(1)において、幾何の学習を考える上で、これまで「図形」といってきたものの中に別のものとして考える必要がある二つのものの存在を示します。それがfigure と drawing です。
次の(2)〜(6)において、figure と drawing を考えることによって、 これまでの指導の中で、学習者が躓いてきた原因を理解できるようになる例を 示します。
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例えば、「一つの円の外側に点Pをとって、点Pからこの円に接線を引きなさい。」という問題を与えたとしましょう。
生徒の作図は、点Pを通るように定規をあてて少しずつずらして円に接するところを探して線を引くこでしょう。
ところが、数学を知っている人が作図をすれば、円の中心Cと点Pの中点をとって、そこを中心として点Pを通る円を描き2円の交点を求めて、この交点と点Pを結ぶ直線を引くことでしょう。
生徒が使っているのは「理論」ではなく「認識能力」です。
実際に定規をあてて円とすれすれかどうか「目で見て」図を描いています。
一方、数学を知っている人は、
「接点を通る半径と接線は直交している」
「直径上の円周角は直角である」
という初等幾何の「理論」あるいは「知識」を使って作図をします。
たとえば、このように、数学を知っている人達は目の前の図に対して、 注目する直線を太く書いてみたり、余計な直線は消してみたり、 というような操作をしていますが、しかし実際に頭の中で操作しているのは 「物理的に表現された図形」ではなくて「理論的な対象」なのです。
このように「図形」とはいってみたものの、子供たちにとっての図形と、 数学を知っている人達の図形とは区別して考える必要があるのです。
そこで、
drawing ・・・ 物理的に表現された図形
figure ・・・ 理論的な対象としての図形
というように区別して考えることにしましょう。
生徒の目の前にあるものは、drawing で、「初等幾何」において、考えたり操作したりされる対象となるものが figure であるということになります。
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円と円外の一点がある。点Pからこの円に接線を2本引き、この2点とは異なる円周上の点Cをとる。点Cにおける接線と最初の2本の接線との交点をQ、Rとする。
このとき、点Cを劣弧上にとったときと優弧上にとったときでは、数学的な性質が全然ことなります。劣弧上に取ったときには、できる三角形の周の長さは、点Cが劣弧上をどのように動いても一定になります。ところが、点Cが優弧上にあるときには、できる三角形の周が一定になるようなことはありません。
この例は、幾何学的には質のことなるものが2つあるのに、ひとつの drawing だけからではもう一つの存在を推定することが難しいことを示しています。このような意味で、drawing から出発して figure を完全に推定することができないということがわかります。
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fig-05
fig-06
fig-05を見れば、大抵の生徒は、これが「正方形」であると認識できます。ところが、fig-06を見たときに、これを「正方形」と認識できない子供がかなりいるということです。「正方形」と認識できない子供たちは、これを「ひし形」と答える子供が多いのだそうです。
生徒は、理論的な「正方形」を特徴つけていない要素に気を取られてしまっているわけです。
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凾`BCの辺AB、ACを1辺とする正三角形をかき、凾cAB、凾dACとする。DE=BEとなるのは、凾`BCがどのような三角形のときか。
fig-07
ある生徒がこの問題をやってみたときに、いろいろな図を書いてみて、凾`BCが直角二等辺三角形のときにDE=BDとなることを見つけました。そこで、直角二等辺三角形と答えました。
fig-08
しかし、DE=BEとなるためには、∠A=90°であればよく、AB=ACである必要はありません。たまたま直角二等辺三角形の図を描いてしまったために、この問題には余計な情報を答えてしまった例です。
これも、この問題の解決に必要な情報を知識によって取捨選択することなく、視覚による情報だけにたよってしまったことが原因です。
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「四角形のうちで、3つの角だけが90°であるようなものを作図しなさい」という問題を生徒に与えると、何人かの生徒が、この作図を出来てしまうということが報告されているそうです。
fig-09問題として与えられているから「できる」と思い込んでしまって、意識してか意識しないでか、結果として「ずる」をしてしまうのだそうです。
このような極端な場合でなくとも、学習者の勝手な思い込みによって drawing そのものさえも正確に認識できない場合がありうるという例です。
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例えば、三角形の3つの中線は1点で交わることを証明しようとするとき、1本の中線に対して、他の2本の中線が異なった交点を取るように描いて名前を別につけて証明を行うのではないでしょうか。正確な図を描くとかならず1点で交わってしまい、仮定と証明すべきことが混乱してしまうからです。
fig-10与えられた条件だけから決まる figure と、結果としてそうなるとしても、証明すべき figure とが頭の中で区別されているからそのようなことをするのです。
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