fake flower




「…プリベンターって誓約書要るのかよ…」

各自良く読んで、名前を書きましょう。と渡された紙を前にぼやく。

「当然だ。殉職の可能性もないではないしな。」
一瞬だけ顔を上げて、表情すらかえずに言い放ち、またすぐに自らの手元の書類に目線を落とす。
これから、この紙に署名して、自分達の『怖い上司』になる女性。レディ・アン。

「いいから、早く書け。デュオ・マックスウェル。」
今度は顔は勿論、目線すら上げないままで言い募る。

良く読む意味無いじゃん。
自由意志とか関係なく、強制署名、強制参加な訳ね。

ぶつぶつ言いながら、手の中のペンをくるくる回す。

しかし、実の所、ペンは回されているだけであって、本来の用途には未だ使用されていない。

ヒイロは既に読み終え、署名も終え、レディが読んでいるのと同じ、『次の書類』を読んでいる。
恐らく、いや、間違いなく、今度の任務内容が詳細に記された書類。

トロワも、既に署名を終えたらしく、手の中に紙とペンはない。
黙って、出されたコーヒーを飲んでいる。

カトルは、丁寧に文面を追っているらしい。

五飛は、既にプリベンターとして活動しているから、今更誓約書でもないらしい。
茶を啜りながら、同じく任務の書類をめくっている。

皆が集まるなら!と、喜んで参加したらしいサリィ・ポォは、五飛の後ろから任務書類を覗いているようだ。
わざとらしいほどに、『不快だ』との表情を浮かべてみせる彼が妙に可愛らしい。

とどのつまり、デュオだけが誓約書にちゃんと目も通していなければ、署名もしていない状態。








「これさあ。書いてないけど、性別詐称って問題?」






長い目の沈黙をとった後で。



暢気そうなデュオの声。

全員の動きが止まる。

「誰のだ…?」
怪訝さ全開で、眉間に深く皺を寄せて、レディが書類から顔を上げて、デュオを睨み付ける。

「お・れ♪」
自らの顔を指差して、満面の笑みを浮かべながら。






にこにこしている本人だけを取り残した形で、そこにいる全員の視線がデュオに向けられる。
言葉もなく。

通常、こういった場合に何かしらの発言をするのは自分だから、この場合、当事者になってしまった自分を除いている為誰からも言葉はない。

苦痛な沈黙。

「あれ?」
目をぱちくりさせて、結局その沈黙を破るのは自分。
カトルはペンを落としたらしい。
「何?知らなかった…りした…?」
あはは、とちょっと乾いた笑いを浮かべて続ける。

皆の視線が痛い…。

特に、レディとヒイロ。
ある意味カトルも怖いけど。

「そういう冗談はやめろ!」
力一杯怒気を含んだ声で怒鳴られる。
五飛には、耐えられないネタらしい。
手にしていた書類を握り潰してしまっている。

「冗談じゃね〜ってば。ホラ。」

一瞬、大声に怯んだものの、すぐに笑顔を見せるデュオ。
その笑顔に危険を察知した五飛が体を引く前に近付き、その手を取る。

そのまま有無を言わさず自分の胸に押し当てた。

「っ〜〜〜〜〜〜!!!」

脳内出血で倒れるんじゃないか、と言う位、五飛が錯乱ぷりを披露した事で、その場にいた全員が事の真相を知る。



「あら〜。ヤダ、そうだったのね。あたしも触らせて♪」
誰よりも早く、意識を取り戻したのは元・軍医。
年の功なんて、言ってはいけないから、持って生まれたポジティブな性格の賜物だろう。
「あら、随分大きいのね。」
つくづくと眺めながら、品定めでもする様にデュオの胸を触るサリィは至って楽し気だ。
「だろ〜。やっぱ血統的なもんかな〜。アメリカ系だろ?俺ってば。」
サリィもだし、とにっこり笑って付け加える。
この場合、セクハラにはならないから安心して言える事。

「でも言われるまで気付かなかったわ。何でかしら・・・?」
ふと、真面目な顔に戻って、彼女は考え込む。
パートナーは、激しく現実逃避してしまっているらしい。
一心不乱に書類を読もうとしている。
努力が実っているかどうかは、別として。
もう話し掛けても返事はしたくないと言う事だろう。

「錯覚と思い込みだろうな。」

ぼそっと、トロワが口を挟む。
危うく存在を忘れそうになった所で。

「今日のデュオの服装は、大き目で体のラインは分からないし、仮に何か違和感を感じても、自分達の脳が無意識にそれを排除してしまったのだろうな…。」
まるで自分に言い聞かせるように。

「ええ!?でも、じゃあ今までは!?今まではどうしてなんですか!?」
泣き叫ぶ様に言い放ち、カトルは机に手を突いて立ち上がる。

「だって、隠してたもん。」
その熱さを軽く往なす様に、さらりと答える。

「戦争中は、さすがに…なあ。『女の子で〜す』じゃ、都合悪いし。」
黙っててごめんな、と付け加えて。

覗き込むような目線で、伺うように見上げられてカトルは息を呑む。
そのつもりでよくよく見てみれば、確かに、数年合っていないだけで、印象が余りにも違う。

がさつな今までのデュオ・マックスウェルを演じてはいるけれど、何かが違う。
それは恐らく、『隠す』為に用いられていた薬の作用がなくなった所為。
本来の、自然な体から出る行動だから。

言葉を失ったまま、ただ変わったデュオを見詰める。
今まで自分達が知っていたのとは違う、『本来のデュオ』。

言われて見れば、女の子にしか見えない。

今までは、自分達は『デュオ・マックスウェルは男』と信じて疑いもしなかったのに。

フッと目を細め、何かに思い至った様に、一瞬哀しそうな目をしたカトルにデュオは慌てて備考を加える。
「や、別に苦労とかはしてないぜ。」

それでも、泣き出しそうなウィナー家の若き当主に、苦笑する。
「大丈夫だって。お前等のお陰で別段苦労もなく過ごさせて貰ったんだからサ♪」

そこで、ようやく、カトルは微笑んだ。



「分かった、もういい。性別は問わんから早く署名しろ。」

その柔らかな空気をぶち破ったのは、レディ・アン、プリベンター総帥。
突如湧き出した偏頭痛を堪えながら。

「お前達ならそういう事もあるのだろう。」

自分自身を納得させる様に断言する。
そのまま、皆の視線が彼女に向いている内に、書類に示された任務の話を切り出す。
これが本題なのだ。
誓約書は、この為の前フリに過ぎないのに。







そんな混乱の中、ヒイロはただ黙ってそれらの様子を見ていた。








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