上記CD制作に先立ち,CD-ROMテスト盤の感想を30人ほどの方からいただきました.
その結果は,
「音程に自由を −非12音平均律音楽−」,小方 厚,久留智之,日本物理学会誌 59 (2004) 553
に要約されており,
こちらからダウンロードしていただけます.
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このページの主題は非12音平均律である.
ふつうの音楽は12音平均律だ.音楽と美術を比べよう.
絵画ではどんな色も自由に使えるのに対し,音楽では(音楽のすくなくとも99%では)使える音が(正確に言えば,使える音程が)
限られている.
1オクターブの周波数間隔を対数的に12分割することにより定めた音程以外は使えない.
12音の歴史的専制である.
ここでは,なぜ12なのかを考えたい.タイトルのドミソは12音のうちでも,いっしょに鳴らしたときよく響く3音である.
12音平均律は純正律を近似するためのもので,純正律は周波数共鳴の心地よさを追求した音階である.
ここではもとの音(ド,以下根音という)の5/4倍,3/2倍の周波数を持つ音をミ,ソ(三度,五度)としている.
このような
周波数が「整数比」を持つ二つ(以上の)音を和音として一緒にならすと,
人間の感性にここちよくうったえる (コードが気持ちよい).
さらにこれら二つの音の間の移行も心地よい(コード進行=ケーデンスが気持ちよい).
純正律にはドレミファ...の7音がある.なお,8音目はオクターブ上のドである.
このうちドと隣り合ったレとシ以外は,根音ドとここちよく響く.
なぜ純正律のミファソラの4音がドとここちよく響くかをこれから説明する.第1の原因は,われわれは高さが近い2音を聞くと不快に感じること,第2の原因は管楽器・弦楽器のスペクトルには整数倍波が豊富に含まれていることである.
まず第1の原因について説明しよう.もともとは周波数が「整数比」を持つ二つ(以上の)音を和音として一緒にならすとなぜここちよいのかを考えるはずだった.ここではこの問題を逆方向から考える.何が快か,よりも何が不快かのほうがわかりやすいからである.
「キーッ」という音はだれでも嫌いだが,これはもっとも聴覚感度がよい周波数領域でとつぜん大きな音を聞かされるせいである.ここでは音程,すなわち2音の高さの差の快・不快に焦点をあてている.
この条件で考えると,高さが近い,すなわち周波数が近い2音を重ねて鳴らすと不快に感じるようである.ピアノ・ギターなど手近な楽器でドとレを同時に弾いたときの響きはここちよいものではない.しかしレからミ,ファ...へと,ドと重ねる音高が遠ざかるにつれ,不快感は減少する.この不快さを「不協和度D」として定量化することを試みる.またC=1-Dにより協和度$C$を定義する.CとDの和は1,すなわちC+D=1であって,CもDも0と1の間にある.
心理学の実験によれば,ふたつの純音すなわち単一の周波数成分しか持たない音が重なったときの不協和度Fは,周波数差(もっと正確には周波数差と2音の平均周波数の比)に直接依存する.ふたつの純音の一方の周波数を固定し,他方の周波数を徐々に増やしていく,あるいは周波数差を徐々に大きくしていくことにしよう.このときわれわれにはどう感じられるだろうか.
差が小さいうちはひとつの純音にきこえるが, 次第に音程が上げると,ふたつの周波数の平均を周波数に持つ純音が,周波数差の唸り(うなり,英語ではビート)を伴って聞こえるようになる.
差をさらに増加させると,われわれにはふたつの音程の異なる2音が認知できるようになる.
さらに差をひろげると,やっと二つの音が独立に鳴っていると認識できるに至る.
このふたつの別な音に聞こえるかの境界の周波数差を臨界帯域幅という.
臨界帯域幅は異なる高さを持つふたつの音に対して定義すべきものだが,便宜的にはふたつの音の平均周波数に対して定義する.この臨界帯域幅を上図に示した.
