いと許可され、病室へ

少し緊張した面持ちのアキコ

もうすぐ産まれるな、がんばれよ、俺がついいててやるから張り切っていこう!といい

分娩室の準備が整うまで同じように陣痛が来たら手を添えるをやっていると

遠くの方から赤子の泣き声が響く

わっ産まれた! でかした隣の奥さん! おめでとう!!

ほどなくしてベットに寝たままアキコは分娩室に入っていった。

 

 

 

 

午後11時、助産婦に「旦那さんは立ち会いますか?」ときかれ間髪入れずに鼻息をふんふん荒らげながら「入ります!!」と答える

「では、こちらのスリッパに履き替えて、あとこの白衣を着てください」といわれ、受け取る

「あのぉ出産のシャシン撮ってもいいですか?」と恐る恐るきくと

「いいですよー」と超お気軽にいわれ、安心した

とにかく汚い靴を脱ぎ、スリッパに履き替え、白衣を羽織り、デジカメの電池をかえ、首にぶら下げる、準備オッケー

「どう? おばちゃん。俺、似合う? ブラックジャックみたい?」

「タクちゃんシャシン撮れるでよかったねー」

「よかったよ、全然お気軽なんだもん、がんがん撮るぜ俺は。

あっそーだそーだ、この「今から父になる俺」を撮って」つって写ルンですを義母に渡す

もっとこう、横図じゃなく、縦図で、そう! そういう感じで全体を撮って。パシャ。よしオッケー、ありがとう

はぁ まだかな、まだかな。旦那はそろそろ産まれるって時に呼ばれるんでしょ?

初産だから1.2時間はかかるかなぁ? でもな、アッコ全開だし、いきんでたし、案外早く産まれそうだね、つってっと

「林田さーん」「はいっ!」「どうぞ!」「応!」

 

ついに呼ばれた。案外早く呼ばれた。身体の節々に違和感を感じる。

 

 

 

 

分娩室入り口の扉を開け、7メートル程真直ぐ進んで左にある2つめの部屋がアキコの分娩室

はやる気持ちを押さえ、7メートルある薄暗い道を進んでアキコのいる部屋に入る

眼前に漫画やテレビでよくみる出産の光景がひろがっていた

しかし1点だけ違うのは分娩台でいきんでいるのが知ってる人、ってかアキコ、

つーか3年前に船橋のフレッシュネスバーガーでバイトしていた時に、たまたま知り合った女の人が

俺の子供を今、まさに、産まんとしている瞬間で

なんかそれだけで涙が出そうになるが、涙を流すのはまだ早い、思い改め

アキコの顔の横に行き、きたぞ、もうすぐだからがんばれよ!つって、

アキコの股ぐら付近にいる関西弁の先生と丸い助産婦と眼鏡の助産婦に、「よろしくおねがいします!」と大きな声でハキハキいって

「取り合えず何をすればいいんですか?」というと「息む時に奥さんの頭を支えてあげてください」というので

なんのことかわからんけど「合点承知」つって、いろいろ観察することにする

不意にアキコがいきみだす、その刹那、先生が「はい、おへそを見るように身体を曲げて、いきを止めてゆっくりいきんでください」といい

おっ ここで頭を支えるんだな、なるほど。と思って

腹筋運動するようにいきみながらアキコが頭を持ち上げるのでその頭を介助する

「はい、じゃぁ、息を止めて、はい、ゆーっくりいきんでぇ」

そうそうゆーっくりいきんで、アキコ

「足は閉じないよー」

足は閉じるなだって、つって、アキコの右足をがっと開く

「はい、息吸って、もう一度息んでー」

息吸え、そしてもう一度いきめ、アキコ

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ」いきむアキコ

「ぷはぁぁぁぁぁぁ」いきみ終了アキコ

「じゃぁ、鼻から息吸ってー」

鼻から吸えだって、そうそう。鼻から。よーし。と、

ただなんか俺、先生がいってることをオウムのように言ってるだけで一回目のいきみは終わってしまい

こんなんじゃ全然役立たずだな、ダメだ、と小さな反省会を開く

 

