確率の授業1

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不思議な賭け

永井義男「算学竒人伝」より

 博打でないと言われれば、確かにそうかもしれない。
 はずれるたびに賞金が倍になり、つまり、はずれればはずれるほど金がもうかるというのだから。
 まず、通常の博打では有り得ないことだった。
 そのため、日ごろから賭場で金をすられっぱなしの男たちが、「俺ぐらいついていない人間はないのだから」と妙な自信を持って詰めかけているという。

 下男の治助はてっきり叱られると覚悟し、おそるおそる話しはじめたのだが、主人の吉井長七は叱りつけるどころか、ひとかたならぬ興味を抱いたらしい。

「面白いな。うむ、なかなか面白い。もう一度詳しく話してみろ」

 長七は座りな直した。目が生き生きとしている。
 治助は主人のあまりの熱心さに、まさか自分も行く気なのではないだろうかと、ちょっとふあんになった。変人だけに、妙にこり出すとあとさきを考えずにのめり込み、身を滅ぼすことにもなりかねない。
 だが治助はいったんしゃべり出すと、最初の抱いた危惧はごこへやら、いつのまにか話しに夢中になってしまい、身振り手振りを交えながら事細かに説明を始めた。

 「サイコロはいくつかある中から、自分で選んでいいんですよ。また、丁で行くか半でいくかも自分で決め、サイコロも自分で振ります。」

 サイコロが選べること、さらには賽の目は二、四、六という偶数の丁か、あるいは一、三、五という奇数の半かも自分で選んで振ることから、まずいかさまが入り込む余地はない。長七は黙ってうなずいている。

「おらは丁に張りましたから、丁が出ればおらの勝ち。半が出ればはずれなんですが、この勝負の面白いところは、はずれればはずれるほど儲けが大きくなるんですよ。」

 長七は真剣に聞き入っている。治助はちょっと得意になった。

「勝負は一回十文、賞金は一文なんですが、賞金は一振りごとに倍になります。つまり十文払ってサイコロを振るわけですが、一振り目に丁が出ると、あっしの勝ちで一文もらえます。しかし十文はらって一文もらったんじゃあ、差引き九文の損なわけで、なまじ早く勝つと損をするわけですよ。ところが、なかなか丁が出ず、半が続くと、つまりはずれが続くと、賞金は一振りごとに倍になるわけですから、例えば、四振り続けて版が出て、五振り目にようやく丁が出て勝ったとすれば、一、二、四、八、、十六で、つまり十六文もらえるます。十文払って十六文戻るわけですから、差引き六文のもうけ。と、こういうわけで、はずれが続けば続くほど、戻ってくる銭も多くなるわけでしてね。」

 長七は目を細めると、すばやく暗算して、

「とすると、例えば丁に賭けて十振り続けて半がでて、ようやく十一振り目に丁が出たとすると、賞金は千二十四文、一貫と二四文だ。十文はらって一貫と二四文が戻れば、確かに大もうけではあるが・・・」

 治助は主人の速やかな計算に舌をまきながらも、うれしそうに、
「でしょう。運が悪い奴ほど大もうけができるってわけなんですよ。」

「で、おまえはどうだった。もうかったのか」

(以下略)


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