この重音の感じ方を快・不快という見方でまとめると次のようになる.音程すなわち周波数差が臨界帯域幅以上で2音が相互に干渉しない程度に大きいときは,2音をいっしょに鳴らしても不快感すなわち不協和感はない.このとき不協和度D=0であって,協和度C=1である.周波数差が臨界帯域幅より小さくなると、不協和度が生じる.周波数差が近接すれば不協和度は増す.しかし周波数差が認識できないほど小さくなれば,不協和感は消える.
音楽の専門家でない多数の被験者を対象に,この不協和度が周波数差とどのように関連するかを調査し,グラフに示した結果が上図である.この曲線を不協和曲線という.不協和度が最大になるのは(D=1となるのは)周波数差が臨界帯域幅の約1/4のときである.きわめて単純に言えば,2音が臨界帯域幅内にあれば,程度の差はあるが重音は不快だということになる.このグラフは1960年代に描かれたものだが,現在では協和・不協和を定量的に論じる基礎となっている.
なお,ここでいう「協和」は不快感を与えないという消極的な意味である.「協和音」というと一般には聴いてここちよいという,積極的な意味で用いるので,注意が必要である.
不協和曲線は二つの純音,すなわちそれぞれが単一周波数しか出さない音を同時に鳴らしたときの不協和度である.純音というのは,音叉の音,時報の音であって音楽に使う音ではない.
物理的には,音は空気の振動で,振動するモノによっていろいろなモードがありうる.上図の左は両端を固定した弦の振動,右は両端をふさがれた管の中での空気の振動である.
弦または管の中央が大きく振動するモード(a)の他に,両端と中央が動かず,両端から1/4の場所が大きく動くモード(b)が可能で,後者の周波数は前者の2倍となる.(c)は両端から1/3の場所が動かないモードで,周波数は(a)の三倍である.以下(d),(e)等のように4倍波,5倍波もあり得る.このように管楽器・弦楽器の音はは多数の整数倍音を含み,周波数スペクトルはたとえば(f)のようになる.
これはヤマハの家庭用グランドピアノのC音のスペクトル.根音は261Hz.ピアノは鍵盤楽器に分類されるが,ピアノ線という弦をハンマーで叩いて音を出す.物理的には弦楽器の一種である.20倍波あたりまで存在していることが分かる.
したがって,楽器で音程が異なるふたつの音を鳴らしたときは,根音だけでなく,楽器から出るすべての整数倍音同士の組み合わせの不協和度を求め、それらを加えて不協和度としなければならない.
上の図にはa-dの4つの図があるが,いずれも横軸は周波数すなわち音の高さである.
管楽器あるいは弦楽器で異なる高さの音を同時に鳴らしたとしよう.
図(a)では2音のうち低音を出す楽器のの周波数を大文字I,高音の周波数を小文字iと書く.
(a)の周波数I,iを持つ2音を出したつもりでも,実際に楽器から出る2音は(b)のように,それぞれが必ず整数倍音を伴う.
そこでI,iそれぞれの整数倍音をII,III,IV;ii,iii,ivなどとする.
整数倍音は横軸上に等間隔で並ぶ.iはIより高音だからi,ii,iii,...はI,II,III,...より間隔が粗い.
ところで,単一周波数からなる音には不協和曲線が定義できた.不協和曲線とは,ある周波数の音と近い周波数の音が同時に聞こえたときの不快さすなわち不協和度を周波数差に応じて描いたものであった.(b)のI,II,III,...;i,ii,iii,...は単一周波数音だから,それぞれに対して不協和曲線が描ける.これをもとの周波数スペクトルと重ねて,(c)に示した.一般に整数倍音の大きさは周波数が大きくなるにしたがって小さくなるから,不協和曲線の高さ(振幅)もそれに応じて小さくなる.
たくさんの不協和曲線から,実際の不協和度をどのように求めればよいのだろうか.基本波Iと基本波iを同時に鳴らしたとき,iのためにIがもたらす不協和度は,図ではiの位置におけるIの不協和曲線の高さである.これは図\ref{setumei}(d)では上の図,Iの右にある点線の高さに相当する.
