「完全版 天国の扉」5月3日-6日  [1扉開放(5/6更新)-2扉開放(5/6更新)-3扉開放(5/7更新)-4扉(5/9更新)]

                 [5扉(5/11更新)-6扉(5/11更新)-7扉(5/11更新)-終扉(5/11更新)]

 

*1扉*

 

 

 

『んじゃ行くぞ! 長野山中!』

 

 

 

白とか黒とか銀とか赤の箱に2対の車輪がつき

複雑なからくりでまい進するでお馴染みの乗り物車が

遠くまで延々と連なって、動かず、流れず、

滞って淀んでいく、人の心。俺の心。赤いテールランプが憎い。

 

 

純然たる行楽渋滞につかまり身動きできないバスと、そのバスの中でまんじりと鎮座する自分

御多分にもれずバス内も乗客率100パーセントであったため

「俺の席だけ隣の人がいなければいいなぁ」っていう甘い願望は即刻打ち崩されて

窓際、大学1年生で初帰郷って風情のアホ面メガネボーイと

通路をはさんで隣、短大を来年卒業するから東京で仕事を探しているんだけど、親が実家に帰ってこいってうるさいの

って悩みを抱えてる風情の美人ガールに挟まれて

自分は空ろな目のまま前方の滞って淀んだ車の列を眺めている・眺めている・眺めている目蓋が重いヘビの念

目を閉じても眠れない、一睡もせずに挑んだのに、だのに眠れぬ

むしろ心臓はバクバクいうし、さっきからおしっこに行きたいし

バスは動かねぇし、ケイタイのバッテリーは2本になるし、足に悪血がたまってかったるい

なんなんだこれは、最悪じゃないっすか!

まぁみんな同じ思いをしているわけだし、自分だけ不平をいうのも恥ずかしいのでいわんけど

メガネボーイはぽっかり口を開けて眠っている、憎い

美人ガールは音符記号がプリントされた白いヘッドフォンを耳にあてがい静かに音楽を聞いている、かわいい。

呪を帯びた瞳で渋滞を凝視しつつ、淀んだ頭でバスの車輪部分がニョーンって伸びて

停滞する車を跨いでまい進すればいいのに、だったら幸せなのに、なんてことばかりを考えていた

結局、東京を抜けるのに3時間かかった。

 

 

 

当初の予定では13時30分名古屋着のはずだったが16時に名古屋着

イクちゃんと連絡をとり、そこから電車に乗り換えて豊田へ向かう

豊田ターミナル、重い荷物を抱えてよっこら歩いていると

ちょうど今来た車からちっこい人が降りて、大きくこちらに手を振っている

なはははは、ひさしぶりだ

3年前、シャシンの仕事にめげて、大阪へ遁旅した時に会った以来

イクちゃーん ひさしぶり! 相変わらずちっこいねぇつって抱き合って

タクちゃんは、なんか、アキコに顔が似てきたねぇってまじまじと顔を見ながら言われ

一瞬、酢を飲んだ犬みたいな顔をしたが、ひさしぶりの再開を喜んでいると

車からもう1人、先月インドより帰国しイクちゃんとはカンボジアで知り合ったっていう旅人かっちゃんが降りてきて

はじめまして!つって、よろしくつって握手した

(なかなか良い人っぽいぞ)

数週間前「このまえインドから帰ってきた友達も一緒に行くでぇ」と宣言されていて

表面上は「オッケーオッケー」と余裕をこいていたけど

嫌なカンジのひとやったらどうしよ、むかつく奴だったらどうしよ

妙に四六時中高テンションだったらきついな

意地悪な人だったら俺泣いちゃうな

これから2.3日寝処をともにするわけでしょ? 波長的なものが合わなかったらきついなー

なんて内心では戦々兢々と張り詰めていましたが

紹介されたかっちゃんはそういう意地悪チックな所は一切なく

口数は少ないけどしっかりと誠実な人だったので安堵して緊張は一気に弛緩

この面子なら絶対楽しめるっ 気を遣わんで俺は俺に没頭出来るぞと思うとパーっと視界が広がって

バスでの長距離移動の疲労も消え、心は軽くなって

うしゃしゃしゃしゃー んじゃ行くぞ! 長野山中!って急に元気。

 

 

 

*2扉*

 

 

 

『天国の扉』

 

 

 

 

再び高速道路に乗って一路長野を目指す

1日の半分以上を移動で消化する日、稀な日

しかし有り難いことに俺はハンドルを握らないで済む

理由は数あるけど代表的なのは右と左のペダルのどちらを踏めば進むのかわからないって一点と

自分は危険なほど安全運転主義者であり、かつ、運転すると集中力が爆発するため

普通に運転をすることはおそらく可能だけど

例えば路面に枯葉などが落ちていたりすると、集中力がその葉っぱにシフトしてしまい

果たしてこの葉は裏向きなのか表向きなのか

広葉樹か針葉樹か落葉樹か、なんで枯れたんだ?病気か?

なんてなことに熱心になって運転がお座なりになる

道路標識、ステ看板、屋号などの文字が目に入ると

それを一言一句漏らさず読みたくなってしまい運転がお座なりになる

白線の掠れが気になる、対向車のナンバー4数字を無意識に足し算してしまう

車線変更が出来ない、車幅が読めない、サイドミラーに映る映像を信用できない、距離感覚がつかめない

などなど問題が多くあるため助手席に座ってナビに励む

 

 

高速でびゅんびゅん躍進する

景色が凄いスピードで後ろへ飛ぶ

周りの風景もしだいに山山が連なって、そこに真綿のような靄が蔓延る、夕日が沈むさまが美しい

 

 

夜になってようやく現地入り

レイブ会場である山奥は地図に細かい記載がなく

HPにあった文章を宛てに知らねェ土地の知らねェ山のなか

説明不足甚だしい文章をたよりに

街灯も標識もない山中を行ったり来たり紆余曲折、勘と勇気を信じて進む

結構山奥にスタッフらしき人がいたので「あのぉ、ヘブンズドアのスタッフさんですか? ここから会場入りできますか?」と聞くと

駐車場がいっぱいだから一 遍下山して村役場に車を止めてちょんまげ

定期的にマイクロバスが迎えに行くから、それに乗り込んで来てちょんまげ、といわれるがまま

あーい了解つって下山

村役場の広大な駐車場に車を止める、食料やテントやなんやかんや車からおろして

同目的で駐車場にたむろするほかのお客さんと話したりなんかしたり

まっ取り合えずバスがいつ来るかわからんからおっぱじめようつって

缶ビールで乾杯、くはー旨い、旨いけど長野の山中いたって寒い

寒いけどいたってハッピー

3人してホント来て良かったって始まる前から言い合ってる

上辺が少し霞んでいるけどほぼ満月が東の空で煌々と輝いている

東京じゃ見えない星が瞬いている

それだけで心が満たされて、俺、素足にビーサンで。

 

 

 

ビールも飽きたからおいらは焼酎飲むつって焼酎を飲み

煙草をすったりシャシン撮って遊んでいるけどバスが来ない

いや、バスは来るには来るけど、他のお客さんに先にどうぞどうぞ、いえいえそちらこそ先にどうぞ、でも俺ら後から来たから、みたいな

ハートフルな譲り合う気持ち炸裂して一向にバスに乗らず

役場の駐車場で継続して酒を飲み、底冷えするから小便が近い

駐車場の恥じっこで回転立ちションをくりだし、満足した面持ちで皆のトコに戻ると誰もいない

これいかに?バスきたか?と訝しがってると

今到着した風の車のヘッドライトに照らされたイクちゃんが

長髪を後ろで束ねヤギ髭を貯えた男性と歓声をあげて抱擁している姿が見えて、どしたどしたと接近して事情を伺うと

この人は、かつてインドを旅した時に出会った人で今日帰国したの、という

このイベント「ヘブンズドア」もこの人にから教えてもらったんやで、という

驚いたことに、かっちゃんもインドでこの人と出会ったことがあり

一時期は3人してインドを回ったって過去があり、それ以来ぶりに会うから驚喜している、とのことで

かっちゃんも嬉しそうにこの人との再会を喜び

うわぁ皆インドやんか、旅人やんか、と、ちょっと俺かやの外、みたいな

なんか居場所がないなぁと思って後退すると、そんな俺が醸す空気を感じてか

即座に「アキラくん、この子もシャシン撮ってんだよ」つってイクちゃん仲介で紹介され

「どうもー アキラでーす! 楽しもうぜ」ってめっちゃフランクに握手を求められ

ああ こりゃ人を呼び寄せる人だなぁ 2人が慕う理由もわかるわぁと思いながらがっちり握手をして

俺「林田拓郎です。よろしくお願いします。」ってぜんぜんフランクじゃないうえに

フルネームでがちんがちんの自己紹介。恥ずかしい。

 

