掠れた声で囁いて
「さーて、寝るかな♪」
テレビを消してソファから立ち上がりながら、大きく伸びをする亮子。
振り返って隣を見れば、ソファの上に体育座りと言う不自然な姿勢で香介が仏頂面を晒している。
いや、長年の経験から察するに、何かしら考え込んでいるのだろう。
これから寝ようと言うのに、消えたテレビの画面を見ながら何をそんなにも悩んでいるのか、亮子には到底理解出来なくて。
「…何やってんだい?」
自然、怪訝な眼差し全開で眉を寄せる。
「…考え事…。」
予想通りの答えが返って来る。
「あーそーかい。あたしゃ寝るよ。」
予想通りの答えだから、当然答えも用意してある。
「おう。」
返される返事も、当然想定内。
しかしながら、そのリアクションは若干想定外。
返事をしても、いつもの様に、取り残されまいと動き出すのかと思っていたら然に非ず。
ソファの上に蹲って膝を抱えたまま動きもしない。
その予想外の香介の行動に、亮子は若干躊躇し、立ち上がったそのままの位置で悩む事暫し。
「先に寝るよ?」
もう一度、促す様に心許なげに繰り返してみる。
しかし、今度は返事もない。
「香介?」
重ねて予想出来ない行動を取られれば、不安になるのが当然と言う話。
それでも動こうとしない幼馴染に、結局手持ち無沙汰の亮子は説得を諦めて立ち去る事を決意した。
「…なあ…。」
小さく溜息をついて歩き出そうとした腕を、後から引かれる。
引くと言う程、力強いものではなく、軽く捕らえる程度のそれはしかし心細さに揺れる彼女の動きを止めるには十分すぎるほどで。
「ん?」
不自然な間を置いて、その捕らえられた腕の意味を問い掛ける。
掌から直に伝わる温度が、熱を帯びたように感じるのは彼の熱の所為か自分の揺らぎの所為か。
「その…なんだ…。」
自分から、行動を起した割りに、腕を掴む男の言葉は酷く優柔不断。
「…何だい?」
何となく、振り向くのが怖くて。
香介に背を向けたまま、少し俯いて重ねて問う。
「…しねえか?」
ぼそりと小さな声で呟かれた言葉。
小さすぎて不明瞭なその言葉は、自分の耳に届いた物で全てなのか、聞き逃した部分があるのか、それすらも分からないほどに滲んでいて。
「…は?」
元来脆く出来ている彼女の堪忍袋の緒は、そのじれったい状況に綻び始める。
顔だけ振り向いて、心底怪訝な顔をして見せれば、腕を掴んだままの香介は慌てたように言葉を紡いだ。
「や…だからその…」
まさかそこまで真っ直ぐに怪訝な目で見られるとは思わず、微塵も察してくれないらしい彼女の表情に拍子抜けして、しどろもどろになる。
「言いたい事あるならはっきり言えよ。寝るんだってば。」
ちょっとじれたように、微量の怒気を含んで放たれる言葉。
今度は亮子の予想以上のリアクションに、香介が戸惑う。
次の言葉なんて、当然用意などしていないのに。
「まあ、すわんなって。」
本題に入ろうにも、まずはこれを宥める所からだと心得た香介は、捕らえたままの腕を解放し、今し方彼女が立ち上がったばかりのソファを手で軽く叩き着席を促す。
不審な目で香介を見ながらそろそろと腰を下ろす亮子の肩をさり気ない仕草で向こう側に押し、向いた背中を抱き竦める。
彼女が言葉を発する前に。
抱き締めているようで、本当は顔を見て面と向かっては言えない意気地なしの心意気。
「嫌だったら、頭冷やすから。」
ぎゅっと回した腕に力を込めて。
彼女の肩口に顔を埋めて、その背中に精一杯の鼓動を伝える。
用意などしていない言葉は、今更焦った所で出てくる訳なんかない。
きっと、この鼓動はどんな言葉よりも雄弁な筈。
強く閉じ込めた腕にそっと亮子の手が触れて、その振動にびくりと身を縮ませる。
その隙に緩んだ腕の檻を抜け出した彼女は肩を回し、背後をとった男の顔を振り返る。
「香介?」
微かな声で己の名を囁く目の前の唇に吸い寄せられる様に口付ける。
呼吸を探り合う、静かなそれ。
唇を離してすぐに、伏せられた眼差し。
その瞼に軽く唇で触れる。
「布団、行くか?」
予想外に掠れた声で囁く自分に驚きつつ、小さく頷く彼女に愛しさが込み上げる。
照れ隠しに抱き上げた彼女もまた高潮した顔を伏せるから、目を合わせる事も出来ないままで二人は同じ褥に向かう。
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無理にでもしめ!!
青々さにぶるぶるしちゃうわ的な何と言うか、かんと言うか。
そんな感じを感じて下さい!!(意味不明)
むしろもうハツカシイわ〜。
081028
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