「搭矢ぁ、何してんの〜?」
そう言ってボクの後ろから進藤が抱き付いてくる。
「見てわかるだろう…昼食を作っているんだ」
「ふーん…。あのさ、搭矢っ、好きだよ」
進藤を見るとにこにこと笑っている。
「ああ、わかっているからどけてくれ。邪魔だ」
進藤はぷうと頬を膨らませて大人しく離れた。
「搭矢全然わかってないよ」
「わかった。ほら、どけて」
進藤はしぶしぶといった感じでボクのそばを離れた。
ボクは作っていたチャーハンをお皿に盛るとテーブルに運んだ。
「はい。どうぞ」
「いただきまーすv」
進藤は嬉しそうにご飯をかきこんだ。
「んまい」
口をもごもごさせながら進藤は嬉しそうに笑う。
「そう。それはよかった」
「ごちそうさまー」
進藤はすごい勢いで食べ終わるとお皿をさげた。
ボクがゆっくりと食べていると進藤がまじまじとボクを見た。
「何?」
「んー?かわいいなーと思って」
「………」
「搭矢大好きっ」
進藤は笑顔で言う。
進藤は最近、ボクのことを「かわいい」「好きだ」と頻繁に言ってくる。
初めは新手の嫌がらせか何かかと思ったけれどそういうわけじゃないらしい。
よくわからないけれど、進藤流の愛情表現らしい。
ボクはもう聞きなれてしまって今では軽くあしらうくらいになった。
それが気に入らないのか進藤はいつも拗ねたようになる。
「搭矢〜。おーい、起きてるかぁ?」
進藤がボクの目の前で手をひらひらと動かす。
「起きてるよ。何?」
「ぼーっとしてるからさ。寝てるのかと思って」
ボクは「そんなわけないだろう」と返して昼食を食べるのを再開した。
ボクが食べ終わると進藤がすかさず言う。
「一局打と?」
「ああ」
進藤は何かとボクの家に来てはボクにひっついて離れなかったり、鬱陶しいくらい「好きだ」と言ってくるが、ボクはこうして打てるから甘んじてその行動を許していた。

一局といつも言うけれど、一局で終わったことは今までない。
いつも夕方くらいまで打ってしまう。
打ち終わって、一息つくと進藤は言った。
「今日泊めて?」
またか? そう思った。
進藤はよくここに泊まりたがる。おそらく帰るのが面倒くさいという理由だろう。
「ダメだ。帰れ」
えー
進藤が不満そうに言うけれど、この前だって泊まっていったんだから今日は帰った方がいいだろう。
「んーわかった。じゃあまた…えーっと、明々後日の夜また来るなv」
進藤はいつも今度くる日を宣言して帰る。
しかもボクの予定をきっちり知っていて、いつならボクがいて来てもいいか調べてる。
何でそこまでするのかよくわからない。ボクに直接聞けばいいのに。
明々後日、ボクは指導碁が入ってるけど、まぁ、夕方には帰って来れるだろう。
「…いつも思うけど…、夜に来てどうするんだ。一局しか打てないだろ?来るのもだけど帰るのが大変じゃないのか?」
そう聞いてみたら進藤はにっこり笑って言う。
「別に。一局打てたら十分じゃん?それにお前が泊めてくれればオレ帰んなくてすむし」
「…泊めないからな」
「えーっ!何で〜」
「だから夜に来るのをやめろ」
「嫌だ!だって昼会える日って滅多にないじゃん!」
確かに昼間暇な日って言うのはないに等しい。
ボクが空いていても進藤が空いていない。進藤が空いていたらボクが空いていない。
「オレ打つのももちろんだけど…お前に会いたいもん」
子供のように言う進藤はまるで拗ねた子供みたいでかわいかった。
ボクはしかたないなと心の中で呟いて進藤に微笑みかけた。
「わかった。来てもいいけど…ちゃんと帰るんだぞ」
「わかった!じゃ!またな」
進藤は嬉しそうに笑って帰っていった。
その後ろ姿が今にもスキップでもしそうな勢いだったのでボクは思わず笑ってしまった。
何だか子犬か何かに懐かれた気分だった。

 

 

 