 

アキラ君と同時にインドから本日帰国したトオル君と供に

バスがくるまで車座になって酒を飲んでっとようやくバスきて

厳密にはバスじゃなくて、薄汚れたハイエースが来て

後から来たお客さんに、お先にどうぞーどうぞーといわれたんで、そっすか?じゃ 先に行ってんね、かなんか言って

荷台にどしどし荷物を詰め込むと、はは、人が乗る所がねぇっくらいぱんぱんになって

しようがねぇってんで荷物と荷物の間に足を突っ込み、片方の足を座席につっこんで乗車

じゃぁ行くかってオーガナイザー(主催者)のタイミングで車は走り出し

不安定な荷物の中、わくわくが心の中で踊り狂い、けらけらけらけら笑う車内

車は信じられないスピードで街灯もねぇガードレールも希薄な山中に突っ込み

うねる夜の山道を、疾駆

ぐわんぐわん揺れる、車内

路面に転がる岩、今にも崩れ落ちそうな山肌、それらがヘッドライトに一瞬照らされる

漆黒の中ちらりと見える急カーブの奈落の底

ハンドルきり誤ったらみんなして御陀仏だな、あはは

でも恐怖は感じない、それよりも充実が強い、なんか楽しくてしようがない

知らねぇ土地の知らねぇ山中で、くんくんにつまった車内で荷物に張り付いている自分

今が何時かもわからん、でもそれだけで心が解放される

日常に病んでいたのだなぁと実感した

 

 

ぽつぽつと雨が降り出した、かまわず同じスピードで山をかけ登る

一山越えて二山登る頃、冗談めいた口調で「左手を御覧くださーい。まもなく天国が見えまーす」って運転手

車内に居合わせた10数人が左の窓を覗きこむ

さっきまで続いた漆黒の山中、永遠に続くとさえ思えた闇が不意に断ち切れ、一瞬にして視界が開けた

左ななめ下に光の帯

そこには何百ものテントが所狭しと敷き詰められ

ステージには白くて大きなモニュメントと巨大スクリーンに投影された色とりどりの映像が煌めいていてる

スピーカーから響く音楽と、蓮の花が開くように人の心が開いている音が渦巻いている

 

ほんとに、ほんとに、ここは天国だと思った

天国の扉が開いたよ

 

 

 

 

 

 

*3扉*

 

 

 

『スイッチの夢』

 

 

 

 

東から西にかけて緩やかな斜面、細長い長方形状のこのキャンプ場

全長はどれくらいかわからんけど、東端から西端まで歩くとだいたい5分くらいの長さ

それぞれの末端にはステージ1と2があって

片側は山で、もう片側には川がながれている。

 

ハイエースから降りる一同、ぬかるんだ地面に降り立って手早く荷物をおろし

入り口で受付を済ませ、腕章を貰い、ようやくひと心地

やっと着いたねぁ すっかり夜半だわ、なはは。なんて言って俺、煙草をふかす・・なんて余裕はこけない

さっきから嫌に冷たい雨が降ってし、荷物も雨曝しなのでひとまず屋根のある共同洗面所にこれを避難させ

テントと最低限の荷物だけを持ってまずやることは、そう、テントを張る場所探し

いい感じの場所探して、手早くテント張って、荷物をテントに入れて、そこでようやくひと心地つける

そんなわけで裾をまくって雨降るキャンプ場を取り合えず西へ下るが

ああん どこもかしこもテントテント

来るのがあまりにも遅すぎたせいで空いた土地がない

ようやく見つけたスペースもステージ付近すぎてうるさいし、おまけに地面が斜っていて落ち着かぬ

まぁここを第一希望ってことで、テント袋と敷物をそこに置きキープしつつ

3人、踵を返して東へ向かい、土地はねぇか土地はねぇかテントとテントの隙間をぬって探し歩き

ぽっかり空いた土地発見、おお、ここ、ええじゃないか

東ステージから離れているのでそこまでうるさくないし、つってもうるさいけどね

さっきのところよりかはうるさくない、けど、キャンプ場中音が渦巻いているからうるさいけどね

でも地面は平らだし、芝生だし、なんか兎の糞的なものがあちこちあるけど、まぁええわい、ここにしようや、つってここに決め

まわりの人々を伏し目がちに眺めながら、今一度西に下り、置いた荷物を回収して、

健康サンダルのイボのように乱立するテントの隙き間、濡れた芝生の上で

丸まったテントをひろげ、地面にペグをうち、連結させた骨を突っ込んで、半球のテント設立

東の土地で居を構える、一国一城の主的感慨

テント内に全荷物をエスケープさして、ようやっとひと心地ついて煙草を吸う、持参した葡萄酒を飲む、果てしなく旨かった。

安心すると空腹を覚える、それもそのはず、記憶を遡ってもここ24時間ちゃんとした食事をとっていない

バスの中も、電車の中も、車の中でも、茶飲んだり酒飲んだり液体ばかりを摂取

固形はマリー(ビスケット)とカニカニチップスくらいしか口にしていないことに気付く

んでも、雨降ってるから、前向きにじゃ飯でも作るかって気分にはならんな

それに一睡もしていないからくたくたのこの状態で自炊するのはちょいときつい

今晩だけは、アレだな、他所で飯を食おう、ってあいなって

テント探し中に見かけた小屋でハンバーグ丼を食う

外だし、空腹だし、何食っても旨いけど、ハンバーグ丼はめちゃめちゃ旨かった、お米がもちもちしてて

このもちもちはありえんなぁ、ありえんわ、ほんとに米かね? もち米じゃないんですか? 御主人さん

月の兎は餅をつくよ、誰に食べさすのかは知らんけど夜になるとおおかた餅をついているよ

自分はその光景をけっこう間近で見ている、俺も餅つきたいなぁなんて思ってる

杵をすっと差し出されて「つく?」ってきかれた「つく」とはきはき応えたい

こう見えても餅をつくの得意なんスよ、かなんか言って照れた顔をして、目をあけると食べかけのハンバーグ丼があって

食事中に夢を見るなんて初めての経験だった

おそらく夜はこれからで、雨も小雨になったからパーリーは宵の明けまで続くんだろうなって想定されるけど

俺は自分は踊るをメインで来ていないし、やっぱまだ、このサイケデリックな音には愛着がわかないし

きらびやかな映像も、所詮幾何学模様の連続なんだろうなって考えてしまうとVJにもさほど興味はわかず

自由に楽しく没頭するためなら人の顔色を伺わないよ、無理は禁物、眠いから寝る、きっとそれが正しいと思う

この場所にきて一番強く感じたことは、すれ違う人、皆が皆

個々であろうが集団であろうが自分の魂に正直に生きているから楽しそうに思えた

そういう契機がこの場所にはあるんだな、と、漠然、と、察した自分は

踊らんことを恥じぬ強靱な鉄人、眠いから寝る

そういったことをイクちゃんとかっちゃんに告げる

そういう思想に理解あるおふたりは押し付けることも引き止めることも、冷たくあしらうこともなく

じゃぁ行ってくるねって笑顔でステージに向かってった

当たり前のことだけど、こういうことが嬉しい

 

 

 

ドンガンドンガンとけたたましく落ち着かない音楽が響く山中

自分はテントに入り、999円の寝袋に滑り込むと、予想以上にキャンプっぽいこの現状を心の底から喜んだ

明日は川で遊ぼう、機会があったらステージに行こう、陽を浴びて、時間を捨てるのだ

わくわくしながら目を瞑ると、あっと言う間に夢の中に落ちた

夢の中で自分は、薄暗い場所で上下に弾くタイプのスイッチをしきりに入れたり切ったりしていた

パチンと上に弾いて、あわてて下に弾く、そしてゆっくり上に弾く

なんのスイッチかわからないけど

これら全てのスイッチは、自分に直接関係するスイッチだってことは漠然と認識していた。

寒くて何度か目を覚ましたけど、再び眠るとまたスイッチの夢、それがずっと繰り返された。

 

 

 

 

 

*4扉*

 

 

 

『流るる水は腐らない』

 

 

 

 

んで。結局あの夢はなんなんだ?スイッチってどういう意味だ?