同様にVとiiiを同時に鳴っているとき,Vのためにiiiがもたらす不協和度は,図ではVの位置におけるiiiの不協和曲線の高さになる.(d)では上の図,iiiの右にある点線の高さに相当する.このように,不協和度に相当する点線の高さを,低音側(I,II,III,...)から高音側(i,ii,iii,...),高音側から低音側の2方向について,すべての組み合わせに対して求め,高さを合計したものが,図(b)のような周波数スペクトルを持つ楽器で,(a)のふたつの音を出そうとしたときの不協和度である.
このような方針で,ひとつの楽音の周波数を固定し,他方の楽音の周波数を連続的に変えて計算をおこなう.ふつうの音楽では音律というものがあって,音楽に使える音の高さ,厳密に言えば根音に対する周波数比は決められているのだが,ここでは特定の音律を想定しないで,すべての周波数に対して連続的に計算する.どうせ計算するのは計算機だから気楽なものである.
整数倍波すなわち整数倍音の大きさは楽器により異なる.とりあえずここでは整数倍波は公比0.8の等比級数で減少するもの,すなわち根音の振幅を1とすれば,2倍波は0.8,3倍波は 0.8x0.8=0.64,4倍波は 0.64x0.8=0.512 というふうに次第に減少すると仮定して計算してみる.
上の図がその計算結果,整数倍音を持つ楽音の不協和曲線である.グラフの値が小さいほど協和度が良い.言い換えれば響きがよい.横軸の周波数比が1はユニゾン,2はオクターブ離れた2音で,これらが協和するのは当然だろう.この途中で曲線が谷になる横軸の値は,6/5, 5/4, 3/2, 5/3で,2音の周波数比が簡単な整数比で表せるときは協和度が良いという結果が得られた.1をC()とすればこれらの谷の音はEb(ミb), E(ミ), F(ファ), G(ソ), A(ラ)に対応する.音程で言えば短3度,長3度,完全4度,完全5度,長6度である.なお,整数倍音の分布を多少変えても,たとえばすべての整数倍音が同じ大きさとしてみても,この傾向は変わらない.
この図の出発点は2純音の不協和曲線,すなわち「同一周波数の2音は協和するが,やや周波数が離れると不協和になり,もっと離れると協和する」という心理テストの結果であった.「何が不快か」という,
いわば消極的な前提から,どういう和音がここちよいか,和声学と同じ結果が導かれるのは驚きではないだろうか.
この項のタイトルは「なぜドミソか」であった.最後に到達した図は,管楽器と弦楽器によるここちよく豊かなハーモニーを持つ音楽をつくるには,ドから出発するとミファソラ(短調ではミbファソラ)を含む音律,純正律を使うしかないことを示している.そして12音平均律は,純正律の優秀な近似なのだ.
このページの主題は「非12音平均律」だが,12音以外の平均律を使っても,ここちよいハーモニーを持つ音楽は出来そうもないことを,最初に暗示してしまったように思える.
ただし,いくつか抜け道がある.
1 スペクトルが基本波の整数倍波からできていないような楽器を使う.管楽器・弦楽器のスペクトルは原理的に整数倍波を含む...と言うよりも,西洋音楽では整数倍波を含む楽器以外は淘汰されたと言ってもよい.管楽器・弦楽器でない楽器はあるのだろうか.
答えは旋律打楽器である.ガムランでは旋律打楽器を使い,西洋音律とは無関係な音律を楽しんでいる.
2 ハーモニーなんかやめてしまう.世界的に見てハーモニーを重視しているのは西洋音楽だけだ.いや,西洋音楽の源流であるグレゴリオ聖歌だって単旋律だ.ハーモニーを忘れた代償として得るものもある,音律そのものもあいまいなものになり,演奏は臨機応変な者となる.
3 心地よさを追求するのをやめて,不協和なハーモニーを楽しむ.ジャズ・ロックを含めた現代音楽の歴史は,不協和なハーモニーの追求の歴史みたいな側面もある.
4 音律を最初に決め,この音律がここちよく響くように楽器のスペクトルを決める.項目1と同じことをもっと積極的にやるということ.そんな楽器は物理的にはあり得ないのだが,計算機があればなんでもできる.
