雨の東方司令部







「どうーしたんスか。そんな…素晴らしカッコして…。」

司令室のドアを開けて、、むさくるしい部屋の空気でも吸い込もうかと煙草を口から離した俺の目に飛び込んできた中尉の後姿。

「フュリー曹長と外回りに出たら雨に降られちゃって…。あれじゃまるでスコールだわ。」

今日に限って着替えはこれしかないし…、と。
軽く自分の姿を見回す様な仕草をして、肩を竦める。


「大佐、雨に加えて益々仕事進まないっスよ。」

そんな彼女の姿は余りにも素晴らしい。
大佐でなくとも仕事は手に付かない。
ああ、付きませんとも。

「や、フツーにそのカッコは……。中尉を襲う様な度胸のあるヤツはココにはいないっスけど…誰も消し炭にも蜂の巣にもなりたかないっスからね。でも、や…ちょっと…目の保養を通り越えて毒っスよ。」

目を反らしながらの俺の言葉に不思議そうに首を傾げる。
ああ、また、そんな仕草が悩ましくてイイっスね〜。
視界の隅で楽しんじまいますよ。



「あ。中尉、大丈夫でしたか?本当に凄い雨でしたよね〜。」

小動物みたいな笑顔をタオルで拭いながらフュリー曹長がドアを開けて入ってくる。
普段なら邪魔すんな、と言ってやりたい所だが、今日は別だ。
気を逸らしてくれてドウモアリガトウって所か。

そのままタオルで腕の中の書類を軽く押さえている。
どうやら自分の頭から水滴が飛んだらしい。
相当濡れたな、こいつも。

さっき見た窓の外は音も聞こえないような土砂降り。
なるほどと納得しながらも中尉の格好には納得出来ない。



濡れて乾かす為に下ろした綺麗な金色の髪。
たまたま今日に限って着替えで持参していたと言う白シャツ。
これもやむなく着替え用に置いていたと言うスカート。

これだけでも十分、いや、十二分に素晴らしいです。
これだけなら目の保養には十分です。

でも何より、問題なのは…素晴らしーのは…
下着が黒でばっちり透けてますって事ではないでしょうか。

素晴らしいです。
素敵です。
イヤらし過ぎます、中尉。
でも指摘したら撃たれるな…。
でも、これは目が離せない…釘付けっスよ。

…皆チラチラと見てるし…何で気付かないんだろうか、このヒトは…。


「あ〜!じゃ、こうしましょう。」

むらむらとイケナイ妄想が膨らむ前に、この格好をやめて戴くのが一番無難だろう!
目を閉じて、天井を仰ぐ振りをしながら。
中尉を司令室から連れ出す事に成功する。

室内からため息が聞こえてきそう。
このヒトは何であの視線に気付かないんスかね?
皆の飢えた狼さんのようないやらしー視線がその豊満な胸に向けられてるってのに…。
その髪の掛かり具合がまたいいんスよ。
微妙に見えそうで見えないような…そんな長さなんスよ。
そのサラサラなのもいいんですよ、動きが!!








散々逃げ回った大佐が、ようやく執務室に戻って来て目にしたもの。

オレの黒いTシャツを着てスカートで書類を繰るリザ・ホークアイ中尉。

眉間に皺がよったのが部屋中の誰でも分かる。
子供ですか、アンタは。
誰にでもそんな読み易い感情でいいんスか!?


…って隠してないだけッスか?その殺気…。

「どうしたんだね、中尉。珍しい格好をしている様だが?」

本人は一応にこやかに聞いているつもりらしいが、作り笑顔が引きつっているのがピリピリと伝わってくる。
顔は中尉に向けてはいるが、明らかに向けた殺気は俺行き。
痛いっスよ。

「大佐の代理で出た外回りでこの雨に降られたんです。ねえ、フュリー曹長?大変だったわよね。」
大佐のそんな気配を全て無視して、中尉は涼しい顔をフュリーに向ける。

さすがと言うべきこの態度。
ええまあ、見習う事は出来ないんですけどね…。

「あ?え?はいっ。」

ガシャガシャとタイプを打っていた彼は、少し遅れて反応し、瞬間的に八つ当たりの矛先を変えた大佐の殺気をサラリとかわした。
お前もさすがだよ…。なんて羨ましいヤツ…。


「それで何で…。」

更なる質問、いや、こちらが本題だろう質問を大佐が口にするのに被せる様に書類の束が突き出される。
「大佐がご不在の間にも未処理の書類は溜まってるんですよ。はい、どうぞ。」
問答無用の雰囲気で押し付けられたそれを強制的に受け取らされ、すごすごと引き下がる大佐。
…情けないっスよ。


ブツブツと小声で文句を言ってはいるようだが、全部綺麗に無視されている。
まあ、サボってたアンタが悪いんスよ。
中尉もさっきはあんなに怒ってる風でもなかったんスけどね。
でも、俺は助かりました。
頑張って仕事しちゃって下さい、大佐。
その間に俺はサクサク仕事を終らせて定時退社します。







*     *     *






結局、ぶつくさと文句を言いながらロイが仕事を終えたのはすっかり夜で。
そのまま付き合いで残業してくれていたリザの家に転がり込む。



当たり前に寛ぐ彼の眼前で、干されていく洗濯物に目が留まる。
昼間に彼女が来ていた黒い男物のTシャツ。
勿論彼女のものではないし、自分のものでもない。

そもそも今日の不機嫌不調の原因とも言うべき物。



「なんだね、この見るからに煙草くさそうなTシャツは?」

露骨に嫌そうな顔をして、干したばかりの洗濯物を引っ張る29歳の男。
我が物顔で寝転がっていたソファからわざわざ起き出して来て。

「ハボック少尉のです、雨に濡れたので着替えに借りたんです。」

ため息を堪えて、そんな仕草は綺麗サッパリ無視する。

「自分のがあるだろう?予備がなかったのか?なら私に言えばよいものを…」

「…大佐がちゃんといらしてればこんな事にはなってなかったはずですが。」

「……。」

「シャツをお借りしようにも大佐はいらっしゃいませんでしたし、そもそも大佐の代理で外回りをする事もなかったですし…。」

明らかに沈み始めたロイを無視したまま畳み掛け、言葉の最後にしっかりと目を合わせてくる。


「雨の日はだな…」

まっすぐ見詰められると詰問されているようで。

苦しい言い訳は当然、冒頭から一刀両断される。

「普段は働いてるような言い方はやめて下さい。」

更にもう一睨みされて動けなくなる。


「……スミマセン……。」


言い返す言葉もなく立ち尽くす。
夜も小雨が残って憂鬱なまま。



短い睨みの後、洗濯物を干し終えて、固まったままのロイの横を通り過ぎる。



通り過ぎ様、少し早口に。

囁かれる甘い言葉。

「次はちゃんと貸してくださいね、大佐のシャツ。」
どうせ誰が着ても洗うのは私ですけど、と付け加えて。





残ったのは満足気な笑みの男。


ため息混じりに柔らかい苦笑いの女。


呆れた様に眠る黒犬。







今東方司令部的内容か!?
ま、いいんです。
ときのの書くものにこだわりはないのです。
書きたい時に書きたい物を書く!!
白シャツに黒下着はエロくていいよね〜とか思って書き出した割りに、何かただの甘々になってしまいました。


041017

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