すっかり明るいテントの内側、ぼやけた頭で思い出せる限り夢を思いだし反すうする

「スイッチ」かぁ・・・妙にテレパシックな印象は受けるけど

薄暗いトコでカチカチやってるだけじゃ要領をえませんなぁ、ははー、なんじゃらほい、にしてもあついー、暑い、暑い?

意識が正常な軌道に乗りかかる、現実にぐいぐい引き込まれると今朝見た夢の記憶が凄い勢いで薄れていくことを感じながら

スイッチのことを考えていたのに無意識に「暑い」と口走る

暑い 暑い 暑い 暑い 暑いぞこれ、尋常じゃないぞこれ

意識を纏い、自我を装備するとめちゃめちゃ暑いことに気付く

 

 

 

午前の陽をさんさんと浴びたテント、窓もないし、もちろん換気扇なんかありゃしない

溜め込んだ熱を吐き出せず阿呆ほど暑い、ちょっとしたサウナ状態やないか

急いでテントからのエスケープ、寝袋からのエスケープをはかり

身を屈めて表へくり出すと、かはっ日光

そして昨晩は暗くて見えなかったが四方の山々山々、くわえて足下に川が流れてある

小鳥が飛んでいる、青の中に雲が流れている、空気が旨い、音楽がこだまする

 

しばし自然を味わっていると、かっちゃんが、つづいてイクちゃんがノソノソとテントから這い出してきて

俺爽快にセイハローっつぅけど、おふたりさんは「うぅ・・・よー」と言葉になってねぇ

あれ?寝てないの? 御免、起こしちゃった?と訊くと「数時間しか寝ていない」という

ほんとは明け方に戻ってきたんだけどさ、隣のテントから

「疲れてぼろぼろになった体に魂が蘇るような美しい朝だよ」って素晴らしい言葉に弾かれて

明け方のステージで陽が昇るまで踊ってた、朝露が木々に纏ってとても気持ちよかった、と言う

ちょっと羨ましいなと思った、そういや明け方に起こされて誘われたな、と思いだした

へぇ じゃぁ全然寝れてないね、でもテント暑いから眠れんやろ?

3人でテントの上に日除けを設立させ終えると

俺ぁこれから川で蟹と戯れて来るわ!つってカメラと三脚を担ぐ

もうちょっと頑張って眠ってみるつって、ふたり、ノソノソと高熱テントに引き下がった

手ぬぐいをはためかせ、俺、声高らかに川へ。

 

 

キャンプ場と山道をつなぐ20メートルくらいある古い石橋を渡り

左の薮から5メートルくらい下ると清流、まごうことなき清流

それを目の当たりにして、感情が、急激に、高揚して、くらくらと、目眩すらする

新緑揺れる木々、フカフカの腐葉土、黄色い陽の光と、透明なまでに透明な水、それが全てを写しこむ

これが山水か、これが源流か、自分はわなないた

歓びの余りダバダバと着水する、痛みを覚えるほど水が冷たい、痛烈な感覚、これが『冷たい』だ!

これを、俺は、これを、俺はこれを求めてやってきました、ありがとうございます

ありえんほど水が透き通っていて美しい

いつまでも同じスピードで流るる水、留まらないから淀まない、素晴らしいと思った

常に変化があるから腐らない、真理だと思った

当たり前のことでも身をもって体験してようやくそれが自分の糧となる

「山の水は冷たい」「流るる水は腐らない」 細胞が歓喜する!

ひゃっはっはっは〜! 始まったぞ! 始まったんだ!

カメラと三脚、手ぬぐい、コップ、肩カバンをぶら下げて

冷たい清流の流れに逆らって、ジャバジャバいわして、もっと奥へもっと奥へ

黄緑色に苔むした石を、砂利を、乾いた石をリズミカルにピョンピョン飛び越える

はは、まだまだやれるな、俺

見よ! この身のこなし! 12歳然! ありがとうございます!

 

 

 

ちょっと開けたとこに出た

自分はここを本拠地として活動することに決めると、そろそろと荷物をおろし

カメラを構えて撮る撮る撮る

この最高の風景を、水を、木を、空をって撮る撮る撮り

ちょっと一服、コップで清流を掬ってごきゅごきゅ飲んで、煙草を吸う。うめー。

ごつごつした石の上に寝転んで空を仰ぐ、毛細血管のようにはり出した小枝の先の新芽を眺める

ああ なんて美しいのでしょうか

俺がここに来るずっとずっと前からここはこのままだったんだろうな

あの木の新芽だってありのまま生きてきた結果なんだよな

そんなことがいちいち凄い

俺はほんとしょうもない中で生きている、電車のってビルでほぼ1日を過す

自然の中に身を置かない生活って人としてどうなんだろう?

今まで自分は何でバランスを取っていたのだろうか・・わからん、そら、心歪むのもわかるわぁ

ああダメだ、自然は素晴らしすぎる、自然に挑まなくては真っ当な表現者になれねぇってのに

さっきから自然の絶賛・絶賛・大絶賛じゃないっすか

さっそく負け犬根性丸出しだ、こんなんじゃ自然に勝てん

けど、現に負けてるよ、負けてるよなぁな

だってさっき撮ったシャシン、ちょっと見返しただけで愕然としたもの

全然よろしくない、なんだ? これ! このシャシンは!

俺がいま、ここにこう寝転んで、現実の両目玉で見ている風景の足下にも及ばん! 同じ土俵にすら立てとらん

自然ノ山関が両国の土俵にいるのなら、俺ノ海関はウズベキスタンで林檎飴売って歩いてるっくらい懸け離れてるものっ

ああダメじゃん、俺ノ海関は力士としてのアイデンティティすら失いかけているように思える

林檎飴売って、生活を成り立たせることばかりに気を取られているからダメなんだ

畜生こんなもんは恥だ、デリートだ!つってシャシンデータを削除して

またぞろカメラを構えて挑んで負けてデリート、カメラを構えて挑んで負けてデリート、カメラを構えて挑んで負けてデリート・・・

 

 

 

数時間後、自分は川べりで背を丸めて小石を拾っていた

自然に向けて放った捨て台詞「今日はこのぐらいで勘弁してやらぁ」が虚しく響いたよ

山と水と大気の精霊が笑ってた、俺も釣られて笑ってた

で、で、じゃぁ蟹と戯れるかって、シャシンを一時止めにして蟹を探したんだけど蟹がいない

翻って魚を探したけど、魚もいない

これだけ水が綺麗だからいれもおかしくないんだけどね、全然見当たらず、熱心に探す内に興味が石に逸れ

気がつくと自分は小石を拾っていた

それもかなり真剣に拾っていた、その証拠にポケットは小石でぱんぱんになっている

この川は花コウ岩が多くて、なんかいい感じの石が多いのよねー

他にも、一見なんの変哲もない黒い石なんだけど、水で表面を濡らすと銀色がきらきらする石や

緑色にピンクの斑がはいった綺麗な石がいたるところに散乱してて

結構石好きの自分は「うそっ」「うわっ」「まじで?」「すげー」とうなりつつ石を拾う

この石とか部屋に飾ってたら粋だな、とか、この石はもっとピンクの部分が抑え気味ならよかったのに、とか

なんか石を拾えば拾うほど、自分の好みとか感性が、集まった石に反映されていることに気付いて

この作業なかなか面白いな、数多ある石から選び抜いたこの石達

全ての石を見るのは不可能だけど、自分が出会った石から選びだすこの感覚

そして生まれる俺基準の「善し」「悪し」

こういうのってシャシンに通づるものがあるよなぁ、精神的にさ

だってこの石とかあり得んけど、普段ならソッコー捨て石になるけど

先に拾ったこの石と組み合わせると、なんともイイ味を出す、とか、シャシンを構成する作業にも似ているし

自分がどの場所で石を探るかってのも、どこでシャシンを撮るかに似ている

もしかして川とシャシンは何処か繋がっているのでは・・・・なんて

大それたこともホントだと思ってしまう

あはは石拾い楽しい、水が冷たくて気持ち良い、最高だ。

 