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平成14年度財団法人中山隼雄科学技術文化財団の 研究助成費に応募して,50万円の助成金をいただいた.
以下は同好の方と進めてきた研究の途中経過であるこの助成の対象研究分野は 「人間と遊び」という視点に立った、科学・技術・文化に関する研究開発であって,
ちなみに 応募資格は 国内の大学、研究所等非営利の研究機関に所属する研究者または研究者のグループである.
研究課題は「16音音楽の研究」である.応募書類に書いたのは...
現在の音楽は1オクターブ,すなわち2倍ことなるの周波数間隔を,対数的に12分割した「12分割平均律音階」を基本としている.
ここでは12分割ではなく16分割した音階に基づき,実際に楽器をつくり,作曲し,演奏する.
すなわち「2の16乗根」倍の音によって音階を作り,さらにこの中から音を選んでスケール,コードを考え,作曲・演奏してみる…ということである.
以下はコマーシャル.
音楽が生活に占める比重はこの数十年で飛躍的に大きくなっており,われわれの耳も「肥えて」きたはずである.
12を24にしても耳がついて行かないだろうが.16というのは適当かもしれない.
このこころみは音楽芸術のパラダイムを大きく転換する可能性がある.
この方法が普及したあかつきには,ピアノ,ギターなど離散化した音源を提供する楽器は,
この方法の実践のために新たに作らなければならない.また楽譜なども新しいものとならざるを得ない.
これは音楽産業の需要の掘り起こしであり,経済の活性化に繋がるはずである.
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実は純正律の出現は中世で,それ以前の音楽,たとえばグレゴリオ聖歌などはピタゴラス律に基づいている.
オクターブ離れた音では周波数が2倍異なる.
数学的に次に単純な関係にあるふたつの音は,周波数が3倍異なるものだろう.
ドCの3倍の周波数を持つ音はオクターブ上のソGである(実は,結果的にソGになるといったほうが正しい).
さらに,ソGの3倍の周波数を持つ音はオクターブ上のレDである(レDになる).
C-G-D-A...とつないでいくと図のように円を描いて最後にまたドCにもどる.
この円を五度円 circle of fifth という.
ちなみに,オクターブ上ではなくドCのすぐ上のソGは,ドCの1.5倍の周波数を持つ.
このソGとドCの間隔は楽典でいうところの5度である.
ソGとすぐ上のレDの間隔も5度,エトセトラとなるところが五度円の名の由来である.
この円からひとつづきの7音を選び,高い音は2の倍数で割って,7音をすべてオクターブにおしこめ,
並べ替えると
ドレミファ...の長音階ができる(ただし平均律の長音階とは微妙に異なる).
たとえばF,C,G,D,A,E,Bの7音を,Cを一番下にして並べると,ハ長調の長音階(イオニア音階)になる.
ちなみに,Fを一番下にするとリディア音階と呼ばれるものになる.
ただし,このピタゴラス律の長音階は純正律とは一致しない.
厳密には五度円も閉じない.
すなわち出発点のドCと12回周波数を3倍して到達するドCとは少しずれた音になる.
これは2のN乗と3のM乗(N,Mは整数)が一致しないためである.
5度上げることを12回繰り返すと周波数は(1.5の12乗)=129.746倍になるが,
はじめの音を7オクターブ上げると(2の7乗)=128倍となる.
この差をピタゴラスのコンマという.
このピタゴラス音律はドとミを一緒に鳴らしたときにうまく響かない.
これは周波数比が81/64=(9の2乗)/(8の2乗)という,かなり高次の整数比になっているためである.
レからシに至る6音のドに対する整数比をすべて低次なものに統一したのが純正律である.
ドCに対する比率を並べると,
9/8(D),5/4(E),4/3(F),3/2(G),5/3(A),15/8(B),2(オクターブ上のC)
である.ピタゴラス律では隣り合う音の周波数比は二種類であったが,純正律では9/8,10/9,16/15の三種類になる.
このため,純正律ではD-Aの5度だけがとても狭く響きが悪い.
またオルガンやピアノなどの楽器では転調は不可能になる.
