「ランファン。嘘でいいから好きって言ってみて。」 読み物をしていたはずの主にふと名を呼ばれ、控えたまま暫く放置され、挙句の果てにこの言葉。 「は?」 確認に君主の顔を見ようとさえ思いつかない、唐突な言葉。 下を向いて畏まったまま小首を傾げる。 「だめ?」 声の向きからして、彼もまたこちらを見ずに、書物を睨みながら言っているらしい。 直接掛けられたのとは、明らかに違う音質の声。 そして、いまいち気の抜けたような、声色。 真意を測りかねて、しかしだからと言って黙っていても許されようとは思えなくて。 やむを得ず、この状況下で何とか言葉を捻り出す。 「主君を嫌いであろうはずがありません。」 よくよく考えてみれば、若干、的の外れた答え。 しまった、と。 普段ならば、その点を追求される。 「主君を、だろ?俺は?」 言いながら、書物を片手にしたまま、読みながら、器用に面を外される。 勿論、抗う訳になどいかないのだから、為すがままに。 いきなり外気に晒された顔に困惑し、主の言葉の意味を推し量り切れない。 恐らく、面を外されていなくても、無理ではあろうけれど。 それでも、急な行動は思考を混乱させる。 「…何を…?」 言っている事も、やっている事も。 微かな抗議と、助けを求めて、ようやく主を見上げるが、彼の目は相変わらず書物を追ったまま。 一体、どうしろと言うのか。 「ヤオ族の長としての俺じゃなくて、俺個人に、言って。嘘でいいから。」 嘘でいいから。 その言葉に自分が憤慨するのを知っていて、わざと繰り返しているのであろう。 わざと言っている事が余計に腹立たしい。 嘘でなど、ある筈がないのに。 この君主は、一体何を嘘にしたいと言うのか。 「ヤオ族の長であろうとなかろうと、リン様はリン様です。」 憮然とした態度を隠さない儘。 やや強い口調で言い切る。 いつもなら、ここで笑って堂々巡りになる話を終らせてくれる。 自分がどうしても譲れない、意地になっている事を理解してくれているから。 それが、彼なのだから。 「好き?」 的の外れた、と言うより、逸らされる事なく突き進められた当初の目的。 顔は相変わらず、書物に向けられたまま。 声色は気のないまま。 「ですから…」 自分でも、声が更にキツクなったのが分かる。 どうしてこんな子供の喧嘩の様な問答を続けるのだろう。 二の句を告ぐ前に被せられる言葉。 「言ってみてよ、好きって。」 強められたランファンの言葉を無視するべく、少しだけ、声が大きくなる。 それでも尚、視線は明後日の方向。 表情を確認する事も出来ない。 「言えません。」 そちらがそのつもりならば、こちらにも意地がある。 開き直りの勢いで、彼女も切り返す。 「どうして?」 質問の言葉であるのに、疑問の気配が感じられない。 意味の無い、言葉の遣り取り。 意地を張っても、きっとそれすらも流される。 面白みのない、言葉遊び。 意地を張った分だけ、損をする。 それを知っているから、諦める。 「主にその様な・・・」 「俺、個人になら?」 濁した語尾に重ねられた言葉は、ほんの少し苛立ちを滲ませて。 書面を追っていた筈の、視線はそのまま。 但し、全く読み進んではいない書物。 「ですから……」 少しの時間を言葉選びに費やして、ランファンが口を開く。 しかし、考えた筈の言葉はまたしても、奪われる。 「ランファン。」 改まった様に名を呼ばれて、急に視線を合わせられる。 急な行動に、その目に乗せられた真剣な色に、再び思考は混乱しかける。 かろうじて、選んだ言葉達を思い出し、告げる。 「一族の者は皆、リン様をお慕いしています。でなければ、どうして命を掛けてまでお仕えしましょう。」 嘘などあるはずのない、正直な気持ち。 どうして、主はこの気持ちを「嘘でいいから」等と言うのか。 やるせない憤りに、彼の目をキッと見上げる。 「頼むから・・・」 突然、目の前に下りてきた主は、彼女の身体をきつく、強く抱き締めた。 抱きすくめられて、彼の表情が見えない。 声は、こんなにも弱々しく震えているのに。 「ランファン…」 懇願する様に名を呼ばれる。 どうして、その表情を見られないのか…。 震える指先が、微かに、回された腕に触れる。 精一杯の、それが彼女の答え。 一瞬、大きく息を吸い込んだ気配の後、更に強く抱きすくめられる。 痛い位に。 閉じ込められた身体も、抜け出せない心も。 腕の中で、俯きかけた時、首筋に彼の頬擦り。 首筋に直に感じる、その温もりに胸が締め付けられる。 負けてしまいそうな心を叱咤して、俯く。 それでも、どうしても、指先は震えながら、その袖を握り締めてしまって。 うをを。 萌え暴走で、また更新。 若、急に不安になっちゃったらしい。 書いててもどかしくなってきたっす。 ランファン寄り切ない系。 しかし進まないなぁ、リンランは(笑)。 もじもじが得意になってきそうです。 あらやだわ。 |