 

石橋の向こう、ステージ方角から音楽が溢れている、ポケットから石も溢れている

下ばっかり見ていて気付かなかったけど、空を仰ぐと結構陽が高いことに気付いた

果たして今は何時くらいだろうか? 時計も何もねぇからわからんし、知りたくもないけど

この太陽の角度の感じ、んー、おおよそ11時48分くらいかな もう昼だな

お腹が空いてきた、イクちゃん達起きているかな、とりあえずテントに戻るか。

 

 

 

耳や舌にボディピアスを空けた世離れした人

ヒッピー風のインドっぽい人

薄着で派手な民族ダンサーっぽい人

墨を入れ坊主頭にサングラスをかけた厳つい雰囲気の人

世間が明るくなってようやく見えたここの住人、大別するとこんな感じ

あとは外国人とか、子供とか、猿とか、タヌキがちらちらいるくらい

三脚を担いでポケットを川石でぱんぱんなのは俺くらい

けっこうバラバラだけど、皆自分が楽しいように過している感じがひしひしと伝わって気持ちいい

なんてなことを考えながら自分のテントに戻ると、

テント前でイクちゃんとかっちゃんがカセットコンロで沸かした湯にパスタを投入していて

俺を見つけると笑いながら「やっぱ帰ってきた」ってイクちゃん、ベストタイミングです。

 

 

 

茹でたパスタに明太子ソースをまぶして

これを食いながら川の素晴らしさを高説する

拾ってきた石コレクションをお披露目する

青空のしたで食うパスタは旨かった

食後に湯を沸かし、ドリップ形式のコーヒーを飲んだ、煙草ものんだ

なんでもないことを贅沢に思えるほど、贅沢なことはないよなぁって考えながら

ところでさこれからイクちゃん達はどうすんの?踊りにゆくの?って訊くと

結局テントの中はずっと暑かったらしく、まともに眠れていないから、どっか寝れる場所を探して来るとイクは言い

カツはテント周辺に日陰を拵えて今一度眠ると言う

タクちゃんはどうするの?って訊くかれたので、言うまでもない川に行くよと言って

俺、再び川へ

石の上で座禅を組み目を瞑り瞑想

河原の石をどかして簡易ベッドを作成し、そこでころりと横になり昼寝

その後、シャシンを撮り、ちょっと山奥に入ったりしてキノコを探すけどキノコはなくて

そのかわりいい感じの木の枝をゲット

長くもなく、短くもなく、固いし、表面はつるつるしていて明らかにいい枝

この枝を駆使して大きめの石をひっくり返し、結句小石拾い

ジャブジャブ水中の石をひっくり返して小石拾い、合間合間にシャシンを撮って、小石を拾って、心置きなく遊びに遊んだ

心が見事に浄化した

自分が思ってた以上に自分は川が好きだった、水が好きだった

水面をぺしゃぺしゃ叩くって行為だけで30分は没頭出来る、川狂、水狂。27歳。

陽はだいぶ傾いていた。

 

 

 

夕刻になり、テントに戻るとかっちゃんがいて、かっちゃんから異国の話を聞いていたら

どこからともなく寝袋を抱えてイクちゃんが戻ってきて

かっちゃんはまたテントに入って眠り、イクちゃんと食料の話になり

けっこう酒がない、けっこう飯がない、ここはひとつ買い出しをせなならん、となり

受付でハイエースが来るおおまかな時間を聞き

飯屋が飼ってるタヌキと遊んでいると足の親指を2度甘嚼みされて

3回目は本気で嚼まれたので血が出た

脇にある簡易檻の中で子猿がきゃっきゃきゃっきゃ騒いでた

タヌキってけっこう嚼む力が強いんだなぁと米粒くらいの血液を眺めながら感心して

イクちゃんに「3回目にタヌキに嚼まれた」つったら「そりゃそうさ」っつわれた

イクちゃんはなんでも知っているなって感心した、俺は何も知らないのな。

 

 

ハイエースが来たので3人で乗り込み山を下る

コンビニまでダッシュして急いで酒を買込む

食い物を買うことをすっかり忘れていた

あと、酒ももっと買えばよかったと思った、みんな抜けている

晩はパスタを茹でたように、乾饂飩を茹でたやつを食う

イクが持ってきた電球に電池がなかったから

俺が持ってきた自転車用のライトの下で饂飩をすする

小粋な釜上げうどん、空に星が綺麗

 

 

 

星を撮るため三脚をかついでノー光の山道を下る

しかしあまりにも暗すぎて、30秒もシャッターを開いたのに何も写らなかった

諦めてテントに戻ると誰もいない

西側のステージに行くと「あーいたいた! 何処行ってたの?」と謂れ「シャシン撮ってた」と説明

ステージではDJがなんかやってて、両サイドのスクリーンに幾何学模様がくっついたりはなれたりする映像が投影されていた

とりあえずシャシンを撮ったがあまりおもしろくないので

ステージ脇の白いモニュメントや、松の木、薮の中を撮る、うん、なかなか。

そして折角来たのだから、いつまでも食わず嫌いはいけんなぁと改めて

ステージを直視、スクリーンを直視、音楽に耳を傾けること半刻

ああ夜のお山は寒いな、やっぱこの時間にサンダルは応える、あとこういった音楽は好かん、ってのが感想

よし、もういいだろう、やった、俺やったよ、微動だにしなかった

てくてく坂を昇り、テントに戻ってワインをオレンジジュースで割ったものを飲み飲み

キャンドルに火を灯していかにもいい感じの空間

急に雨が降り出したので、3人、テント内にエスケープして

酒を飲んで、お菓子を食べて、精神世界とか、けっこう深い話をしたり

アテネの話をしたり、インドやオーストラリアの話をして夜更

 

 

寝袋にくるまって、明日は、アレだな、朝早く起きて川に行こう!と考えているうちに睡

 

 

 

 

*5扉*

 

 

『現実の壁で砕けた頭骨』

 

 

 

イク・カツ・アキラの後について東ステージに向かう早朝

でも自分はなんか違うなぁ、この感じ、この心模様、やっぱ生き辛い

結局の所、DJが奏でる音楽では気持ちは高まらないし、激しく踊る人に距離を感じてしまうし

見ていると、踊る人と踊らぬ自分のコントラストがくっきり強く頑になって、恥ずかしくていたたまれん気持ちになるってのが本音

自分はどこまでいっても自意識過剰だし、人が作った空間で皆でわいわいするのも楽しいけど

出来る限り自分が拵えた空間で遊びたい、己引きこもりの節があって

今だって知らん人が狂乱するステージよりも、自分に没頭できる川に行きたいとやっぱ強く思うわけで

何も言わず3人が歩む後ろで行き先変更、道をすーっと右に折れ

石橋を渡り、薮を抜け、早朝の川に降り立った。

ここに居ると落ち着くし、気分が高まるのだから致し方ない

俺は俺の楽しみ方をするよ、楽しみ方を知っているよ、そう自分に言い聞かした。

 

 

昨日とアプローチを替え、いつもは右に折れる分岐点を左に曲がって川沿いを歩く

へぇ こっち側ってあっち側よりも山道なのなー 腐葉土が湿ってて素足に枯葉がまとわりつくねー って

誰に言うわけでもなく共感を求めるあたり

なんだかんだいってちょっと人恋しいんじゃん!俺!みたいな

しゃぁない、これも業だ!って割り切ってるけどさ

やっぱ踊る阿呆よりも見るほうがよっぽど阿呆だよ、俺は川で石集めだよ

それが楽しいから質が悪い、居心地が良いから辞められぬ

人恋しさを持て余しているこのタイミングで

結局この場の音楽に馴染めず、終始川で遊んでました、って俺と似たような人がこの先の川にいれば

ましてその人が女性なら、しかも美人なら、黄金の光の輪の中で拾った小石を朝日にかざし美しく微笑んでいたら

自分は即恋に落ちているな、うん、もしくは水の女神と勝手に呼ぶだろうな、うん。

低音が轟いている、左上が東ステージか・・ 今頃踊ってるのだろうな・・・くわっ 負けん!