これらの点で純正律は実用的音律ではなく,12音平均律に席を譲ることになった.
表には,ドCの周波数を1とした時の,平均律,純正律,ピタゴラス律におけるレDからシBまでの周波数を,
分数ではなく実数で示したものである.
| C | D | E | F | G | A | B | C |
| 平均律 | 1.0000 | 1.1225 | 1.2599 | 1.3348 | 1.4983 | 1.6818 | 1.8877 | 2.0000 |
| 純正律 | 1.0000 | 1.1250 | 1.2500 | 1.3333 | 1.5000 | 1.6667 | 1.8750 | 2.0000 |
| ピタゴラス音律 | 1.0000 | 1.1250 | 1.2656 | 1.3515 | 1.5000 | 1.6875 | 1.8898 | 2.0000 |
このように西洋音律の歴史は協和音の追求が主流であった.
われわれは確かに協和音に惹かれるが,協和という基盤の上で不協和も楽しんでいる.
ガムランが不協和音によるうなりを愛でているように,不協和の取り入れ方は文化により異なる.
このようにわれわれは12音よりもっと微妙な音高で音楽に陰影を施してきたのである.
またこれだけ巷に音楽が氾濫しているのだから,われわれの音に対する感性も多少は進歩したはずである.
そろそろ12以上のデジタル的な尺度が用意されてもよい時期であろう.
...というわけで,ここに記述するのは,協和音にはこだわらず,単に平均律の音数を12より大きくした実験である.
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実験だけではなく,以下の理論計算も行った.
図は「なぜドミソか?」の項で述べた方法で,n音平均律の各構成音それぞれの440Hzの根音に対する不協和度を計算し,グレイスケールで表示したものである.
各タイルが構成音を示し,黒いほど協和度が,白いほど不協和度が高い.
タイル左辺の横座標(対数目盛)が構成音の根音に対する周波数比を示す.
平均律だからタイルが横に等間隔に並ぶ.
縦軸方向には12音から24音までの平均律と,ピタゴラス音律と純正律に対する計算結果を示した.
どの音律でも根音とそのすぐ上の音とは協和しない.
12・17・19・22・24音平均律では縦の白線の右側に黒い部分,すなわち根音と協和する音がある.
2本の白線は根音に対し周波数が4/3,3/2となる音で,長音階ではファ,ソに対応する.
これらは下属音・属音と呼ばれ,調性システムにおいて旋律の休止や転調のために重要である.
民族音楽の音律もほとんど周波数比が4/3,3/2となる音を含んでいる.
ここで用いた評価関数Dは単に音高が近い2音が重なると不快だという感覚に基づいているにすぎない.
2音の周波数比が整数比になることを全く評価の対象としなかったのに,
高調波まで考慮すると,ドとファあるいはソは協和するという,和声学と一致する結果が出たことは興味深い.
協和・不協和は旋律にも影響する.
不協和な2音間の推移は一時的・刺激的であり,協和する2音間の推移は安定感・休止感を与える.
協和・不協和が混在するのが良い音律であるとすれば,
図3で横縞の濃淡のコントラストが大きい音律が良いことになる.
音数が少ないものを採るなら,12音に次いで17音平均律が良い.
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実験では,パソコンにソフトウェアMAX/MSPを搭載し,midi音源と鍵盤をつないだ.
隣接する鍵盤音の周波数比をプログラムで2^1/nとしてn音平均律ができた.

このように作った16音と17音平均律の鍵盤を用い友人達と即興演奏を試みた6).
この演奏のCDを30人ほどの方に聴いていただき,約6割の方から主としてメールで回答をいただいた.
このような音律を受け入れるか否かでは,否定派:是々非々派:肯定派=2:3:4という結果である.
以下これを16音平均律対17音平均律という見地から考察したい7).
17音平均律では17音で図2のようにドからふたつとばしてレ,またふたつとばしてミ,などとしていくと,
長音階らしきものができる.
ただし,たとえばドのシャープとレのフラットは別な音になる8).
またドに対する周波数比3/2=1.5であるべきソが1.503(12音平均律では1.498),
4/3=1.333ノであるべきファが1.330(12音では 1.335)となり,ミとドは協和しない9).