まず、何時いきみだすか?だが、これは大体1分起きだろうと思う

確か出産手引書にも「出産時は1分間隔で陣痛が来る」って書いてあった

あっ陣痛に乗じて息むんだぁ、そう言えば俺の脇に陣痛マシンがある。

そして息み始めたら、まず、アキコの頭を介助してあげて

ゆっくりいきむように指示してあげなくてはならない。

で、さっきの一連の動作から1度息んで、1回息継ぎして、もう1度息んでたな

このタイミングが難しい・・・・いつどのタイミングでアキコの酸素切れを察知するかが問題・・・陣痛きたぁ

まず頭を介助してあげて、ゆっくり息む、息む、息む、まだ息める? よし息、あっ息継ぎ? でもう一度息むーーー

あっそうだ足をひろげる、で、息む、陣痛終了、鼻から息吸って。

 

最後の鼻から息吸っては完璧覚えた

真っ赤なアキコの顔が見る見るうちに普段の顔に戻るのは面白いな

で、1分置きに息むのは正しかったな、でも、どうもアキコの息継ぎのタイミングがつかめない、どうしたらいいんだ?

とにかく息んでいる時は足をひろげ、ゆっくり長く息ますのが肝心の模様、この繰り替えしか、早く慣れなければ、と思ってると

また息みだし、頭を支え息む、アキコを見てとても辛そうだなと思い、思わず感情移入してしまい

俺まで息む、息みながら「ゆっくり、ながく、アキコ、ながくいきめ・・・ぷはぁー」「ぷはぁー」

おっ! これだ! 「俺も息を止める作戦」

俺も同じように息を止めれば自然と呼吸が合う、俺とアキコがシンクロして、理想の出産ができる!

息があっているから苦しさを共有できるから、ベストのタイミングで理想の指示を出すことができる!これだ!

 

最高の方法を見い出した自分は、この後、2度3度息み、4度目にしてアキコの呼吸を体得した

このおかげでアキコの息苦しさが体感でき、理想の指示を出すことに成功した

よしよしよし、この調子で産むぞ!と決意を新たにし、出産に挑む俺

しかし、ある程度できるようになると、この1分間、陣痛が来るまでの空白の1分間が暇で

アキコに「痛い? 大丈夫?」ときくと「痛いけど、陣痛に比べたら痛くない」といい、はぁはぁしてるだけで

とりわけそれ以上、聞くことはない、いまさら「男だと思う? それとも女?」なんてこの状況下ではきけない

だから自分は、さっきからぺちゃくちゃ談笑する先生と助産婦に向かって

「どんなあんばいでしょうか? そろそろ産まれますでしょうか?」と聞くと「もう頭は見えてるからそろそろだね」つって

またぺちゃくちゃ談笑する先生と助産婦

おいおい緊張感がないなぁ、いいのか? でも堅苦しいよりはましだな、と思っていると、陣痛

「はぁーい、来ましたよ、陣痛、集中!アキコ、ゆっくり息吸って、息む」とだんだん俺もこなれて来て

陣痛が来る度に「行くよ!先生!」とか「はい、きたー、どっせーい!!」と面白くなってくる

 

「どうなの?助産婦さん。頭出てる?」「けっこうでてるから、もうちょっとながく息んだほうがいいね」「どれどれ?」つって

アキコの股ぐらを覗き込むと、うぉぉぉぉぉぉ! ほんとだぁぁぁ! あっはっは、頭でてる、ゲラゲラゲラ、血まみれじゃん、げらげらげら

普段見なれてるアキコの股ぐらに小さな頭が見えてもう大爆笑

「アキコ、アキコ、いるぞ、頭あるぞ、わらえる、なんか髪の毛がピンと立ってるの(笑)」

もう不っ思議でしょうがない、当たり前のことなんだけど、頭があるのが個人的なツボにはまって、何度見てもおもろい

ひゃー、でもなんかすげぇな、命だな、血まみれでグロいけど、感動するわ。

もう出たがってるから、もうひと踏ん張りがんばろうぜ、つって、息んで、俺も息んで。

 

 

 

不意に、あっ!シャシンシャシンと思いだし、空白の1分間にシャシンをとる

先生も助産婦もなんか軽いので、気兼ねなくとれる、でもはじめはアキコの顔とか、出産機具とか撮ってたけど

もっと、こう、全体像が欲しいなと思って、徐々に後退し、入り口付近で全体を撮る、とかしていると、陣痛が来る

急いでアキコの横に戻り、頭を抱え、息を止める

先生がしきりに「ゆっくり、ながく」というので、苦しい声で俺も「ゆっくりながく」とアキコに伝える

股ぐらをみると、頭がぐぐぐっとせりだす、中々全部はでてこない

見ていると、これは本当にでるのか?と疑ってさえしまう、物理的に無理なんじゃないだろうか?と思えてしまう

だけど回数を重ねるごとに頭がよりせりだし、もっともっと、息め!と思うが、酸欠で終了

「あとちょっとだぞ、アキコ、がんばろう、かなりでてるから」と現状を報告していると

「奥さん、このままだとさけちゃうんで、会陰切開してもいいですか?」と先生

無言で何度も頷くアキコ

(会陰切開とは、赤子が産まれる穴から肛門方向にハサミを入れ切り、出口を大きくし、裂けないようにする処置)