三脚を担いで川沿いをぐんぐん奥へ進んだ。

 

 

 

 

垂直に切りたった巨大な壁の上から上流の水がどしどしと流れ落ちてまるで滝のよう

 

川沿いの行き止まりには高さ4メートルのこの滝壁が立ちはだかる

水しぶきを浴びながらその壁のぎりぎりに立って

さっきからこの壁を、3年前に自分が煮詰って造り出した「シャシンの壁」に似ているなぁと思いながら見上げているんですけど

なんか、そういうふうに思うと、これがほんとのシャシンの壁であるように思えるのが不思議

縁も所縁もない長野の山奥に壁はあったこと、偶然にもこの壁の前に今立っていること

全てが必然に起こり、全てはひとつに繋がっているのでは? ひとつなぎの秘宝とはなんなんだ?

ワンピース的な思想が芽生えて来る

そんなんこじ付けじゃぁん、シャシンの壁は心で拵えたものだから実在するわけないじゃぁんと言われましょうが

こじ付けにも根拠はいる、根拠は「なんかそれっぽい」から。

この質感といい、剛な感じといい、どこか寂しげな佇まいといい、俺が想い描いていた壁と重なる

 

3年まえに突如現れたシャシンの壁、今までは才能だけで撮れてたけど

どこかでつまづいて、始めてシャシンについて考え込んで、才能だけじゃ撮れなくなった

感覚でやってただけに、一度意識するともう全てがちぐはぐになってしまい

「善し」「悪し」「わび」「さび」「勢い」「理性」がわからなくなっている事実。今もそう、けっこうそう。

 

まさか上から水が垂れ流れているとは思いもよらなかったし、想像よりも巨大だけど

そんな壁の個性を差し引いても雰囲気があの壁とこの壁が似ているのよね

どこか優しい感じのとことか、私の存在はチミの潜在能力を引き出すための試練だぜ!と言わないトコとか

まぁ生半可に越えさすつもりはないけど、一生超えさせない気概をもって本気で立ちはだかるよ、ってトコとか似とる

 

そういうことを考えながら

色々な目でこれを見上げた

記念に壁ジャシンを撮った、俺と壁のツーショットも撮った

壁に俺の余裕を見せつけたった。

 

壁に空いた四角の穴からツバメが飛び出して

俺の背後の空の中に真直ぐ突き抜けて消えた

それはとても気持ちよさそうで、羨ましくてたまらなかった。

ツバメに対する嫉妬芯が中空を翻る

 

 

 

・・・

 

 

 

壁を背にして日溜まりの中で小石を拾っているけど、その間誰も来ねぇ、女神もいねぇ

壁滝から水が溢れた水が地面を打ってドドドドドと響き

相変わらず東ステージから電子音楽が溢れている山中

それをいいことに自分は法界さんにならってウラーウラーウラーと叫ぶ

あいも変わらず滝壁はドドドだし、東から電子、ウラーウラーウラーは吸収され誰も俺に気付かん

あはは、おもろ、ってもう一回、さっきより大きく、よりだらしなく、

ウラーウラーウラーって3回叫んで、不意に虚しくなってきて

・・・じゃぁそろそろおいとまひょとぼそぼそ言って川を下った

登ってきた山道左に見て、帰りは川端をばしゃばしゃと下降する

 

接近するまでは気付かなかった、気付かないほど原形を留めていなかった

それを視界に捕らえると、ウラーウラーウラーのように漫然とだらしなく、ぐだぐだした叫びと180度違う叫び

ウギャッ!!!!ってやつ、短く甲高い、悲鳴。それを、俺、上げて。思わず山道に遁す。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

自分は川べりに佇んで、それを見下ろしてわなないていた

異臭が鼻をつく、無数の黒い虫が輪を描いて飛んでいる

止め処なく流れる清流の浅瀬に浸った子鹿の腐乱死体

ばっくり割れた腹は腐敗、抱え込む臓物はすでに虚無

赤茶色の肋骨が露になって天空を刺す

体の芯を貫く背骨には腐肉が少しこびりついていて、首下あたりで折れ首から上がない

四肢は四方に乱れ、ぱっくり割れた腹を中心に開いている

足だけは水に浸かっていたためか?そこだけ腐敗が進んでおらず

他と違って生々しく、美しいまま栗毛に白いブチ模様を残す

この足を見るとやりきれん気持ちになった、悲しくなった、悲しくて嗚咽した

辺りには栗毛がおびただしく散乱している、死因は判らない

首なしの子鹿の死体、俺には何も出来ない、おごるな当り前だ

只手を合わせて祈る、鹿の仏に一方的な約束を結んでシャシンを撮らしてもらった

これが自然です、これが普通です、そんな気配を感じた。

それでも虚しく感じるのは人間の業でしょうか? エゴなのでしょうか?

せめて五体満足に死なせてやりたいと想うは俺の我がままなのでしょうか?

・・・首がないなんて余りにも悲しすぎるよ

 

 

 

 

・・・

 

 

 

テントに戻り、なかなか上等な折り畳み椅子に座ってカセットコンロで湯を沸かす

日光は昨日同様今日も高い、そして時折風が吹き、御家庭用のカセットコンロの火は風でよく消えてしまう

椅子に座りながら地面のコンロに手を伸ばし、つまみを捻って再点火

ってやってると目に付くのは兎の糞、否、これは鹿の糞だったんだな

この山には鹿がいるんだ、あの鹿の仲間が生息しているのか

コーヒーをすすりながら鹿のことを想う、首さえあればまだ救われるといつまでも考えてしまう

釈然としない気持ちのままMP3ウォークマンで音楽を聴きながら

「今日でここともお別れか」「結局、俺、踊らなかったなカッコ笑い」

「麺類しか食べていないな」「風呂に入りた」「パンツも3日間おなじやつ穿いてる」なんて考える

あー楽しい、あー楽しかった、心底想うよ、ホント。

煙草をねじり消し、携帯灰皿につきこんで陽を浴びる

イヤホンから「遠くをゆく君の、後ろ姿が鹿に似てる」というフレーズが流れた

このタイミングでこの曲が流れ、首なし鹿の映像が脳裏に浮かんだ

 

心身共にやつれた、3ヵ月前のあのタイミングでイクちゃんに電話したからこのイベントに参加している

そして巡り巡ってシャシンの壁に会い、鹿にも会った

きっと大体のことは1つの輪で繋がっている、何をしても、何もしなくてもその輪の中に収まる運命なら

その瞬間瞬間、自分が納得するように考え・動こう

 

正解なんてものはわからない、わかってりゃ苦労なんてしねぇ

漠然とここでコーヒー飲みながら音楽を聴くのも正しいだろうし

ステージで踊り狂うのも正しいと想う

正しいと判断する規定が魂にあるのなら、今の自分に正しいことはなんなんだ

コーヒー飲むでも煙草を吸うでも音楽を聴くでもないな、ましてダンスでもねぇ

やっぱアレだ・・・

 

 

 

なかなか上等な椅子から飛び下りて、カメラをぶら下げ、三脚を担ぐ

目指すはあの川。 俺、首を探しにゆく。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

川に戻る、腐乱死体はさっきとなんら変わらぬままそこにある

今度は用心深く辺りを見回して鹿の首を探す

山道側、水中の死体のすぐ傍

岩上に形が三角定規に似た白い物体を見つけて、これを手にとり観察する

すぐに鹿の下顎骨であると判断出来た

白くて粒粒したものが1列に並んでいる、これは歯だろうな

しかし何故、こんなところに鹿の下顎骨はあるのか?