17音平均律の演奏ではジャズ,沖縄音階,ガムラン,グレゴリオ聖歌など,
12音で演奏されることが多い既存の旋律を借用した.
敏感な方には上記周波数のずれが「調律していないピアノで弾いたように」聞こえる.
ただし楽器を演奏する方でも,12音平均律との違いを意識しない方がかなりおられた.
いっぽう図3が示すように,16音平均律の横縞には際だって黒い部分がなく,
どの構成音も互いに不協和である.
われわれもはじめて演奏したときには,この音律は箸にも棒にもかからないと感じた.
是々非々派のほとんどは,17音は是だが16音平均律は「不安感・違和感を持たせる,音痴の音楽」であって
「ホラー映画用以外には」受け入れがたいとしている.
この音律が作る旋律はたしかに喜怒哀楽という感情の外にある.
しかし「不条理という感じだが聞き慣れると心地よい」,
「なんだか牧歌的.3〜4歳くらいの子供のでたらめな歌みたい」という肯定的?な感想もいただいた.
ひとりだけ,16音平均律のほうが17音よりも「聞ける」とされるピアニストがおられた.
16音ではすべてが初めて聞く音なので,ドレミファに近似する必要がなく,
そのまま受け入れられるということであろう.
最も徹底した否定派は「音程を直そうという意識と、
低周波のうなりおよび許しがたい不協和のせい」で気分が悪くなり「後までかなり尾を引いた」方である.
ただし肯定派のなかにも「面白くって全部聴き通してしまった」あとで「なぜかめまいがした」という方がある.
16・17音に共通して肯定的な感想には「おもしろい」が多く,
あとは「ひょうきん」「昂揚感」「滑らかで,ゆったりした感じ」,
「不思議な浮遊感」等曲によってさまざまである.
「12音階とは違うが,音楽として違和感はない」という方がおられる反面,
「どこが新音律かわからない」という方もおられた.
「鍵盤楽器では違和感があるが,弦楽器・管楽器など奏者が音程を調節できる楽器では違和感が少ない」という
複数意見があった.「単旋律向き」とのご意見もいただいた.
以上のように聴き手の反応は千差万別である.
音楽を聴くだけの方は概して肯定的.
否定派はある程度音楽に関わっておられる方々のようだが,逆は成り立たない.
かってのベストセラーの内容から,「絶対音感」の持ち主からは新しい音律は拒否されると思ったが,
今回の回答中にその例はなかった.
17音に「ドトロレテメミファ...」と音名をあてて旋律を歌ったという凄い方もおられた.
もとより演奏も初体験・手探り状態であったが,結果的には音律の構成音から数個を選んで音階を作り,
これに基づいて演奏することになった.
整理が悪く,いくつかの音階が入り交じる結果になると不快感を助長するようだ.
われわれの作品をお聴きになってからご自分で17音をmidiで作曲・演奏された方もおられた.
こうした試みはひとつのグループだけでは袋小路に入りやすい.
複数のグループでコンサートができたら楽しそうだ.
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E-Gの注および参考文献
1)例えば,J. G. Roederer, The Physics and Psychophysics of Music, An Introduction,
Springer-Verlag, New York (1995).
2)純正律ではドとソの周波数比は3/2=1.5だがレとラでは1.481となり協和しない.
12音平均律ではどちらも1.498である.
3)藤枝 守「響きの考古学」音楽之友社(1998).
4)溝邊貴博 卒業論文 広島大学物理科学科 (2004).
5)ダイアナ・ドイチェ,寺西立年・大串健吾・宮崎謙一監訳「音楽の心理学」西村書店 (1987).
6)http://home.hiroshima-u.ac.jp/beam/ogata/NewScale.html CDをご希望の方はeメールでお知らせ下さい.
7)非12音平均律の歴史はhttp://sonic-arts.org/dict/eqtemp.htmに網羅的に記述されている.
17音平均律は17世紀にすでに試みられている.
またヘヴィメタルのギタリスト Steve Vai は1993年の録音で一部16音平均律を用いている.