くわぁ、痛いなぁ、男で言うと玉袋の終から肛門にかけての部分を切るのと同じだろ? ぞっとするね。

けど、今のアキコにとっては1秒でもこの苦痛から逃れたいから、なんでもこい!みたいな雰囲気がある

格好良いなぁとほれぼれする、女は強いわ。

 

それから何度目かのいきみで、不意に先生が「今から切ります」つって「パンっ」と聞き慣れない音がして

恐る恐る覗き込んでみると、鮮血が吹き出したあとが、点々とシーツに飛んでいた。

しかし、この処置がこうをそうし、よし!もうひと踏ん張りっ!と、素人目からみてもわかるぐらい、頭がせりだす

 

アキコ、あと、何回かで産まれるよ、つって、先生達をみると何やら真剣な面持ちに豹変している

陣痛がきた、頭を持ち上げ、足を開き、息を止め、股ぐらをみつめる

ゆっくり、ながく、力をこめろ、そうそうそうそう出てる、息継ぎ、長く、がんばれ! もうちょい、おしぃ、あとちょいだ

陣痛、ゆっくり、長く、長く、んんんんんんん、がんばれ、もうすこしだ、がんばれ、息吸って、でてるでてる。ああ。

鼻から息すえ。新鮮な空気を一杯すえ。あとすこし。がんばれ!

 

 

そして陣痛、ゆっくり頭を持ち上げる、俺はそれを左手で介助し、一緒に息をとめ力を込める

ゆっくり、ながく、ゆっくり、ながく、んん、んん、ぐぅぅぅぅぅ・・・ そう! 出てる。ぷはぁー

もう一回、ゆっくり、ながくぅぅ、ながくぅ、出てる、出てる、出る

助産婦がアキコの股ぐらに手をやり、赤子の頭を掴んでいる

アキコ、もうすぐだ! 苦しいけどもうちょい息め!! でる、でる、

 

 

 

 

出たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!

うぉぉぉぉぉぉぉぉ

 

 

感動の余り大量の涙が流れる、へなへなへなっと力が抜け足下がふらつき、アキコにおおいかぶさる

「アキコォォォ 産まれたぁぁぁぁ よくやった!! よくやった!!」

青ざめた顔だけど、安心した顔をするアキコをみて、涙が止まらない、ついに産まれた

(あっそうだ)どっちだ?

アキコの股ぐらでぎゃんぎゃん泣く子の股間を見る、チンコがついてない!

「女の子だぁぁぁぁぁぁ」と絶叫、大感動

男か女しかないのに、女だってことだけでも感動で涙が止まらなくなる。

 

 

 

 

臍の緒の処置がすまされた娘がアキコに抱えられる

ギャンギャン泣く娘、静かに涙を流すアキコ、シャシンを撮る俺

俺も抱けるのかな?と思ってたけど、これからまだまだやることがあるようなので、

人さし指で二の腕を触ってみた、プニっとして暖かかった。

時計を見ると午後11時29分だった。

 

子を産んだ後、大きさ30cmくらいの薄透明のコンビニ袋に、やわらかくしてキカイダーが入ったものが出てきた

ずるりと出てきた

これが胎盤だった

 

 

 

出産は終わり、アキコの後処置があるようなので俺は分娩室を出て

義母に「産まれた、女の子だった!」と伝えるが「タクちゃんの叫び声ですぐわかった」といっていた

写ルンですで「父になった俺」を縦図で撮ってもらい

表に出て、煙草を吸いながら、母と弟、あとバータンと亀夫妻に連絡をする

「産まれたよ! 健康に産まれたよ! 女の子! 3096グラムだった!」

止まぬ高揚感を抱きつつ、病室に戻った。

 

 

 

