| おやすみ ヒイロが、地球でデュオとの暮らし始めて半年。 デュオが本業にしていたジャンク屋の職を諦め、『手伝い』にしていた仕事を本業にする為、地球に下りて半年。 お互い、他に身寄りもないし、所在を同じ場所にしておいた方が連絡が取り易そうだから、とか。 そんな些細な理由を大儀に始めた共同生活。 世界は、表面上平和で、戦争の残渣等見えないのに、その裏側で歴史の残務処理に終われる日々を送っていた。 自身達の事は、立ち止まる事も、振り返る事も、先を考える事もせずに、ただ、流れていく時間を生きる為に生活を送って来た。 共にプリベンターに籍を置き、個々として任務に当たる。 一緒に暮らして居るとは言っても、『帰る部屋が同じ』でしかない。 二人で暮らすはずだった部屋に、二人が揃っている事が余りにも少なかった。 片方が部屋を空けている事も暫し。 双方が部屋に在っても、前後の任務の為に休息を余儀なくされている事もまた…。 擦れ違いに擦れ違いを重ねた、奇妙な同居生活。 それでも、擦れ違いながらも、同じ室内に、微かに感じるお互いの気配に安堵していた。 『そこに人が居た痕跡』と『ここに人が帰ってくる証拠』。 この事が、寄る辺無い心に大きな安心を与えていたのは確かな事実。 ドア越しに聞こえる微かな寝息は、お互いの心を癒すのには十分で。 初めは物足りなく、物寂しくも感じた、こんな生活も思うほど悪くはないのかも知れないと、納得し始めた頃、突然にレディからの休暇の話。 許可とか、勧めるとか、そんな生半可なものではなくむしろ『強制』。 「何?過労死の労災認定訴訟でもやってんの?」 と、デュオなど軽口を叩いてしまった程。 下手をすれば謹慎処分とでも取れてしまいそうな、強引に与えられた有給休暇。 しかも、二人揃って。 二人で一緒に居られるとか、そんな事よりもまず、現実問題として体も精神も結構きつかったのは認めざるを得ない。 幾ら元GPとは言え、生身の人間なのだから。 戦争も終わった今、そこまでして自分を苛め抜いて生きていく必要はないと誰もが思っていた。 恐らく、彼ら自身以外は。 彼らは気付いていない。 自分達が以下に傷付き、心身共に疲れ果てているのかを。 だからこその、強制休暇。 折角地球に居るのだし、与えられた休暇を有意義に過ごそうと、部屋を出る。 旅行と言うと大袈裟になるから、ただふらりと。 心の向く儘に、日常から離脱する。 何かの際に、耳にし、どちらともなく気になっていた、太古の面影を残す森。 生い茂る木々、苔生す大地、澄んだせせらぎ。 コロニーには在り得ない咽返る様な水を含んだ空気。 「すっげー!」 伸び上がる様に森の奥を見詰め、デュオが感嘆の叫びを上げる。 「何か得体の知れないものとか、棲んでそうだよな♪」 わくわくした様子を隠し切れないで言葉を繋ぐ。 尚も辺りを見回すような仕草を続けるデュオの傍らで、ヒイロは静かに苔に覆われた古木に視線を向ける。 手を触れて、感じる植物の息遣い。 遥か昔からずっと繰り返され続いて来たのだろう。 朽ちて尚、この森の一部として。 恐らくは、これが平和。 人の介在を拒み、森は平和を紡いで来た。 では、自分達は? 自分は? 「ヒイロぉ〜。折角なんだから、暗いのはナシだぜ。大自然を満喫してリフレッシュしようぜ。」 木の幹に当てた手を外し、それをじっと見詰めるヒイロにデュオの声が飛ぶ。 あからさまに沈んでいく、ヒイロの周りの空気を読んでの言葉。 いつの間にか、森へ向けられていた大きな目は隣に立つ黒髪の人物に向けられ、顔には、呆れた様な、宥める様な、微量の笑み。 