8) 16-17世紀には半音より狭い「微分音程」が設定された鍵盤楽器も存在した.文献3)参照.
9)ドとミが協和しない,全音が広く半音が狭いなどの点で,17音平均律は純正律ではなくピタゴラス音律に近い.
16音/17音平均律構成音の根音に対する周波数比
| 0 | i | ii | iii | iv | v | vi | vii | viii | ix | x | xi | xii | xiii | xiv | xv | xvi |
| 16音平均律 | 1.000 | 1.044 | 1.090 | 1.138 | 1.189 | 1.241 |
1.296 | 1.354 | 1.414 | 1.476 | 1.542 | 1.610 | 1.681 | 1.756 |
1.834 | 1.915 | 2.000 |
| 0 | i | ii | iii | iv | v | vi |
vii | viii | ix | x | xi | xii | xiii | xiv | xv | xvi | xvii |
| C | C# | Dd | D | D# | Eb | E |
F | F# | Gb | G | G# | Ab | A | A# | Bb | B | C |
| 17音平均律 | 1.000 | 1.041 | 1.084 | 1.130 | 1.177 | 1.226 |
1.277 | 1.330 | 1.385 | 1.443 | 1.503 | 1.565 | 1.631 | 1.699 |
1.769 | 1.843 | 1.920 | 2.000 |
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楽譜 其の壱
Mac OSX で動作しそうなシーケンサーのソフトを探したら,Intuem のお試し版というのがあった.
使い方が間違っているらしく,midi のキーボードから演奏すると,16音平均律の音はするのだが,再生ができない.正確にいうと,12音平均律「全全半全全全半音階」のキーボードを押したときの音が再生される.
五線譜にも残る.
楽譜に限っていえば,こりゃ案外いいんじゃないかと思うようになった.このシーケンサ製の楽譜をみて,その通りにmidiキーボードを演奏すれば,作曲した16音平均律の音楽が再現できる.midi規格の楽器ならギターでもサックスでもおなじことである.
難点は1)記録できる音域が12音平均律のときの3/4に減ってしまうこと,
2)楽譜を読み慣れているひとは,思ったのと違う音が出て混乱すること.
3)鍵盤の位置の周期がオクターブと一致しない(じつはこれが一番困る).
でもわざわざ考えた楽譜を使うよりは現実的かも.
鍵盤 其の弐
17音平均律用に図の鍵盤を考えている.
「移動ド」流で説明する.この鍵盤は17音で長音階が演奏しやすいように設計したもので,
キーがCであればふつうに演奏すればよい.
ただし黒鍵がふたつに分かれていて,CとDの間にはC#とDbがある.
キーを5度下げて(周波数を全体に2/3に下げて…と言うべきだが)Fとするときは図2上のようになる.
音階に入るのはAB間のふたつの中間音のうち低い方である.
これに対し周波数を全体に3/2倍に上げてキーをGとすると下のようになり,
音階に入るのはFG間のふたつの中間音のうち高い方である.
フラット系では低い方の中間音を採り,シャープ系では高い方を採るという原則である.
図の鍵盤はあまりに12音平均律用の鍵盤に追随的で,
新音階独自の音楽をつくるのには妨げとなるかもしれない.
しかし一方では,現在音楽をやっている方々にこの音階を試みていただくためには,
現在の鍵盤とくらべて違和感が小さいことが肝要であろう.
またあまたの前衛音楽が12音平均律用の鍵盤から生まれていることを考えると,
図2の鍵盤は悪くないと思うのだが…
楽譜 其の参
この鍵盤を用いる17音平均律では,例えばC#とDbが別な音程をあらわすことを前提とすれば,
現在の五線譜をそのまま用いることができる.
図2から類推されるように,FをキーとするときにはAに#を付けた音が音階に入る.
ただしナチュラルのAもやはり音階の一員にとどまる.
いっぽうBbは音階には入らない.同様にGをキーとするときにはGにbを付けた音がGとは別に音階に入る.
#とbの使い方が混乱を招くようなら,##(1/3音を2回あげる)とかbb(1/3音を2回下げる)とかを使うことにしよう.
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