でも顎がこんなに近くにあるのなら、頭部も結構近くにあるはずと推測した自分は

川辺付近の山道を入念に探索すると、ほどなくしてそれは見つかった

半分腐葉土に埋まり、腐食が進んで無惨なまでに朽ちた首

骨が露になっていて、土と葉と肉で赤茶色く汚れている

自分はこれをそっと持ち上げて、川辺まで歩き、首なしの体の横に首と下顎を置く

四肢が乱れているのは余りにも不格好なため、水に入って足を揃える

黒い甲虫が這い回る折れた背骨を手で掴み断面を確認すると

何かしらの強い力でへし折られたように断面は乱れていて

崖から落ちて折れたか、熊かなんかに襲われたのだろうと推測

少なくとも人間が殺した痕跡は見当たらなかった

 

 

鹿の側にしゃがみ込んで手を合わせる

経を読めないから成仏するよう強く願う

五体を揃え、祈ることしかできん俺だが

次ぎ生まれ変わったら長生きしなねとアドバイス

じゃぁ いずれあの世で会おう、アデュー!つって鹿とわかれる

 

 

眼前で手を合わせた時に気付いたんだけど

死体を整えたりしたせいで手に腐った肉の臭いが染み付いている

がっしゅがっしゅと川の水で手を洗うけど

いつまでもうっすらと鹿の臭いが残っている

鹿の細胞を取り入れるため、自分の手のひらを少し嘗めた。

 

 

 

 

 

*6扉*

 

 

 

『音楽』

 

 

 

 

お腹が空いた気がしなくもないけど、まずはやっぱり風呂に入りてぇ

3日も風呂に入らんとか、源さん家のシズカちゃんなら気ぃ狂ってんだろうな、なはは

まっそんな生活も今日までだ、なかなか魅力的でした

ここもそろそろ引き払わんとならんからゴミを1つにまとめましょう

あと、自分の荷物とかもまとめて、湯が沸いたから紅茶をいれて

撮り溜めたシャシンのメモリがぱんぱんなので、余分なシャシンをデリート・デ・リート

なんて雑務に追われて、ようやくひと心地ついて煙草をぷかり

残り1箱残ってる、まだまだヨユー

それにしてもイクちゃん達はどこに居るんだろう?

帰ってきた形跡もないし、周りのテントとかも撤収しつつあるよ

俺らも、そろそろ帰りの支度とかせなならんのに どこで遊び惚けているのか

まったく俺がおらんとどうにもならんな、あの2人は。って

紅茶を飲み干して立ち上がり、アキラ君のテントに居そうな気がするので

西と東を結ぶ坂道を下り、西ステージ付近のアキラテントへ向かう

西側もけっこう撤収が始まっていて、なおさらイベントの終了を実感

西側のテント場は川に沿うようになっていて、川までの距離が凄く短い

ああ ここ川が近くていいなぁ、来年はここにテントを張ろう、なんて考えながら川を見ていると

居た居た居たイクヨとカツオ

おーいつって手を降り川に向かってダッシュ、すると、

「あんたほんまに最高やでー タクちゃんと来れてほんま幸せや」って猛烈なラブ&ピース確変中

いやいやいや 御存じの通り俺、一匹狼的な個人行動、サンジのように裏工作ばかりしてたじゃん

シャシンを撮って、川で遊んで、石を集めて、鹿を弔う

ちょっと個人行動に走り過ぎたかなぁと、協調性なさすぎたかなぁとプチ反省してるけど

え? なになに 抱擁? おーう来い 悪い気はせん!

けど、はは、まぁええわい え? 何? 酔ってる? 酔っ払ってるの? デショーカ?

 

鹿の水葬後のまったりした感覚に、急激なラブピースの猛攻で若干ギクシャクしつつも

ひとたび冷たい川水に足をつきこむと、往来の川狂が発動して

超川で遊びたくてたまらなくなって、ばっしゃばっしゃ水遊び川遊び、2人をほっぽって。

まだ下流を探検していないことに気付いて、ずいずいずいずい下る

途中、川のまん中の岩上でジャンベ(砂時計の形をした、アフリカ民族っぽい太鼓)を心のままにポンポン叩いていた、

やけに良い音出すなぁ、って気付くと、電子音はなくなっていた、静かな山あいに原始的な音が響く

この音に合わせて水辺で踊る踊る若い男女、ははは、愉快。

 

 

 

川は続くよ何処までも、おそらく海までも

岩上をぽんぽん跳ねてどんどん下る、水が透明なだけで心が弾む、単純な心だ、俺の心だ。

この川の上流にあの鹿が居るんだな、知っているのは俺だけだろうか

随分下ってから、川のまん中にある岩のうえで意味もなく仁王立ちをする

このポーズをきめると、自然を支配した気分になるのは不思議だ

俺は自然の王、主に、彷徨う動物の霊を慰めたり、川で遊んだりします。よろしくおねがいします。

満足いくまで君臨したあと、お腹が空いたことを思いだしたので、いっぺんイクちゃんと合流しよう思い

踵を返して来た川を戻ると、途中、水辺の石と石の間にビール缶が挟まってっているのが見え

これは自然の王として見のがせない、石と石の間を飛んで空き缶を回収、ずしりと重い

はへ?と飲み口を見ると、わお未開封じゃないっすか! ラッキー もうけー つって

パシュリとプルタブを開けゴクゴクと頂く、川の恵みを頂く、激旨

こうやって昼日中の大自然の川中で拾ったビールの味は格別に旨い

これは、あれか? 鹿の恩返しかも知らんなぁ 鹿さんゴチっす、つって飲み飲み川を登り

イクちゃん達を探すと、人んとこのテントで、知らない人と談笑しているので

「この人達知り合い?」って訊くと「今知り合った人よ」という

「タクちゃんそのビールどうしたん?」って訊かれて「下流で拾った、飲む?」「飲む!」

そのままイクちゃんの横でビールを飲み飲みしていると

おそらくここのテント主、ってテントつっても大きな日陰みたいなとこだけどね

まぁここの主であろう、短髪で髭を貯えサングラスをかけた強面の兄ちゃん3人と、その連れの女性2人

それとアキラ君とアキラ君の連れとカツオ君の数人で談笑していると

なんか色々食わせてくれた、川で冷やしたキュウリとか、カップ麺とか、お粥とか

とくに旨かったのは湯で立ての枝豆、野菜欠乏気味のからだにしみ込んだよ

なんだか皆優しいのな、レイブってもっと息苦しいと思ってたけど全然違ってた

特にこのイベント「天国の扉」は一番雰囲気良いらしい、皆言ってる、これしか経験ないけど頷ける。

腹も満たされたのでその辺の川で遊んで来るから帰るなら呼んでねつって川に下った。

 

 

 

さっきの川下りで見つけた、平の岩に寝転んで昼寝

直射日光がぎらぎら降り注ぐので眠れねぇ、でも暖かくて気持ちよいなーとゴロゴロしていると

俺のかたわらに誰か立っている気がして目を開くと赤い髪の女がいて

「ごめん 起こした?」っつわれて「お前 髪真っ赤っ赤やんか。」と応える、会話になっていない。

でもそのまま岩に腰掛けてちょろっと話したあと

一緒に川を登って、異変に気付いた。

 

 

ボペン ボペン ボペン ボペン ボペン ボッボ

ポコポコポコポコポコポコポコポコポコ  ボボボ

ボペン ボペン ボペン ボペン ボペン ボッボ

ボペボペボペボペボペボペボペボペボペ  ボボボ

ボンシャン ポコシャン ベンシャン ポコシャン

ボンシャン ポコシャン ベンシャン ポコシャン

ボボシャン ボボシャン ボボシャン ボボシャン

 

 

原始的な音と音が響きわたる、さっき川辺で聴いたジャンベの音だ

それも1つではなく2つ3つ叩かれていて、セッションが始まってる

よくよく見るとこれを叩いている人は、さっき飯を食わせてくれた強面の兄ちゃん達で

その中に混じって、あはは、イクちゃんも叩いてるじゃん、凄いなこの人は、あはは。

 

急いで川から脱出、カメラを構えてめちゃめちゃ撮る ボペン ボペン気分が高まる

だはは、おもろ、だははゆかい、つって撮る撮る撮る ボペン ボペン魂が昂る

すると、ジャンベやアボリジニの民族楽器ディジュリドウを肩に担いだ人達がどしどし集まって来て

セッションの音はより大きく、重なりあって、太鼓の音が、笛の音が、音楽が、音楽が溢れ出す

これだ、これが音楽だ、俺が体感したい音楽はこれだったのか!

