上官命令 「軍の制服にワンピースを導入すべきかな?」 机に肘を付いて指を組み、その上に顎を乗せて。 眉間には、軽く、皺。 「そうですね。そうしていただけると助かります。」 提出期限の迫った書類を届けに行った執務室で、机の前に立ち、いざ渡そうと構えた所での問答。 「それよりも…いい加減、休職する気にはならんのかね?」 むう、と不服そうな顔をして。 更に磨きのかかる童顔。 その表情が、黒髪が、子供の様な印象を強くする。 只、見た目だけの話だけれど。 中身は全く持って、そんなものではないのだから。 「お言葉ですが、大佐。この書類の山に自発的に取り組んで下さるのなら、一日も早くそうさせて戴きたいです。」 本当に、子供ではないのだから、きちんと仕事をこなして欲しいと願うのは部下の常。 やれば出来るのだと思えば尚更。 やろうとしない事こそが、大問題。 「………しかしだね、中尉。もう大分目立って来ていると思うのだよ。」 組んだ指を解き、書類を抱えたままのホークアイの腹の辺りを指差して。 「…その…なんだ……。」 らしくなく、いや、らしいというべきか。 都合の悪い時に良くする様に、言葉を濁す。 「分かってます。ですが、大佐の日々のお仕事振りを拝見するととても…。」 言いながら、手渡される薄茶の封筒を、彼女を指差した手に受け取る。 「…善処しよう…。だからもう休職したまえ。上官命令だ。」 手の中の封筒を開いて、中身を出しながら。 目はホークアイを見詰めたまま。 彼女が頷くまで、反らさない。 「…上官命令であれば、お断り出来ませんね…。…私が退役しない限り。」 挑発的な言葉を発しながらも、いつもならしっかりと合わせて来るはずの薄茶の瞳を泳がせる。 彼女らしからぬ所作。 突如、決断を迫るタイムリミットに揺れる眼差し。 気丈に平静を装おうとして居る事は知れるが、全く隠せていない。 声すら微かに震えている事に、彼女自身は気付いているのだろうか。 何よりも、その事が見詰める男を満足させているの事にも。 「どちらでも私は良いのだよ、リザ・ホークアイ中尉。」 殊更、フルネームと地位を強調して。 結局、取り出した書類はそのまま机の上で小休止。 「上官命令に従い休職するも良し、命令を拒否する為に退役するも良し。どちらでも私は歓迎だが。」 それと、そろそろ籍を入れさせて欲しいのだがね?リザ。 事も無げに、さらりと言い放つ。 普段仕事中、極々簡単な指示を出す時の様に。 その何気ない言葉に後押しされた様に、少しかすれた声が漏れる。 「いずれは決めなければならない事…とも考えておりましたが…返答は今すぐに…ですか…?」 今度はホークアイが指を組む。 所在無く体の前に降ろした手の、指を組み、まだ視線を泳がせる。 普段はの彼女には見られない、不安気な、落ち着きのない態度。 ロイの目を見られなくて。 彼の眼差しを痛い程に感じながら。 穴が開く位に執拗なそれを肌に感じていても。 その漆黒の瞳を見つめ返す事が出来なくて。 泳いだ視線に理由をつける様に彷徨わせる。 見慣れた執務室の天井、本棚、窓から見える景色。 この執務室の主たるこの机。 そして、そこに座る人。 おずおずと、逡巡の滲む双眼をゆっくりその人物に合わせる。 お互い黙ったまま、絡める、迫る強い眼差し、受ける心細い眼差し。 沈黙を破ったのは、揺れる瞳の震えを止めた女性。 「退役させて頂きます。」 力強く言い放ち、目を閉じる。 再び、この瞳が揺れてしまわない様に。 それが彼に見えてしまわない様に。 腰のホルターごと銃を外し、机の上に置く。 「いきなりだね。愛用の銃も簡単に手放すのかい?」 例え琥珀色の瞳を閉ざしても、隠し切れていない、微かに震える体を見守る。 満足の行く選択に喜びを噛み締めて。 「今すぐと…仰られましたので…。………」 続く言葉を思わせる、一瞬の間。 しかし、開きかけた唇はまた噤んでしまう。 「何かな?」 少し笑みを浮かべて、問いただす。 きっと更なる満足な返答が聞けるであろう予感。 これは、確信。 「いえ…。その…。……主婦に銃は必要ありませんから…。」 躊躇いがちに紡がれる、続きの言葉。 ロイを十二分に満足させる返答。 その言葉を待っていたとしても、実際彼女の声で聞くそれは実に甘美で。 得も言われぬ喜びが電流のように全身を駆け抜ける。 一瞬、頭がくらりとなる程の、極上の言葉。 自然に緩む頬を、引き締めて。 「ありがとう。」 机越しに、手を取って、軽く引き寄せる。 彼女の体が机に触れない様に、細心の注意を払いながら。 揺れる瞳を見つめながら、その指先に口付ける。 目を閉じて、もう一度、その薬指の付け根に唇を落とす。 誓いと共に。 『一生、全力で守る。』 みたいなね。 何を思ったか『勘』の続きを書いてみた。 大佐へのカミングアウトの場面すら書かずに、 未入籍のままリザっちの腹が大きく…。 いかんですな。 ちびちびと夢を見てくのも面白いものですわ。 んで、娘誕生希望。 て、言うか…『上官命令』てお題系のにあるよね…。 つけてから気付いた…。 050516 |