外伝後



教会の一室。
『シスター・リリーナ』にあてがわれた部屋。

修道女が睡眠をとるためだけの質素な寝室には、勿論ベッドは一つしかなく。
転がり込んで、やむを得ず、成り行きの同衾。


傍らに横たわるデュオの存在などないかのように、ヒイロは義務的に眠っている。
眠るというより、心身の疲労を回復させる為に、休息を取っている。

そんな彼の隣で、デュオは眠れずに居た。
心身は疲れていて、休息の必要は十分に分かっている。
休める時に休んでおく事が重要な事は分かっている。
それでも、眠りの淵に意識を追い込むことが出来ないで居た。

アディの死に様にショックを受けているのは事実だ。
でも、それだけで体を休める事が出来ないのではない。

今、彼を苛んでいるのは別の感覚。

『ゼロの後遺症』、と言えない事はない。

彼女の駆る、《レミング》との闘いでデュオに齎された未知の感覚。
それが彼を眠る事から遠ざけていた。

体を折り曲げて、抱え込む様にしながら震える息を吐き出す。
無いはずの器官。
無いはずの痛み。
『感覚』だけが、彼の中に存在して、彼を苛む。

気休めに寝返りを打って、後ろ向きのヒイロの背を見る。
壁を見詰めているよりは、気が紛れるかも知れない。

黙って、苦しい呼吸を繰り返しながら、ヒイロを見詰める。
自分がこうして苦しんで、眠れずに居る事を知りながら、構わず休んでいる。
当然といえば、当然だが、いっそ、憎らしい位に見えてくる。
苦しんでいるらしい事は分かっても、どんな苦しみかはヒイロには分からないだろう。
自分にも、今までは知り得なかったし、本来ならば一生知り得なかった感覚。

「…なあ、ヒイロ……。」
転がったままの姿勢で、その背中に呼びかける。
無視されるかもしれない、と思いながら。

呼びかけた瞬間に、彼の髪が少しだけ動いて、反応してくれた事を知る。
「手…温かいか?」
凡そ、自分が想像していた範囲から大きく逸脱した問いかけに、ヒイロは振り返る。
困惑というよりは、微かに疑う様な呆れた様な色の目をして。


何を言っている?


無言で問いただす。

苦笑いを浮かべながら、デュオは返す。
「腹…痛くてさあ…。あっためたら良くなりそうなんだわ…」
自身の体を抱え込んでいた手を解き、ヒイロの手に触れる。
恐ろしく、冷たい手。
デュオ自身の顔色も悪い。