この笑顔に癒される。 例え本人が辛い時でも、彼は無理に笑うから。 笑顔が人を癒す事を知っているから。 癒しは救いになる。 壊れ、堕ちていく心を救ってくれる。 自らの掌から視線を上げ、少し心配そうに覗き込む青い目を見詰める。 微かな苦笑と共に。 その微笑に驚いたのは寧ろデュオ。 大きな目を更に大きく、丸くする。 そんな彼のふくよかな頬に、ヒイロは今し方森の息吹を感じていた手を添える。 掌に感じるデュオの熱、息遣い。 これもまた、平和。 安らぎを与えるもの。 「お前は小動物の様だな。」 突然にヒイロの口を突いて出た言葉に、デュオは首を傾げる。 頬に当てられた手に少し重みを掛けて、説明を求める。 「犬とか猫とか、そういった物だ。」 言いながら、動物にする様にくしゃくしゃっとデュオの髪を撫でる。 顔はいつもの仏頂面で、もう笑みは消えているけれど、乱暴なやり方ではなくて。 「犬猫ぉ〜?」 ますます訳が分からないと言った様子で、デュオは大袈裟に表情を崩す。 「人を癒すのだろう?」 ふいっと体の向きを変えて、目線をデュオから外しながらヒイロが呟く。 自分から目を逸らし、森を見詰めるヒイロ。 その後姿を見詰めながら、少し考えてデュオは口を開く。 「それってコンパニオン・アニマルって事?」 「ああ。」 返事をしながら、今度はヒイロが少し考える。 「JAP地区の言葉で言うなら『伴侶動物』だな。」 と、目元だけ、薄く微笑みながら振り返って。 「ふ、ふう〜ん……『伴侶』、か……。」 曖昧に返事をしながら、またデュオは考える。 考えながら、ヒイロに向けていた目線を大きく上に回して。 「それって…プロポーズ?」 悪戯っぽい笑顔に乗せて問いかける。 今度はヒイロが目を丸くして言葉を詰まらせる。 微弱な表情の変化ではあるけれど、デュオが分かってしまうには十分で。 もう一度失笑しながら、ヒイロは再びデュオに向き直る。 「…ああ。そうだな。」 言いながら、彼の長い三つ編みを引く。 「だから、側に居ろ、デュオ。」 バランスを崩した彼が、何かしらの返事を返す前に、いつも多くの言葉を紡ぎ出す口は塞がれてしまう。 ヒイロのそれによって。 静かに、ただ唇を重ねる。 深い緑の匂い、微かなせせらぎの音。 それは、儀式の様に。 やがて、どちらからともなく離れて、ゆっくりと目を開く。 合わせた眼差しに、デュオはふんわりと微笑む。 「大丈夫。俺は『ここ』に居るぜ。」 そのまま柔らかく抱き寄せてくるヒイロに続ける。 「俺達、幸せになろうな、ヒイロ?」 ゆったりと、軽やかに目を閉じて。 「ああ。」 微かに彼の返事が聞こえた様な気がした。 お互い五感を遠くに感じながら、静かに意識を手放す。 森に、平和に、愛しい人に包まれながら。 「おやすみ」 呟いて。 滑らかな安息の淵へ。 fin 野宿かよ。 でも、こいつ等なら死なない死なない。 私はキャンプとか連れてかれると、大自然の中で昼寝しようとしてたので…。 虫刺されさえ気を付けてれば清々しいお昼寝が出来ます。 というか、当初の予定と違う話になってしまいました。 もっと「おやすみ」に即した内容だったはずなのに…。 『伴侶動物』が思い浮かんだ時点で脱線してしまいました。 先にタイトルつけちゃったから、変えるに変えられなくて無理矢理「おやすみ」方向へ持っていってしまいました。 心中っぽくも見て取れるなあ…違うんだけど…。 精進、精進…、と。 これも、一発目なので綺麗目に仕上げてみました。 夢見がち。 タイトルはLindbergより。 031022 |