30分後、満身創痍でアキコが戻ってきた、もう一度「ごくろうさま」と言い、キスをした

「ところで名前はどうする? 男の名ばかり考えたからな、林田仁多郎はダメになっちゃったね」

「あっ、でも私、名前は決めてあるの?って聞かれたから「めるも」です」っていっちゃった

「まじ? まじでめるもにすんの? 俺半分冗談だったんだけど」

「でもね、助産婦さんとか皆、♪メルモちゃん メルモちゃんって歌ってた(笑)」

「まじで?(笑)」

「とりあえずは「めるも」でいいんじゃない? タクちゃんが言い出したんじゃん」

「うーん、字画とか見てみるけど、とりあえずは、まぁ、それで」といったあと

急に疲労と睡魔に襲われ、待ち合い室のソファで横になる、けど眠れない

興奮とか、感動とか、名前とか、アキコとか、いろいろ思い浮かんで眠れず

野球狂の唄を読む

30分くらいして病室に戻ると、助産婦に運ばれてめるも(仮)登場

わぁ、赤いな、赤い、そしてちっさい、手とか凄くちっさい、なぁと思いながらアキコの脇に置かれるのをみる

なんだか不思議そうな顔でアキコの顔を凝視し、俺が人さし指を突き出すと、小さな手でぎゅっと掴んで離さない

けど俺を見ない、アキコばかりをみる、俺の指を握ったままアキコばかりをみる、俺を見ろ、と思い、また、赤いな、と思う

だけど、基本的に新生児に合うのは初めてで、何をどうすればいいのかわからない

お父さんですよ、と言うのも気恥ずかしいし、かといって、自己紹介しても言葉は通じない

とにかく、遠目からみる、シャシンをとる、俺も抱いていいのでは?と思い

俺も抱いてみたい、というと、「優しく、揺らさないでね」とアキコにいわれ、恐る恐る抱いてみる

へにゃへにゃしてる、すぐに壊れそうでこわい、身体を強張らせて抱いていると、やっと俺を見た、

おもわず「ようこそ」と言った。

 

 

 

 

 

 

午前1時、義母の車に乗って家に帰る

家につき、早速風呂に入り、べたべたする汗を流す

すうさま床につき、目覚ましを6時30分に設定して、目を瞑る

しかし、身体も、心も、疲労しているはずなのに全然眠れない

頭の中では今日あったこと、娘が産まれたこと、娘の顔、娘かぁ、名前、アキコのことがぐるぐるめぐり

それに輪をかけて、明日は早く起きて仕事にいかなきゃならん、ただでさえ寝不足なのに睡眠時間はすげぇみじかい

だから1秒でもはやく寝なきゃ寝なきゃと思えば思うほど眠れず

それでも思考がとまらないので、強制的に何も考えないように勤めた。

 

 

午前2時30分就寝

ここ25年で一番長い日が終わった。

 

 

 

 

 

【 ようこそ 】

 

 

 

 

 

「ねむねむ」7+13

8時前の新幹線「ひかり」に乗って出社

早速眠い

気持ち悪いほど眠い

職場につくと、色々な人から「結婚してたんですね! メールを見て目を疑った」等いわれ

いろいろお祝の言葉をいただいて、とても嬉しかった

お礼に、立ち会い出産の雰囲気を身ぶり手ぶりでつたえ、うけたところは日記にも反映しようと思った

しかし眠い、今日の俺、全然使い物にならない

定時に帰っても良い?って聞くと「どうぞどうぞ、早く帰ったほうが良いよ」と言ってくれて

本当に良い職場だな、と思った

家に帰って即寝た、寝まくった

 

「かぐら」7+14

 

寝すぎて午後から出社した

午前中は日記を書いたけど、インド家族のくだりで個人的に盛り上がってしまって、なかなか静岡につかなかった

出社して真面目に働く、今日も残業をする

アキコから「股が痛すぎてつらすぎる」とメールが来る

「今日から授乳するんだけどまだおっぱいはでません

あの子はすごくマイペースで全然泣かないの」とのこと

家に帰り、めるも以外の名前を考えるため、ぱらぱらとジャンプをめくると、あった!いいのあった!