原始的な音こそ魂を喚起する

叩き出される一音一音が手のカタチになって胸の中に入り

心臓を、魂をぐいぐいと表に引っぱりだされる感じがする

相手の目を見ながら太鼓を叩く楽団

その後ろで踊り狂う人、人、歓声、奇声、笑い声、が閑静な山あいに響く

皆笑ってる、俺もゲラゲラ笑ってる、楽しい、楽しい、楽しすぎる

きっと俺がシャシンに携わっていなかったら、ここでようやく踊り狂っていただろうけど

いかんせん自分はシャシン撮り、踊っている暇なんてねぇよ、俺はシャシンを撮るよ

この現実を撮りたくて撮りたくて仕方がないんだ

犬も子供も、赤髪も、入れ墨も、ピアスだらけの人も、強面も、ダンサーもみんな笑ってる、踊ってる、喜んでいる

なんなんだこの一体感は、そしてこの気持ちよさは!?

人と音と自然が繋がりあって1個になる感覚、これがレイブか! 凄いぞ!

 

陽光の中で自分と自然と他人が音でくっついた

 

 

 

 

 

 

 

*7扉*

 

 

 

『壇上のふたり』

 

 

 

 

いやぁ楽しかったね、ほんと誘ってくれてありがとう、感謝してるよ、あと鹿にも感謝してる

最後の最後にレイブを味わえたし、もう思い残すことはない

強いていうならまだまだここに居たい、ここの子になりたい、3日じゃ足りん。なんてなことを言い合いながら

荷物をまとめて、ハイエースに揺れて自分達の車に乗り込む

高速道路を疾走する車内、流れる景色を眺めながら「ああ 天国の扉は閉じてしまったな」と感慨に更け

ここ3日の記憶を反すうしながら、この体験を日記に書くとしたら大変だなぁ

まずは鹿のことと、最後の音楽は絶対書くでしょ

あと会場の感じとか書きたいし、川も、小石集めも、壁のことも書かないとな

んーけっこう大変だぞこれ、細かく書くと大作になってしまう

んでも仕事始まるから日記書く時間もあんまないし

有休使って書くのもありだけど、有休なんて使い果たしてゼロ

章だてでやっていくしかないよな。うん。シャシンは日記の後だ。

シャシンより経験したことの方がおもろいもん

取り合えず書き出しはアレかな、行楽渋滞にハマって世を恨むから始めよう、って、日記の構想錬っていると

となりで運転しているかっちゃんに「タクちゃんは何時のバスに乗るの?」ときかれ

「あー 今日はイクちゃん家にお世話になる予定よ。で、明日の朝、名古屋から7:10分のバスに乗って帰る。

ところでかっちゃんはどうする? どうやって帰るん?」「取り合えず豊田で降りようかなぁ」

「んーこの辺の地理はわからんけど、かっちゃんが運転してるから自分が楽なようにし。

とりあえずさその辺のサービスエリアに入って、イクちゃん起こして会議しよう」つって近場のSAに入る

陽はだいぶ傾いていて空は紺色だ。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「え! まじで!?」と驚愕する自分と

「ほんまゴメン」とすまなそうに謝るイク

簡略してに言うとイクヨハウスに泊れん

 

まぁそれはしゃぁないわな、そう易々とどこの馬の骨とも鹿の骨ともしれん男を泊まらすわけないよな

でも、てっきり泊まれると思って行動してたから、そのことを今知ったのはかなりきつい

これはまずいことになったなぁ、でも切り返しが必要だ

幸いなことに寝袋をもってるし、その気になれば名古屋城で眠るのも悪くない。漫画喫茶ならシャワーだって浴びれる

んー大丈夫、大丈夫だからイクちゃんよそう落ち込まんでください

でももっかいオカンに掛け合ってみるわぁつって、リュックから携帯を取り出すと

「あっ ミタさんから着信だ」「ミタさんって誰?」

「会社の上司、この人めちゃめちゃおもろいよー この人も4年インドに行っててね・・・・ あっ!」

「どうしたん?」

「タクちゃんミタさん家に泊まらせてもらいー! 名古屋も近いし!」

「いやいやいや 無理だろー さすがにそれは無理だろー」って笑っている俺の前で

ミタさんに電話をかけるイクヨ

「もしもし、ミタさん今何してるんですか? あー そーだそーだ結婚式だ。

え? まじでぇ? でも今男の子2人といるんですけど。

え?ほんとにいいの? 私達お風呂はいってないですよ。 あはははは

え? ほんとに? ほんとにいいの? じゃぁお世話になりまーす。

とりあえず、はい、ミカワアンジョウに、うん、着いたら連絡、はい、連絡しますね」つって電話を切った

イクちゃんキラキラ笑いながら、ミタさんが今から3人で来いってさ!

どうせ金ねぇだろうから飯食わせてやるってさ!

ついでに泊まってもいいって!

泊まらせてもらう為に電話したのに、交渉する前に来い!だってさ、あははは・・・

正に渡りに船とはこのことだ

カツはこの渡りに船っぷりに呆然とし、なんか変なテンションになってて

俺はゲラゲラ笑いながら「まだ閉じてなかったな!天国の扉!」

あはは おもろー ミタさん最高!つって万歳

 

地図をひろげて三河安城駅までの道を調べ

目指すは肉の街!三河!

すっかり夜になった高速を駆け抜ける車内

「ところでさイクちゃん、三河ついたらどこに行けばいいん?」

「グランドティアラってホテルって言ってたけど・・」

「え? ホテル? そういや結婚式がなんたらーつってたね」

「うん、そこで結婚式の二次会やってるんだって」

「へー 結婚式かぁ 結局俺やってねぇな。

ってか今日5月5日じゃん! 旧結婚記念日じゃん。濃いなぁ〜 濃い1日だなぁ〜 」

「まぁまぁタクちゃん、気を落とさずに」「大丈夫!これも因果だ。それにこんなおもろい日はない!」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

大理石の壁に、ふかふかのジュータン、頭上には巨大なシャンデリアが煌めいていて

真っ白なテーブルクロスが敷かれた円卓には寿司とビール

同じ席に座るのは、痩せてちょっと憂鬱っぽいピエール瀧ことミタさんと

目覚ましテレビの額にほくろがあるアナウンサーに似た、妙にきゃぴきゃぴしたおじさんこと大塚さん(仮)

カツオはこの空気にやや緊張気味であり、イクは社会人っぽく大塚さんにビールを注いでいる

自分はってぇと、まぁ御想像通り、口中に寿司をめちゃめちゃに詰め込んで、ビールでどんどん押しながし

旨めぇ旨めぇと連呼、すげー旨い、酢味の米に生魚がのっかっただけなのに、寿司ってうまいなぁ、としみじみ飯を食い

ひと心地着いて改めてこの空間を見回して、ひゃひゃひゃと笑う、あーダメ、笑いが止まらない

 

 

