13 授業後の座談会 その5

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矢印が先か、成分が先か

高屋敷:  さっきから,数ベクトルの話が頭にあるんですが,2つのものを同時に扱う,3つのものを同時に扱うというのがベクトルの概念のような気がするんです。だから,カって言ったときには,「強さ」と「方向」だと思うし,移動と言ったときも,右にとか,西にとか,上にとか北にという2つのことを併せて考えている。で,矢印は,向きと長さの2つの量をということをつねに考えなければならないんじゃないかな,と思います。

鎌田: なんか,生徒のイメージからすると,最近の生徒は,図形的なイメージが強いような気がしてね。昔は,数ベクトルからいかなきゃ嫌なような感じがしたんだけれど,今は,自然と図形としての矢印のイメージがあって,すんなりとできる。それが,数と数との計算になると,なんだか嫌だなということになるような気がするんです。

伊藤潤:  今日の授業であげた,ベクトル量の「力」と「移動」というのは,取り入れて正解に近いという感じでまとめてみましょう。
 逆もあるんですよね。先に天下りでもなんでも,ベクトルを定義して,それから,こういう運用の仕方もあるんだよという・・・。
 それをしなかったのはなぜですか(笑)。

宮本:  最初から,導入の仕方として,数の組でいくか,矢印でいくか,悩んだんですけれど,一番自然な方・・・手に触れる方・・・を選んだんです。数の組っていうと座標をとって初めて決まるものだし,座標がなくてもベクトルはあるはずだし。


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ベクトルという「もの」・・・手で触れるもの

伊藤潤:  まず暴走ゲームをして「移動」を体験して,「カ」の方は中学校でやってきたかなと流して(笑),入っていくことですけれども,結局は矢印としてスタートしたわけです。次の話題として,ベクトルの導入として矢印がいいのか,成分がいいのか,ということに移りたいと思います。どっちが導入として適しているのでしょうね。

下町:  今回の授業の前に,鶴亀算の話をしているのは,ベクトルの成分と関連させた話なのですか。

宮本:  そうではなくて,文字を使って計算することによって問題が解けていくことを後で強調しようと思っています。幾何の代数化ということをやりたいわけです。そのためのイントロだったんです。だから,今日の授業やベクトルの成分に直接つながるわけではありません。

小宮山:  代数構造にもっていくと話がきれいになるよ,ということにつなげる話なの?

宮本:  そうですね。そういうことです。それから,ベクトルの記号  っていうのが非常にうまくできていて,なれてくると図を見なくても,  なんてできちゃうわけで,こういうことにもつながるかな。

下町:  てっきり,成分に鶴の足,亀の足を割り合てて,ベクトルの成分計算のようなことをしたいのかなあと思いました。

伊藤潤: 簡単な例では,みかんが3個,りんごが2個というのを(3,2)というベクトルにして,またもう1つ,みかんが2個,りんごが1個というのを(2,1)とかとやって,和を定義していくというのがありますよね。こういう単純な形で数ベクトルの導入というのもあると思うんですが。


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小宮山:  高校の教材でベクトルを教えることの意味と関わるのかもしれないのですが,私の感覚としては,ベクトルというのは無限次元でも何でも通用するところにベクトルとして扱うことの意味があると思うので,やっぱり感覚的な矢印とか量を抽象した何か,の範疇のものとして考えていった方が分かりやすいという気がしているんですよね。そういうふうなものとして,ベクトルを扱いたいと思うのです。数ベクトルから入っていくと最後まで数ベクトルで扱うようになってしまって,座標で表せないベクトルについての部分が抜けてしまうような気もするんですが。

伊藤潤:  数ベクトルで導入した場合のウイークポイントとして,ベクトルの同値類のところかと思うんです。同じ向きで同じ大きさのベクトルについて,式をいじりながらではちょっと,という部分がね。

下町:  昔,代数・幾何の中でベクトルをやっていたときは,行列につなげていこうという考え方があったので,数ベクトルから導入していくのもいいような気がしたんですけれども,今は,図形的な意味合いを全面的に出していった方がいいかもしれませんね。

高松:  今,複素数のことを考えると,複素数をベクトルのように見たいというのがあるんですよね。だから,数ベクトルよりは矢印の方がいいかなと。

宮本: 数ベクトルでやったときには,「もの」が見えてこないということもあります。

伊藤潤:  昔やったのでは,例えば,人間の身長,体重 胸囲 座高というのを4次元のベクトルで表すわけです。Aさんの体格とかBさんの体格とかいろいろ名前をつけるわけです。それはそれで面白いんですよね。でも,これは足し算が意味をなさなくてベクトルにならないんですよ。身長の和とか体重の和は何か意味が考えられなくもないのだけれども,ベクトルじゃあないんですよね。


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宮本:  昨日,暴走ゲームやっている生徒の口から,「次の移動は3行って3下がるから・・・」とかって言っているのを耳にすると,成分で入った方が良かったのかなあとも思ったりしてますが・・・。

小宮山:  それは,次に成分やるときにすごく役立つことじゃないかな。

佐々木: 2行って3下がるとかいうのは,成分というより,中学校でやってきた直線の傾きというか,方向比のイメージですね。

伊藤潤:  それはまあ,ベクトルの問題といえないこともないけれども・・・。
 大学生の意見はどうですか?

山本:  矢印の方が使いやすいのではないかと思います。やはり,成分の方は,その場では分かったような気になるけれども,応用となると使えるのかどうか。さっき下町先生が言われた,s t のベクトル方程式とかになるとベクトルで考えないで,成分にたよって成分に戻って考えてしまうのではないかと思います。

下町:  ベクトルって何だと言ったとき,よく「多次元量」だとか「数の組」とかいうじゃないですか。でも,それってまだベクトルじゃないですよね。足し算・引き算と実数倍が定義されて初めてベクトルになるわけですから。数ベクトルでやっていると,ちょっとそこを誤解してしまうことがあるのではないかと思います。それに対して,矢印というのは,何か「たされたがっている」モデルといえそうじゃないですか。最初は  というように始点と終点が固定された「有向線分」の状態から,平行移動可能なベクトル  となったとき,それは実数倍したり,足したりするための準備をしているという感じが強いですね。


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伊藤潤:  そうですね。これは最後に言いたかったんですけど,「ベクトルをやると虚しい」という言葉があるんですよ(笑)。中身がないというか,寂しいというか。つまり,何か具体的なものをやっているんじゃなくて,一生懸命ただただ道具作りをしているという感じですね。実態がない。ただの数の組をたすとか。だんだん形式しかなくなるというか,イメージがなくなるというか。

宮本:  そうするとイメージ中心になっちゃうんですけど,イメージとともに,形式化したことによって浮かび上がる,ベクトルの持つ「代数の便利さ」とい.うのも,これまた大事だと思うんです。両方やりたいと思います。

伊藤潤:  矢印という意識が強くなると,さっき高松先生が複素数をベクトルのように見たいと言ったように,例えば1次式なんかもそうでしょ。2次元ベクトルで表現してみたり,ひょっとしたら,数式なんかもベクトルで見たいというようなこともあるんですね。だから,矢印からもちょっと離れて代数的な部分を考えていくことも必要ですね。

宮本: 成分でやっていたときに気になるのは,代数的な処理が座標と同じになってしまうところなんですね。ベクトル固有の色を出したいということがあります。

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