「かぐら」とかいいんじゃない? 林田かぐら、うん、悪くない

明日アキコに言ってみよう

この日も日記をつけるがあまり捗らない

長文になりそうだ

 

「名前」7+15

 

アキコの股はかなり痛いらしく、歩くのも困難の模様

だけど日に何度も授乳をしなくてはならないらしく、その都度大変らしい

痛すぎて感覚が麻痺しているから、尿意便意がわからないため3時間おきにトイレにいく

出産も大変だけど、出産後も大変だな。

「かぐら」を提案する、わりと好評だが、アキコの家族には不評だった

ってか、すでにめるちゃんとかいう愛称で呼ばれているらしく

やばいやばい、このままでは定着してしまうと危惧する。

悪い名前じゃないけど、苦労してひねり出したいからまだまだ決定はしない

職場に保険証の発行をお願いすると「名前」が決まっていないと発行できない、と、俺を焦らす

いっそのことめるもでいいかな?と思うが、〜でいい、よりも、〜がいいのほうがいいのでもうちょいがんばる

娘は相変わらずのマイペースらしく、おむつをあけると小便をし、屁をこく

ミルクを飲ます端からもりもりうんこをする、にたにた笑う

ものすごくマイペース&新陳代謝がよい

誰に似たのか? 俺に似たのか。

 

 

家に帰る途中、本屋に立ち寄る、姓名判断の本が欲しかったが売ってなく

名付け辞典という分厚い本を読む、買おうか買わまいかなやんだけど1500円、地味に高い

今この瞬間しか使わないしな、と、思って、買わない。

家に帰って姓名判断のサイトで「かぐら」「めるも」の名を入力して調べるが

互い犯罪者になる可能性が高い画数だったので、調べて良かったと思った

名付けのポリシーとしては無茶な当て字はつかいたくない、無茶に壮大になるのもあれだし、AV女優みたいでいやだ

大切なのは画数と音(響き)、あと、字面、あと、愛する漫画から

これらがそこわれないような文字で再度調べるが、あまり芳しくない、最中

かぐら→花楽が林田と結合すると、かなりの大吉ネームであると判明し

アキコと相談しあれこれ考えると、ずっと前に漫画喫茶で「はちみつとクローバー」を読んでいた俺が

「産まれてくる子が女だったら「はぐみ」って名前がいい!」つってたのをアキコが思いだし

「はぐみは?」「いいの?」「いいんじゃない?かわいいし。かぐらよりもいい。はぐぅって呼び易いし」

「だよね!いいよね!やったー。ちょっと待って調べてみるから」「じゃ、わたし授乳にいってくる」

 

「はぐみ」かぁ、かわいいな、林田はぐみ、呼び易い

早速各姓名判断サイトで調べてみる、と、いうのも、流派によって結果がまちまちだから

10箇所くらいで調べて、統計をとる方法で「はぐみ」を調べるが、あまりよい結果じゃない

だけどもう「はぐみ」以外にないと思え、片仮名にして再検索するがもっと良くない

じゃぁ1文字だけ漢字にする、つっても、「は」と「み」はともかく「ぐ」はむつかしいな

具 愚 虞 禺 どれもよくない、それに全部漢字にすることはないってことで

「は」と「み」を漢字にして、さんざん試した結果

画数・字面ともに納得のいく名前が完成

 

「林田 葉ぐみ」

 

うん、なんか良い風合い

俺が植物すきってのもかねそろえてるし

個人的に葉っぱの葉って字が好きなので、これでいこう!

 

早速アキコにメールで連絡

アキコもかわいいし字画もいいんじゃ最高じゃんつって賛同してくれたので

おそらくこれで決定すると思う

 

と、この日は、名前のことばかり考えてたので日記が「午後6時」までしか進まなかった

 

 

 

 

 

 

「完成」7+16

 

やっと今日だ! つっても日付けが変わって現在17日の午前5時18分

今日は土曜出社で仕事をしてきて、早めに帰宅し

23時過ぎから現在に至まで日記を書く、4日もかかってしまった・・・

分娩室のくだりで本当に息を止めながら書いてたら、思いだしてきて

産まれたところでまた泣きそうになった

感動が少しでも伝わったら嬉しいです

今からシャシンを拵えてアップします

3時間後には新幹線に乗って静岡にいくので、葉ぐみに会えます

だけど寝ていないので、葉ぐみの横で爆睡したいと思います

アキコの母乳をこっそり飲んでやろうと思います。

 

 

 

それでは長くなりましたが、無事出産にも立ち会え、無事出産を終えました

これで一段落つきました、と見せ掛けて

まだまだ終わらない、まだ大事なイベントが残っている

誕生に次ぐ一大イベント結婚式!!

 

 

次は結婚式にむけ躍進いたします。

 

 

 

 

 

新しい日記旧い日記