久しぶりに進藤と1日休みが重なった。
進藤は前々から宣言してボクに家にいるように言っていた。
進藤に言われなくてもどこにも出かけないんだけどね。
進藤は朝早くからボクの家に来た。ボクが驚くくらい早い時間だった。
「おはよっv搭矢」
「…おはよう…早かったね」
「あ、ゴメンまだ寝てた?ってんなわけねーか?」
「起きていたけど…こんなに早いとは思わなかったから」
「うん。昨日早く寝たんだv早くおまえに会いたかったからv」
満面の笑みで進藤は言った。
「……そう」
ボクはこういう時どう答えていいかわからない。
進藤がボクを好いてくれているから会いたかったと言うのはわかるけど、そういう風にストレートに言葉にされると照れてしまうというか
ボクはどちらかと言うと思ったことをストレートに表現できないから…
だから素っ気無い返事をしてしまうわけだけど、そうすると進藤がとても寂しそうな顔をしてしまうのだ。
そんな顔をして欲しいわけじゃないのに。
そんな風にボクを慕ってくれることはとても嬉しいのに。
でも進藤はすぐに明るく笑ってボクに接してくれるから、ボクもそんな返事しか出来ない。

「さっそく打とうぜ!」
「ああ」
いつものように打って検討をする。
打っているといつも時間を忘れてしまう。もう昼を過ぎてる。
「進藤お腹空いてないか?」
「え?あ、空いた」
打っていると忘れてしまうのは進藤も同じらしい。
ボクは台所に向かった。今日進藤が来ることがわかっていたから、お昼の下ごしらえはしてある。それを温めるだけで出来上がる。
ボクは素早く温めて進藤を呼ぶ。
「もう出来たのか?」
「作ってあったんだ。キミが来ることわかっていたからね」
「………」
進藤は黙ってボクを見た。
「進藤?」
「ん、なんでもない…」
進藤は少し俯いてじっと何かを考えるように難しい顔をしてしまった。
どうしたんだろう?ボクは何か変なことを言ってしまっただろうか?
「で、ご飯は?」
進藤はいきなり顔をあげて笑って聞いてきた。
「ああ、はい、どうぞ」
「いっただっきま〜す」
進藤は嬉しそうに手を合わせて食べ始めた。
さっき、進藤は何を考えていたんだろう?……まぁいいか
ボクもさっさと昼ごはんを食べることにした。
進藤はいつも食べるのが早い。喉に詰まらせるんじゃないかってくらい。
「急いで食べてどうするんだ?」
「別にどうするってわけじゃないけど…。搭矢のご飯おいしいんだもん」
「……ありがとう」
そうお礼を言うと進藤はとても嬉しそうに笑った。

昼食を食べ終えると進藤は打とうと言ってきた。
「ごめん、進藤、ちょっと待っててくれないか」
「なんで?」
「いい天気だから、洗濯物を干したいんだ。あと布団も。いつも忙しくて出来ないから」
「ならオレも手伝うっ」
進藤が目をキラキラと輝かせて言った。
ボクは大人の真似をしたがる子供を見てるような気分だった。
ボクが笑って「じゃあお願いしようかな」と言ったら「まかせとけっ」と返事が返ってきた。
何だか可笑しい。
ボクが笑いを堪えられなくて少しだけ笑うと進藤が不思議そうにボクを覗きこんできた。
「何?何か面白いの?」
うん。何だか可笑しい。
進藤がきょとんとボクを見ていた。
可笑しいな。進藤がかわいく見える。
「何でもない。早く干してしまおう。それから打つんだろう?」
「うん」
2人でさっさと干してしまおうと思ったんだけど、そうはいかなかった。
進藤がことあるごとに何かを聞いてきてちっとも進まない。
「搭矢〜、くつしたはどうすんの〜」
ボクが布団を運んでいると進藤の声が飛んできた。
「洗濯バサミが沢山ついてるのを渡したろう!それに干してって言ったじゃないか」
「あ、そうだったっけ」
まったく…
ボクが布団を素早く干し終えた頃にまた声がした。
「搭矢〜。洗濯バサミ足りないんだけどぉー」
「今行く」
進藤に頼んだ洗濯物は半分しか片付いていなかった。
「これだけしか進んでないのか」
「う。だって…」
「洗濯バサミあるじゃないか」
「え?」
「ここに」
「あれ?」
「…よく探せ」
「う…、ごめん」
「別にいいけどね。慣れてないとやりにくいのはわかるし。はい、かして」
ボクは進藤が持っていた洗濯物を取り上げて素早く干した。
「洗濯バサミ取って」
「あ、はい」
「次それ」
「はい」