さっきまで山に隠っていました、3日間お風呂にはいってません

パンツも履き替えていません、あっシャツも着替えてねぇわ

ズボンも穴が開いてるし、裾は川水でかぴかぴ、それに素足にビーチサンダル

おまけに体のいたるところに砂が混じってんだよ、ひゃひゃひゃ

そんな男がさ、こんなとこにいるのはおかしいでしょ

超高級ホテルの宴会場で執り行われる結婚式の二次会に出席

壇上の席に仲慎ましく寄り添う新郎新婦は知らねぇ奴

マイクロフォンを握り高テンションで司会進行する男も知らねぇし

かっちりスーツを着込んだ新郎の友人達も、キラキラのドレスを来た新婦の友人も見たことねぇっつーの、爆笑

あー 笑けるわぁ 二次会の終盤に入って来ただけでも目立つのに

席は前だし、3人揃って薄汚れているし、サンダル履きの阿呆は獣のように飯を食っている

ああ痛い痛い、友人達の視線が痛い

ああ説明したい、説明したい、この状況を大きな声ではきはきと説明したい

 

しかし、まぁ、変に目立って雰囲気を崩すのは人の道から外れているし

こんな面白い状況に押し込んでくれたミタさんの顔を潰してしまう

ここは大人しくやり過ごそう、だまって酒を飲むぞ、って、給仕を呼び瓶ビール3本注文

若い新郎新婦に幸あれ!つってこれを煽った。なはははは。

 

 

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

二次会が終わる前にそろそろそろと後ろのドアからロビーに出て

「じゃぁ肉でも食いに行くか」って言われるがまま、

ミタさん、大塚さんの後について焼肉屋着!

ここで超高級蔵出しの霜降り牛をとか、あとよくわからんが和牛の高価な部分の肉を食う

うどんかパスタかカップ麺しか入っていない胃袋に高級な牛さんが仲間入りして

じゃばじゃばとビールが流し込まれる胃

鹿の骨を並べて以来、なんか面白いことがじゃんじゃん起こる

んまいなー んまいですなー って舌鼓を打ちならし

お話をしてわかったこと、俺はインドに縁がある、のかもしれない

話を聞くと、この大塚さんもインド支社に4年出向していて、GWを利用し日本に帰国中だし

ミタさんも3年インドで生活をしていたし

イクヨカツオもインド、アキラトウルもインド

こんな短期間でインドを知る人にこれだけで会うのは、これは俺にインド行けってことなのかぁ? さぁ?

まぁ カレー部副部長として本場インドに行くってのも有りだな

 

 

 

高級なお肉を食べさせてもらい、心底ごちそうさまでした、ありがとうございましたを言い

4人でミタさんハウスへ行き、3日ぶりに入浴

風呂場で俺の高笑いがこだまする、ぐわぁ気持ちよい、風呂って最高!

湯上がり、うつ伏せになるとうつらうつら

夢うつつに今度こそほんとに「天国の扉」が閉じる音がした

あはははは、ありがとう、最高に愉快な旅だったよ・・・・睡

 

 

 

 

 

 

 

*終扉*

 

 

 

『エピローグ』

 

 

 

 

不意に目が覚め、がばっと跳ね起きる

慌てて時計に目をやると午前4時30分

うっわー 知らぬ間に眠ってた、あぶねーあぶねー目覚ましかけてなかったよ

4時30分か、ふわぁ 眠い

このまままたゴロリと横になると眠ってしまい

今度こそ取り返しのつかない時間になってしまいそうなので

体に鞭うち、起き上がって煙草を吸い、洗面所で顔を洗う

とにかく駅の場所もよくわからんし、電車がいつくるかもわからんから

ここで呆然としていてもしようがない、眠くなるだけだ、と考えた自分は

イクちゃんが眠る2階の部屋につづく階段を昇りながら、ああ、夜ばいをかける感じってこんな感じなのかぁなんて思い

静かにドアをあけ、枕元に座り、起こすのは悪いなと思ったけど何も言わずに出ていくのはもっと悪いと思ったので

イクを起こし、俺帰るよ、いろいろありがとうね、気をつけてイギリスに行って来るんだよつって抱擁

1階に戻るとかっちゃんが目を覚ましていて「タクちゃんに会えてよかったよ!」と言われた、恥ずかしい

がっちりと握手をして、じゃ!またねーつって家を後にし、意気揚々と歩いたが、やばい、駅までの道がわからん。

 

 

昨晩の焼肉屋から帰って来た道をそれとなく辿る

自販機で缶コーヒーを買う、ガラガラガラガラガラガラと止め処なく缶コーヒーが落ちてきた

俺、早朝の知らない街であははと笑い、俺こんなに飲めんぞつって

その場で一本一気に飲み干し、5.6本をカバンに詰め込んだ

 

途中、新聞配達のおじさんに道を聞いてどうにか駅につき

ムーンライトながらって電車に乗って、名古屋着

名古屋駅構内でうろうろして、名鉄バスセンターから指定のバスに乗り新宿に向かう

 

 

 

帰りのバスは最高でした、がらがらで1人2席独占

これも鹿の御利益か?

しかも中央道もがらがらでノン渋滞で突き進む

これも鹿の御利益か?

しかも、通路を挟んで俺の横に座ったお客さん

音符記号がプリントされた白いヘッドフォンを耳にあてがい静かに音楽を聞いている

名古屋行きの時も隣に座ってたあの美人ガール

これも鹿の御利益だな、今朝の缶コーヒー、あれもきっと鹿効果

 

 

 

バスは滞ることなく中央道を突き抜け

予定通りの時刻に新宿に到着

ビルに囲まれた新宿は雨で濡れていた

無表情のまま急ぎ足で歩く人々、行き交う車

森も川も星もない街に帰って来た

この3日間がどれだけ天国であったか

そのコントラストが、この街に佇むと、ありありと身にしみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出立まであと4時間」5月2日

【 いるもの 】

 

 

 

 

明けカラスがカーカー鳴く頃に新宿からバスに乗って名古屋にゆきます

名古屋でイクちゃんと合流して車で長野へゆきます

あとは、うらびれた山中の廃校で好き勝手過します

木漏れ陽刺す古木に腰掛けて石川さんや中原さんの詩集を読むもよし

薮に分け入っていいかんじの木の枝を採集するもよし

いたずらに土を掘り返して土中で燻る幼虫を戒めるもよし

河原で蟹を追い掛ける、野原で揚羽を追い掛ける、ストレスが生み出した虚像に追い掛けられる、それも一興

火と水を工面して明け方にテントでコーヒーを飲むのも格別だろうな

隅々探検してシャシンを撮ろう、大きく発表出来るくらいやろう

とにかく自由だ、時間と言う概念をとっぱらい

短期間だけどもせちがらい世間と距離を置いて自分は、僕は、あたくしは色々考えたいと思ってます

答えが出そうで出ない問い「脳」と「意識」と「精神」と「魂」と「心」の区別

おそらく心ではなく意識を解放すれば人の目を気にせんと思うのよ。踊れんのよ。

 

大阪へ遁走した際に大活躍した大きなリュックに荷物をくんくんに積める

あっという間に丸く膨れ上がり、一度担いでみたがずしりと重い

でも、その重みがなんか懐かしく「ああ旅だな」っていう感慨が沸く、心が甘くなるこの感じ

こういうことの為に生きているのだ、と肯定できる力強い気持ちになれた

 

 

行きのバスで寝るために、今晩は寝ずに夜更かして朝を迎えます

だのにこんな日に限って20時頃からすこぶる眠たいです

出立まであと4時間

その間に「盆栽の水を枯らさない方法」の考案と忘れ物チェックでもするとします。

 

 

 

3日、4日家を開けるので日記更新は止まります

山中の電波さえ良ければ『ミクシ』でちょくちょく更新する予定

よろしければ見て下さい。

 

なんか今日の日記は落ち着いた口調風だな

おそらく、アレだ、緊張しているのだ。俺は。

バスで俺の横に座る人のこととか

会場の雰囲気とか

イクちゃんのお友達とか

知らないし、見当つかないから緊張している。

 

 

 

 

 

 

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