   ゼロの後遺症。

ヒイロはそう判断した。
ゼロシステムに反して戦闘を拒否し、デュオは肉体を蝕まれた。
そして、彼はその精神的な不快感から、体調不良を起しているのだろうと推察する。

ヒイロがそう考えを巡らせる間に、デュオが彼の手を導く。
不快な感覚を発生させている場所に。

ホッ。

ヒイロの体温が触れて、安堵の息を漏らす。
しかし、触れさせられた方は意味が分からない。
何故、彼がそこに自分の手を据えたのか。

「何の真似だ?」

それでも、手を引こうとはせず問う。
実際、これでデュオの呼吸が少し落ち着いたのは事実だ。

「さっきの闘いでよぅ、既視感ての…?あれでさあ…」
一度口をつぐむ。
少し言い辛そうに、苦笑いを浮かべてまた口を開く。

「俺ってば、女の子な感じな訳よ…」
言い終えて、分かる?と目で聞いて来る。

温かいかと問われ、下腹部に手を導かれ、その熱に安堵される。
演技でない事は、実際に安定した気配で分かる。
分かるが、言っている意味が理解し切れない。

「お前は男だろう?」

真面目そのものの顔で、当然の事を告げる。
“女の子な感じ”と言われて、心当たりが無い訳でもないが、『彼』には当てはまらない。

発言の意図が読めない。

苦しんでいるらしい事は理解出来るのだが。
発言と事実との関連を理解しかねる。

「だから、《レミング》と《ゼロ》のシステムでやられたんだって…」
再び痛みが来たのか、顔を歪ませながら無理に笑顔を見せる。

「……辛い…。」
ヒイロと顔を合わせる為、上げて居るのも苦しいのか、すぐにうつむいてしまいながら呟く。


実体が無いから、と。


例えば、傷の痛みならもっと酷くても平気なのだろう。
慣れもあるし、実体もある。

でも、この痛みは、不慣れな初めての痛みである上、実体が無い。
何処をどう堪えて良いのやら、見当もつかない。
何となく、温めてみて少しは楽になったものの、根本的な解決にはなっていないような気がする。

残念ながら、ゼロシステムの影響も少なからずあるのかもしれない。
だからこそ、より一層の体調不良。
体が冷たくなっていく。
余計に、ありもしない下腹部への痛みが増す感じ。

更に、対処方法も思い浮かばない。

ヒイロはいつまでこうやって手を貸していてくれるだろう。
いぶかしむ様な目線から逃れる為、また蹲っては見たけれど。

はあ。

短く、それで居て結構深い溜息。
同時に、腹に当てていた手が引き抜かれる。

時間の問題とは思っていたけれど、離れていく温もりが恨めしい。
別に、悪戯でやってるんじゃなくて、本当に具合が悪い(気分な)のだから、手位貸しておいてくれても良いのに。

遺恨の眼差しは、ヒイロに向けられる前に体ごと裏返される。

目の前は、壁。

苦し紛れに目を背けたのに。

はあ。

情けない溜息。


無言で裏返すか?普通。


心配してくれとまでは言わないけれど、これは余りにも冷たい仕打ちじゃないのか?

文句を言う気力も無く、その儘、また丸くなろうとしたデュオの体を後ろから抱きかかえる。
服の隙間から両手を差し込み、腹を温める様に。

突然直に触れた手の感覚に、一瞬は身を竦ませたデュオがゆっくりと体の力を抜く。

腹に当たる手と、背中から伝わるヒイロの体温。
「あったけぇ…」
うっとりと漏らす呟き。
安心し切ったように目を閉じて、彼の熱に身を委ねる。

背後から抱き込まれた儘の姿勢で、自然に首筋に呼吸を感じる。
少し、首を反らして、更に身近に捕らえる彼の息遣い。

ただ、ここちよい。

そのまま、首を傾けて合った顔に唇を寄せる。
拒まれる事無く、重ね合わされるそれ。
ただ、流れる静寂がまた心地良くて。

意識の隅から存在を忘れた頃に、すっと、ヒイロの手が腹を滑る。
当然の様に、服の間から差し込まれ、直に肌に触れていた手。
何の警戒も無く。

意識した時には、時既に遅し。

ヒイロの指に絡め取られた自身。

「実際の痛みではないのだろう?」
耳に落とし込まれる低い声。
「注意を逸らせばなくなるはずだ」
言葉と共に、吹きかけられる熱い吐息。

背筋を駆け上がる感覚に身を震わせる。

もう、逃げられない。

痛みは、別の感覚に摩り替えられるのだろう。
ヒイロによって。




外伝を読んでみて、『シスター・リリーナ』よりも他の所に異常な(自分で言ってら)萌えを感じてみたらしい。

んで、とりあえず。
やってみた。文字通り。
まずは、リハビリ。
てか、まだタイトル思い浮かばない…。
そして仔馬はまだ生まれない。
真面目に張り込んでるんか!?私。
ちゃんと(?)モニター見てるってば。

それ以前に、外伝見てないと分からないテーマで書いたな、俺様(偉そう)。
デュオ君、生理痛に自他共に苛まれる。
…萌えた…平気か、自分(哀)。
040130


そして今更アップ(爆)。
仔馬が生まれたのはこの翌晩。
040215





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