なんだかんだで洗濯物を干し終わって、ボクらは一息ついていた。
「ね、搭矢」
「何だ?」
「好きだよ、搭矢」
「ああ、わかってる」
いつものように交わす会話。何度も言わなくてもわかっているのに。
「違うんだってば。オレの好きはおまえのと違うの」
「何だそれは。意味がわからない」
「んも〜、好きって言ってもさぁ…いろいろあんじゃん」
「…それで?」
「……だから…オレは搭矢が好きなんだよ」
「わかってるけど?」
「…絶対わかってねーだろ」
進藤は脱力したように肩を落とした。
「わかってるって言っているだろう。何が不満なんだ」
進藤は難しい顔をしてう〜んと唸った。
「あ!そだっ!」
進藤は手をぽんと叩いてボクに近づいてきた。
「搭矢、搭矢、オレの好きって言うのはさ」
「うん?」
「こういうの」
こういうのってどういうのだと聞こうとしたら進藤の顔が近づいてきて口を塞がれた。

「わかった?」
すぐに離れていったけれど…今のはキス?
………
「キミは帰国子女だったのか?」
「はぁっ?」
「違うのか?そんな髪をしてるし、もしかしたらと思ったんだけど」
「や…あのさ…なんでそんな思考にしかいかねーかな…」
「…それでどういう意味なんだかよくわからないんだけど。家族ぐらいに好きだってことか?」
「も…搭矢…鈍感;」
「失礼だな。鈍感とはなんだ」
進藤は俯いてふるふると震えていた。
「搭矢の…」
進藤は顔を上げてボクをきっと睨んだ。
「鈍感ーーーーーーーーっ!!!!!」
「五月蝿い」
「うわっ!もうこいつわけわかんない!あーっ!こいつが好きなんだと思うと悲しくなる〜」
「失礼極まりないな、キミは」
「あーもーっ搭矢のバカ〜」
「キミの方がよっほどバカだと思うけど」
「おまえだって失礼じゃんか!」
「本当のことを言ったまでだけど」
「うっわ〜かわいくね〜な〜。でもかわいいなーもーっ」
「進藤、日本語がかなり可笑しいけど?」
「も…オレ疲れた…」
進藤ははぁとため息をついた。
「おまえって…ほんっと、ヘンなやつ」
「ヘン?どこが変だって言うんだ」
「ん〜、全部だよ全部〜。って言うかさ、オレとキスして気持ち悪いとか思わないわけ?」
「…別に気持ち悪くはないけど」
というより何故気持ち悪いと思うんだ?
「…やっぱおまえおかしいぞ」
「何だと。じゃあキミはボクとキスして気持ち悪かったのか?」
キミがしてきたのに気持ち悪いなんて言ってみろ。ぼこぼこにしてやる。
「んなわけねーじゃん!すっげ〜…幸せ、だよ。こんなことしたら殴られるかと思ってたもん」
殴る…?
…ボクはそんなに進藤を殴っていたかな…?
「またしてもいい?」
「何をだ?」
「何って…キス」
「…したいのか?」
「うん」
…キスは普通は恋人どうしがするものなんじゃないのか?
それは挨拶代わりって意味か?
「…ダメ?」
進藤が上目遣いで聞いてくる。
…ボクは進藤の言う通り、どこかおかしいのかも
また進藤がかわいく見える。
「いいよ」
「えっ」
進藤が目を見開いてボクを見た。
「いいって…いいのっ?!」
頷いてみせると進藤はぱあっと笑ってボクに抱きついてきた。
「搭矢好き、大好き」
ありがとうって言ってるつもりなのかな?
「どういたしまして」
ボクが子供をあやすように背中をぽんぽんと叩くと進藤がへへっと笑うのがわかった。
「搭矢、だ〜いすき」
「わかってるよ」
また同じことを言うけれど、
それが幸せだと感じた。

 

 

 

 

ここまで鈍かったらある意味すごい。
アキラって恋愛疎そうだからちょっと鈍くても大丈夫だろうと思ったら…どこまでも鈍くなってしまった。
ヒカルもバカだし…。
「恋の好きだ」って言えば一発でわかるんじゃ?と自分でつっこんだけど、あえて無視。
これはこれで面白い関係だと思う。いつまでも恋人にはなれないけどね〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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