悪戯心

















日中、開発層で新作の兵器に夢中になっていたツケは必然的にその後に纏めてやって来る。
当たり前と言えば当たり前の事で、そんな事は言うまでもなく理解している筈だ。


「マイルズ、飽きた。」
深夜の執務室に、じわりと滲み込む珍しくも情けない少将の声。

「飽きないで下さい。」
貴女の署名が必要な、明日発送の書類があるのですから。
普段なら溜息の一つも交えて返事を返すのだが、今日に限ってはそれはない。
今の気配であれば、隙を見せたら逃げられてしまう。
これらの書類は別段明日発送でなくても、構わないのだろうと押し切られてしまう。
実際、自分の目で見てもそう思うのだから。

それでも、これを明日に回したらきっと彼女は明日軽い自己嫌悪になるだろう。
今は疲れて集中力が切れているだけであって、責任を放棄している訳でないのだから。


「少し休憩を…。」
一向に進まないペンを置こうとして、置かないその仕草。
自分でも集中力の欠如を分かっているのだろう。

「再開出来ますか?」
酷な様だが、途切れかけの集中力をこの時間から再起動させるのは難しい。
容赦のない返答の意味を心得たらしい彼女は、盛大な溜息を一つつき、無気力な集中力に鞭打って面白みのないであろう書類と睨みあいを再開した。


頃合を見計らって、その手元に薄いコーヒーを置く。
ミルクも、砂糖も入れていない、薄味の液体。
負担の少ない濃さで、叱咤激励の意味を込めて。


置かれたカップに気付いた彼女は顔だけ動かしてそれを見止め、無感情に口に運んだ。
そしてカップを持ったまま暫し硬直する。

まばたきをゆっくり一回。

この意図に気付いた様だ。


口元だけで薄く笑い、いつもの厳しい口調で指示を放り投げて来た。
「マイルズ、この部分の資料をくれ、確認したい。ここに持って来てあるある筈だ。」


無言で頷いて、即座に求められた資料を探し出し、書類に該当頁を開いて添える。
急に本気になった上官の処理速度は通常時と代わらぬ快速。
最初からこのペースで取り掛かっていれば、そもそもこんな時間にはならなかったのに…。

そのスピードの緩急に苦笑いを噛み殺す。


最後の書類を封筒に収めるのを見届け、彼女は、当て付けるが如く目一杯に伸びをする。
一気にすっかり寛いでしまった少将の姿は、執務室に似つかわしくない。
私室にいる時の様な甘く緩い表情。

ふと、確信もあてもない悪戯心が起きる。





伸びきった彼女を尻目に簡単に片付けを済ませ、退室の支度をする。
いざドアを開けようとした所で、不意に腕を捕まれた。




触れる程度かと思い受けたそれは意外に深いもので、そのふくよかな唇を強く押し当てられた感触が、深夜の意識を一瞬奪う。

無意識に応えた口付けに鳴らされた鼻に煽られ、ここが執務室である事を忘れ、彼女の体を強く抱き寄せ軍服の上からその豊かな胸を弄った。

いよいよ歯止めが利かなくなる寸前で離された唇を、名残惜しげに離れ際再度ついばむ。

「珍しいな。」
余裕めかしてふっと笑うその仕草に、先刻湧いた悪戯心が再度ふつふつと沸き起こる。

「部屋に戻りましょう。」
言いながら腰を抱き寄せる振りをして、上着の裾から手を忍ばせ、そのまま手早く下着の留め金を外す。

びくりと体を強張らせ、驚愕と非難を乗せた眼差しを向ける彼女に余裕の笑みを返し、再度繰り返す。

「帰りましょう。」

声を落として、耳元に囁きながら。






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浮かんでくるマイオリSSは、ほぼ全てが裏と表の境界線上にあると気付いた自分。
だからこそ、なかなか形に出来なかったんだよ!とほざいてみます。

マイルズ氏のプチ意地悪に、オリヴィエ様がちょっとびっくりしたら可愛いぞ、と思いました。














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